2019年4月20日(土)

切らないゲノム編集で創薬 東大発エディジーン

2018/2/11 6:30
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遺伝子をピンポイントで修正するゲノム編集技術の開発競争が、医療産業のなかで激しくなっている。個人に合った治療に期待が大きいためで、エディジーン(東京・中央、森田晴彦最高経営責任者)も独自技術を磨く。富士フイルムなどから15億円調達、日本の医療会社として最初の実用化を目指している。

エディジーンは米ボストンにラボを構え、ゲノム編集技術の改良を続けている

エディジーンは米ボストンにラボを構え、ゲノム編集技術の改良を続けている

ゲノム編集は、アミノ酸が二重らせんで続く遺伝子の一部分を切り取り、別の遺伝子を組み込む技術だ。肉づきのいい魚や牛などを作りだして食料不安をなくそうという考え方がある一方、世界で急速に医療分野に資金が集まり、医薬品実用化を目指した競争が始まっている。

ゲノム編集は米国研究者が開発したクリスパー・キャス9という手法がよく使われる。遺伝子を切るハサミの機能を持つ酵素「キャス9」と、酵素を遺伝子の狙った場所に運ぶ分子「ガイドRNA」を使う。

エディジーンはこの技術を活用しながら独自の編集手法を編み出した。遺伝子を切らないことによって、体に異常が生まれるリスクを抑える。さらに、酵素を小さくしたことで細胞内部にまで届くため、様々な治療で効果を持たせられる。

米国で2017年、クリスパー・キャス9を使った医薬品の実用化に向けて臨床試験が始まり、競争は新しいステージに入った。ただ森田氏は、他の編集手法とくらべて自社の方法は「遺伝子を切らないため、安全性でリードできる。先行企業より早く実用化できるかもしれない」と期待を込めている。約7000あるとされる遺伝子疾患のうち20ほどが創薬のターゲットだ。

エディジーンはキャス9の酵素からハサミの機能を取り除く。これで、目的の遺伝子と違うものを切り取ってしまうリスクをなくす。ガイドRNAと一緒になって遺伝子の目当ての場所に向かう役割だけ残す。

エディジーンが遺伝子を編集する方法は、特殊な因子(たんぱく質)で、もともと設計されていた通り正しく働くよう遺伝子をコントロールするやり方だ。長い遺伝子の配列のなかの特定部分がしっかり動くよう働きかけるという。

遺伝子を切らずにコントロールする技術は他にも出始めている。エディジーンの技術もそのひとつ。同社はさらに、遺伝子の二重らせんがある細胞内部にまで、酵素を届ける仕組みを築いた。そのために酵素の大きさを従来より小さくした。

細胞内に入り込める安全なウイルス「アデノ随伴ウイルス」などに、酵素が乗って運ばれていくように仕立てた。これまでの酵素は、アデノ随伴ウイルスよりも大きかった。結果的に医薬品が効きやすくできるのではないかと期待される。酵素を小さくできたのは世界的に有名な東京大学大学院の濡木理教授が開発した生体分子の立体構造の解析技術を応用しているからだ。

エディジーンはこの新しい技術を「クリスパー・ガンダム」と命名している。現在、膵臓がんと非アルコール性脂肪性肝炎を対象に、遺伝子の働きを正常にする医薬品を開発中だ。2年後に米国でヒトへの投与を始める予定で、そこからさらに5年後の販売開始を目指す。

エディジーンは16年に創業し、米ボストンのラボで研究者6人が開発にあたっている。濡木教授も社外取締役として参加している。実用化に資金が必要なため17年11月に約15億円集めた。最大の4億7000万円を出資したのは富士フイルム。伴寿一執行役員は「当社の技術と組み合わせ、エディジーンの新薬を実用化に近づけたい」と話す。当社の技術とは、薬を体内に運ぶ微少なカプセル「リポソーム」のこと。そこに酵素を乗せられないかというわけだ。

ゲノム編集技術を巡っては米国を中心に研究開発が活発になっている。25年の市場規模は世界で85億ドル(約9200億円)に上るとの予測もある。クリスパー・キャス9を活用した創薬では肝臓疾患向け製品を開発するインテリア・セラピューティクスなど米ベンチャー3社がリードする。販売にいたった製品はないが、既に新規上場を果たしてそれぞれ200億円超を調達。スイスのノバルティスやドイツのバイエルといったメガファーマと提携している。

日本勢はゲノム編集で出遅れが指摘されてきた。特許庁によると、1993年~2014年の間に出願されたゲノム編集関連技術の国籍別の特許数は米国54.5%、中国18.8%、欧州18.4%と続き、日本は3.3%にとどまる。暮らしやビジネスを変えるゲノム編集市場で日本のエディジーンに寄せられる期待は大きい。

(企業報道部 秦野貫)

[日経産業新聞2018年2月8日付]

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