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eスポーツ・プロ元年 ゲーマー増加なるか

ゲーム対戦競技「eスポーツ」を普及させようと、ゲーム業界が新手を繰りだした。ゲーム情報誌出版のGzブレイン(東京・中央)などが10~11日に幕張メッセ(千葉市)で開いたゲームイベント「闘会議」で、初めてプロライセンスが発行された。eスポーツは海外で先行してビジネスとして定着している。出遅れを挽回するには、クリアすべき課題も多い。

「プロになった実感はないけれど、素直にうれしい」。パズルロールプレイングゲーム「パズル&ドラゴンズ」の大会「パズドラチャレンジカップ闘会議2018」で優勝した大学生のスー☆さんは、トロフィーを手に語った。スー☆さんはeスポーツの業界団体、日本eスポーツ連合(JeSU、東京・中央、代表理事・岡村秀樹セガホールディングス社長)からプロライセンスの取得権利を受けとった。

発行手数料を支払い、正式にライセンスを取得すれば「プロゲーマー」になれる。ゲームだけで生計を立てていくつもりかどうかを尋ねると「まだ分からない。金銭的にゲーム一本で生活できるのなら考える」と、悩ましそうな表情を見せた。

パズドラや格闘ゲーム「ストリートファイターVアーケードエディション」「鉄拳7」などの大会を開催した闘会議の会場には、2日間で約7万2000人が訪れた。さらに513万人超が動画サイト「ニコニコ動画」などで、会場からのライブ配信番組を視聴した。

JeSUはスー☆さんら大会の成績優秀者15人にプロライセンスの取得権利を与えた。発行手続きが必要とはいえ、実力はプロとみなされる。過去の大会などで実績のあるプレーヤー30人への授与をあわせると、45人のプロゲーマーが誕生したことになる。

日本のゲーム業界は、今回の闘会議がeスポーツ普及の契機になると期待している。プロライセンスの発行によって、高額賞金の大会が開催しやすくなるためだ。日本では現在、ゲーム開発会社が自社ゲームの大会に高額賞金を用意すると、景品表示法に触れる恐れがあるとされる。そのため大会の規模は小さく、注目度も高くなかった。

プロライセンス制度を導入し、高額賞金の受け手をプロゲーマーに限定することで、ゴルフや将棋のように大型大会を開催する。国内外の有力プロゲーマーも出場するようになれば、来場者やライブ動画の視聴者が増え、スポンサー企業も相次ぐ――。こんな好循環をつくろうとしている。

プロライセンスが発行されたことを受け、カプコンやソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)などのゲーム開発会社は早速、日本で初めて100万円超の賞金を用意した。消費者庁は「プロであれば仕事の報酬として賞金を受けとる。(賞金は)『景品』に該当しない」(表示対策課)と示す。

海外では賞金総額20億円を超える大会が存在する。オンライン戦略ゲーム「Dota2」の世界大会「ザ・インターナショナル2017」の賞金総額は、史上最高とされる2478万ドル(約27億円)だった。優勝チームは1086万ドルを獲得した。韓国ではプロゲーマーの人気が高く、なりたい職業ランキングの上位に入るほどだ。

米調査会社のスーパーデータリサーチとカドカワによると、16年の世界のeスポーツ市場は8億9200万ドル。うち約7割をスポンサー・広告収入が占める。海外では若年層が中心となって大会を観戦するため、彼らに商品・サービスをアピールしたい企業が賞金などを拠出するビジネスモデルが確立されている。

米インテルなどの有力企業がスポンサーになっているほか、サッカーなどのスポーツチームがeスポーツに参入するケースも多い。闘会議の賞金総額は2815万円。日本の過去の大会よりは多いものの、世界と比べると見劣りする。

JeSUのプロライセンスは現在、パズドラやストリートファイターVなど6作品を対象にしている。JeSUは対象作品を増やす方針。SIEの盛田厚取締役は「eスポーツの盛りあがりを感じている。eスポーツの普及のため、今後も大会を開く」と強調する。

ゲーム業界以外の企業もeスポーツの普及を見すえて動きだした。サイバーエージェントのインターネット広告事業子会社、CyberZ(東京・渋谷)は、東京都内にあるeスポーツの番組収録スタジオを近く改装する。同社はゲーム専門の動画配信サイトを運営している。スタジオを広くして大会形式の番組も多く制作する。

