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プロ野球、キャンプ名物「特訓」の落とし穴

スポーツライター 浜田昭八

プロ野球のキャンプたけなわ。沖縄、宮崎、高知で、キャンプ名物の「特訓」も盛大に繰り広げられている。軍隊経験のある古いコーチが球界に持ち込んだ「特別訓練」が、今ではすっかりポピュラーになり、「特打」「特守」という用語まで生まれた。

さらに、練習中にあまり食事をとらない外国人選手が、昼食時間に一人で集中的に打撃練習をする「ランチ特打」がはやった。それが日本人勢にまで広がった。このほか、打ち足りない選手や有望な若手が全体練習の終了後に行う打撃練習もあり、それは「居残り特打」と呼ばれている。

柳田らの打撃練習はそれだけに入場料を払っても見たいと思うほど面白い=共同

外国人勢が驚く、日本人の勤勉さが生んだ練習スタイルか。それとも、なにかに打ち込んでいなければ不安という心理が働いたものか。球界だけではなく、特訓という語句は企業の新人教育や学習塾の集中セミナーにまで使われている。

それは別にして、ヤクルトのバレンティンやソフトバンクの柳田悠岐らの打撃練習は、それだけに入場料を払っても見たいと思うほど面白い。プロは常人とは違うパワーや技術を見せるものだが、それが端的に表れるのが打撃練習での打球の飛距離だ。

練習にはそれぞれ意図がある

キャンプ便りは「50スイングで柵越え15本」などという調子で、選手のすごさを伝える。豪打連発といった大ざっぱな表現より、状況がわかりやすい。だが、これがちょっとくせ者なのだ。

解説者の和田一浩(西武━中日)が現役時代のキャンプで「打撃練習でのホームランの本数を、いちいちカウントしないで」と報道陣に注文したことがあった。大きな当たりを飛ばすのは景気がいい。好調な仕上がりの証しではあろうが、それが全てではない。打撃フォームを修正しているときもあれば、右打ちを心がけているときもある、というのだ。

元中日監督の与那嶺要は巨人でプレーしていたある年のキャンプで、まともな当たりが飛ばない打撃練習を続けた。調子が狂っていたわけではない。好球を呼び込むために、ファウルを打つ練習を繰り返していたのだ。これは極端な例だが、外野フェンスを越えない打撃練習にも、さまざまな目的がある。

内野手の守備特訓もキャンプの華だ。内野手とノッカーがマンツーマンで1000本ノックを繰り広げる。「それが捕れんか」「ノッカー、しっかり打て」といったやり取りが面白く、見物客も大喜び。元巨人監督の長嶋茂雄と一塁手中畑清の組み合わせは、宮崎キャンプの特守名物になったほどだ。

内野手の守備特訓もキャンプの華=共同

この練習にも落とし穴がある。速い打球に飛びつき、選手が土まみれになるシーンは絵になるしファンも喜ぶ。だからその繰り返しになるのだが、内野ゴロには高く弾む当たり損ねの打球が結構多い。ダッシュして不安定な姿勢で送球しなければならないケースが多い。その練習を重ねるのが大切だが、どうしても土まみれの「特守ショー」に流れる。

問題は実戦を想定しているか

「肩は消耗品」という考えが行きわたり、投手の特訓は少ない。それでも、キャンプ中に1、2度は「投げ込み」をするのがいいと思っているコーチ、投手はいる。一度に200球も漫然と投げても、なんの効果もない。相手打者やボールカウントを想定して投げ込んでいるかどうかが問題だ。

投球練習場へ時折、主力打者が現れる。打席に立って、球筋やストライクゾーンを確認するためだ。すると、味方の打者にぶつけてはいけないと萎縮する投手がいる。このタイプの投手はなかなか伸びない。

ソフトバンクの和田毅は新人時代、監督の王貞治が立っても、平然と胸元へ投げ込んだ。最近では巨人・畠世周が臨時コーチ松井秀喜にぶつけそうになって、頼もしいと褒められた。

大相撲に「稽古場横綱」、ボクシングに「ジムファイター」がいるのと同じで、プロ野球にもキャンプで目立つだけの「キャンプ男」がいる。打撃投手の素直な球を柵越えに打ち込んで酔っている打者。目を見張る速球を投げるのに、同僚や監督を迎えて萎縮する「ブルペンエース」。そんな選手がキャンプをにぎわしただけで、どれだけ消え去ったことか。

実績のない若手は、なんとしてでも目立って首脳陣に認められたい。3、4年で「キャンプ男」を卒業して、本物になる選手もいる。それはだれ、と注意して各球団のキャンプ終盤を見つめたい。(敬称略)

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