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背信の三菱マテリアル 品質不正で「あきれた新事実」

三菱マテリアルの竹内章社長は8日、都内で緊急記者会見を開き、三菱アルミニウムなどグループ3社で新たな品質不正が発覚したことを発表した。顧客の信頼をさらに裏切る格好となったが、竹内社長は問題収拾のために当面続投する意向を表明した。「栄光のスリーダイヤ」の礎を築いた屈指の名門は自浄作用を発揮し、三菱グループとして最も大切にしてきた「社会の信頼」を本当に取り戻せるのか。

「多大なご迷惑をおかけして申し訳ありません」。8日午後の会見で竹内社長は深々と15秒も頭を下げてこう語った。2017年11月24日にグループの三菱電線工業と三菱伸銅での不正を発表してから、竹内社長の謝罪会見は4度目だ。お辞儀の角度が最も深くなったのは無理もない。新たに発覚した不正が驚くほどの内容だったからだ。

不正が新たに発覚したグループ3社は三菱アルミ、アルミ加工の立花金属工業(大阪市)、自動車部品のダイヤメット(新潟市)だ。いずれも顧客の要求を満たさない製品の検査データの書き換えや一部検査の不実施などがあった。5社が出荷した問題製品の取引先は合計で約750社。同じく不正で批判された神戸製鋼所の525社を大きく上回った。

業界関係者をあきれさせたのは、三菱マテ本社の不祥事対応のお粗末さだ。17年11月の不正発表後にも有力子会社で過去に不正があった三菱アルミは社内の特別監査の対象にならなかった。監査が着手したのはほぼ1カ月後だ。認証機関による国際標準化機構(ISO)の取り消し処分などを受けて品質担当の社員らが現場に出向き、1月下旬になって不正を見つけた。それまで「不適合品」の出荷が続いた。

三菱アルミ子会社の立花金属に対する調査はさらに遅く1月15日になってからだ。同業他社の幹部は「あまりにもずさんで、対応が遅すぎる」と指摘する。

三菱マテは今回の問題を受けて2月から国内外の約120拠点で「臨時品質監査」に着手。経営陣は当初、製造拠点に対して「書面調査」などにとどめていた。これが問題の発覚を遅らせた。三菱マテの小野直樹副社長は「最初の時点でさらに踏み込んだ調査が必要だった」と弁明した。

ダイヤメットのデータ改ざん行為は1月24日に三菱マテリアルの社員通報窓口への内部告発で発覚している。ダイヤメットは三菱マテ本体の書面調査にも虚偽の報告をしていたとみられている。竹内社長が謝罪会見で不正の実態を徹底的に究明するとしていたが、それができていなかった。

竹内社長は当初、不祥事について「直接不正行為を行った人間のコンプライアンス意識の低さ」と現場に責任を転嫁するような発言をしていた。だが、本社の経営陣の対応は後手に回るばかり。信頼回復どころか、名門の看板に傷をつける事態を招いている。

三菱マテリアルは三菱グループで特別な存在感がある。三菱財閥の創始者である岩崎弥太郎氏が1871年(明治4年)に鉱山事業に進出してグループの礎を築いた。それだけでなく、竹内社長が三菱マテの会社紹介で誇らしく語っているように日本の近代化に重要な役割を果たしたからだ。

 三菱マテリアルは1990年に金属製錬の三菱金属とセメント部門の三菱鉱業セメントが合併して誕生。金属ではトップクラスの事業規模で素材の総合デパートをめざしたが、10年前と利益水準が変わらず、直近まで3回連続で中期経営計画が未達に終わっている。

かつては主力の銅、超硬工具、セメント、電子材料がほぼ同等の利益を稼いだが、主力4事業の「稼ぐ力」が低下している。2018年3月期の連結経常利益は前年同期比25%増の800億円の見通し。ただ、ピークの08年3月期の1359億円の6割程度だ。

グループ会社の数は約200社。巨艦を動かすのは容易でないのは確かだが、「歴代経営トップが末端の事業を把握できてない」(素材メーカー首脳)とされた。

それだけに15年に社長に就任した竹内氏に対する期待は大きかった。1977年に旧三菱金属に入社し、ほぼ一貫して法務部門を歩んできた。2014年に発生した四日市工場(三重県四日市市)の爆発死亡事故などで危機管理担当の役員として奔走。巨大企業を統括する自他ともに認める「法務・総務のプロ」だったからだ。

竹内社長は工場勤務の経験がほとんどなく、会社生活の大半を人事や法務部門で過ごした。営業部門や製造現場よりも内務官僚が力を持ったことで、「現場で起きている本当の情報が上がらなくなっている」(三菱マテのグループ会社関係者)と指摘する声もある。

竹内社長は8日の会見で自らの経営責任について「しかるべき時期に適切な対応を取りたい」と強調し、明言を避けた。同社では前任社長の矢尾宏氏、その前任の井手明彦氏は5~6年の任期だった。就任から3年に満たない竹内社長にとっては続投の思いが強いはずだが、それが許されるのかは不透明だ。

創業以来の未曽有の危機で経営トップの「本気度」がグループの末端まで伝わる必要がある。それができなければ、負の連鎖にストップがかからず、傷口がさらに広がりかねない。

(企業報道部 大西智也、鈴木泰介)

[2018年2月9日付 日経産業新聞]

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