富士フイルム、iPS治療実用化へ脱自前
富士フイルムホールディングスは8日、iPS細胞を使った再生医療製品で武田薬品工業と提携すると発表した。米子会社が開発中の製品について薬事規制の対応や販売面で協力する見通し。医薬品は長い時間や膨大なコストが必要で開発リスクが高い。富士フイルムは治験などで実績のある武田と組むことで、力を入れる再生医療分野で実用化を急ぐ。
8日付で共同事業を進める優先交渉権を武田薬品に与えた。武田は富士フイルムに一時金を支払い、開発中の製品の効果や安全性評価、実用化に向けた取り組みで協力する。両社の共同事業は初めて。
対象とするのは重症の心不全患者に投与して心筋機能を回復する製品。富士フイルム子会社で製薬向けにiPS細胞を供給する米セルラー・ダイナミクス・インターナショナル(CDI)が開発し、治験を目指している。CDIはほかに4つの疾患向けに再生医療製品を開発中で、分野ごとに提携相手を選ぶ。
富士フイルムは日本初の再生医療製品を発売したジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J-TEC)を2014年にグループ化して再生医療事業を拡大。15年にCDIを、17年には細胞培養の栄養剤「培地」の技術を持つ和光純薬工業を武田から買収した。
相次ぐ買収で再生医療製品の開発・生産に必要な技術を獲得したものの、自社で医薬品を市場投入にまでこぎつけた経験がない。医薬品の開発は通常10年以上を要し、ヒトに投与して効果や副作用を確認する治験や薬事規制への対応などに、時間や費用がかかる。治験は一般的に1000億円超が必要とされる。
一方、武田は多くの医薬品を世界の市場に投入してきた実績がある。治験の実施に欠かせない医師のネットワークや、規制対応の知見、販売網など製品の実用化と普及に必要なノウハウを借りる。武田と組むことで製品の価格に直結する開発コストの抑制にもつなげる考えだ。
富士フイルムは08年に富山化学工業を買収、医薬品分野に本格参入したが、まだ収益に貢献できていない。なかでも市場成長が見込まれているiPS細胞を使った再生医療製品は注力分野だ。
ペーパーレス化で市場が低迷する複写機事業では米ゼロックスを買収し、規模のメリットを追求することで苦境を乗り切ることを決めた。次の成長分野と位置づける医薬品分野も武田との提携を機に「脱自前」を進め、早期の黒字化を目指す。
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