「IPOは急ぎません」 起業家たちの懐事情

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2018/2/16 7:17
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スタートアップ企業にとって「新規株式公開(IPO)=最優先課題」という時代が終わるかも知れない。2017年の国内未上場企業の資金調達額は過去10年間で最高となった。日本は時価総額50億円程度で上場できる「スモールIPO」が特徴だった。だが上場を急がなくても資金や人材が集まるようになり、米国型のメガベンチャーが育つ環境が徐々に整いつつある。

■未上場でもカネ・ヒト集まる

一橋大卒の高森昂大さん(26)は16年春、東証1部上場の大企業の内定を蹴ってクラウド会計ソフトを手がけるフリー(東京・品川)に入社した。「スピード感があり、社長との距離も近く、やりがいを感じている」と話す。

スタートアップにとってIPOはこれまで1つのゴールだった。上場益を成長への投資に回し、上場企業のブランドで優秀な人材を集める。そんな定説が崩れ始めた。

「今は未上場企業にも資金や優秀な人材が集まる時代。上場は焦っていない」。フリーの佐々木大輔社長の上場に関する考えはシンプルだ。

同社は12年の創業以来、ベンチャーキャピタル(VC)の米DCMや、トヨタ自動車などが出資する未来創生ファンドから96億円を調達した。昨年9月に東証マザーズに上場したライバル企業、マネーフォワードの累計調達額を上回る。

クラウド型名刺管理サービスのSansan(サンサン、東京・渋谷)も「急がない組」だ。

寺田親弘社長は「資金調達手段の1つとしていつでも上場できる準備はしている」というが、DCMや未来創生ファンドなどから総額84億円を調達し手当ては盤石。個人向けサービスをインドでも始めるなど海外展開を加速する投資に充てる。

個人向け名刺管理で競合するウォンテッドリーが昨年9月に上場したが、寺田社長に慌てる様子はない。「限られた投資家の理解を得られれば、ためらいなく投資できる体制の方が、成長期は事業運営をしやすい面もある」

スタートアップを取り巻く環境は金融緩和も背景に大きく変わった。M&A(合併・買収)助言会社のレコフによると、大企業のスタートアップ投資額は17年に過去最高の681億円に達し、5年前の27倍に増えた。

調査会社のジャパンベンチャーリサーチによると、17年の国内未上場企業の資金調達額は5年前の4倍の2717億円。個別の調達額では822社のうち1億円超えが全体の半数、5億円超えも15%を占めた。設立後3~5年と5~7年未満の企業の大型調達が伸び、「ミドル」「レイター」と呼ばれる成長期への資金が増えたことが分かる。

これまで日本のスタートアップがIPOによる資金調達を急いだのは、成長期の資金の出し手が少なかったためだ。しかし、事業の相乗効果を狙う大企業の資金が未上場企業に集まり始めた。

料理動画のデリー(東京・品川)は1月、ソフトバンクなどから成長期の「シリーズD」で総額33億5000万円を調達した。米国で一般的な「D」も日本では珍しい。堀江裕介社長は機動的に動ける未上場のうちに規模を大きくし「M&Aも検討する」という。

創業10年のクラウドソーシング大手ランサーズ(東京・渋谷)も17年12月に10億円を調達した。秋好陽介社長は「株主からのプレッシャーなく事業の成長を優先できる」と話す。

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