一方、課題も残る。プロライセンス制度の対象となるには、JeSUから認定してもらわないといけない。日本独特のシステムだけに、海外のゲーム開発会社などが人気作品の認定を取得し、大会を開催するかどうかは不透明だ。

日本のゲーム開発会社が海外と同じような大型大会を開催するには、世界でプレーされる作品であることが重要になる。日本の消費者だけが注目するゲームでは、海外からプロゲーマーやスポンサー企業を集められないからだ。ストリートファイターなどに続く「グローバルゲーム」が欠かせない。日本のゲーム業界の競争力も問われる。

eスポーツの観戦者は現在、ゲームの愛好家が多いとみられる。2年前からeスポーツを観戦している東京都在住の女性(26)は「(ゲームをプレーしない)視聴専門のファンや女性が増えてきた」と変化を指摘する。ゲームを遊んだことのない消費者も引きつける仕組みづくりも普及のカギとなる。

幕張メッセ(千葉市)で10~11日にゲームイベント「闘会議」が開催され、ゲーム対戦競技「eスポーツ」のプロライセンスが日本で初めて発行された。一方、以前からeスポーツで生計を立てている「プロゲーマー」が存在する。プロライセンス制度の導入により、増加が見込まれるプロゲーマー。彼らはどんな生活をしているのか。

高橋さんは1日10時間、練習することもある

「日本で高額賞金の大会が開かれるようになればうれしい」。「ボンちゃん」という愛称で活動するプロゲーマー、高橋正人さん(30)は語る。プロライセンス発行をきっかけに高額賞金の大会が多くなれば、日本人プロゲーマーが増えてeスポーツの普及につながると期待する。

高橋さんはカプコンの格闘ゲーム「ストリートファイター」の選手。大会で好成績を収め、2015年にオーストリア飲料大手のレッドブルとスポンサー契約を結んだ。eスポーツの大会運営などのTOPANGA(トパンガ、東京・中野)が高橋さんのマネジメント業務をしている。

野球やサッカーなどのプロ選手と同じように、1日の多くを練習時間にあてる。「長いと10時間ほど練習している」(高橋さん)。起床は正午から午後2時。明け方まで練習することが多いためだ。食事をとったら体力維持のため、おおむね2日に1回のペースでスポーツジムへ行く。ランニングと筋力トレーニングを1時間ずつこなす。

軽く食事をして、午後4~5時ごろから自宅で練習を始める。国内外のプレーヤーとのオンライン対戦で腕を磨く。5時間ほど続けて練習し、疲れを感じたら中断して休憩する。再開すると翌日の午前7時までプレーするケースもある。1週間うち2日はほかのプロゲーマーと対戦する。

高橋さんはかつてマージャン荘で働いていた。職場近くのアミューズメント施設で有名プロゲーマー、ときどさんに出会ったのがプロゲーマーになるきっかけだ。真剣に練習するときどさんを間近に見て「これはプロの仕事だ」と思い、プロゲーマーを職業にしようと決めた。

現在はレッドブルから支給される給与や交通費に加え、TOPANGAの給与、大会の賞金、イベントの出演料などを得ている。レッドブルからの収入が最も多く、4割ほどを占める。これまでの年間獲得賞金は400万円が最高だった。

レッドブルからは金銭のほか、同社の飲料やロゴ入りの衣服が季節にあわせて届く。「着る服のどこかにレッドブルのロゴが付いている。スポンサーを受けてからは服を買わなくなった」(高橋さん)という。

ストリートファイターは世界各地で開催される予選の成績がポイントとして加算され、上位の選手が決勝大会に出場するシステム。「ポイントを稼ぐため、海外と日本を何往復もしないといけないこともある。体には良くない」(高橋さん)。日本でも人気ゲームの大会が多く開催されるようになれば、日本人プロゲーマーが活躍しやすくなると考える。

高額賞金の大会開催を歓迎しながらも、「優勝賞金が200万円程度だと人生はかけられない。それくらいの水準だとしたら、挑戦者はそれほど増えないのではないか」とも話す。プロゲーマーを目指す若者には「趣味を仕事にすると、楽しかったことが楽しくなくなることもある。じっくり考えたほうがいい」と訴える。

(企業報道部 桜井芳野)

[日経産業新聞2018年2月14日付]

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