2018年6月23日(土)

ゴープロ不振が示す、ハード系スタートアップの現実
VentureBeat

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コラム(テクノロジー)
IoT
2018/2/12 6:30
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 臨場感のある動画を撮影できる「アクションカメラ」という分野を開拓した米ゴープロの直近の業績は最悪のニュースだと受け止められた。だが、内情はもっと悪い可能性さえ十分にある。もっともゴープロの運命は、独立系のハードウエアによるスタートアップ企業全般に、もっと根源的な問題があることを示している。

ゴープロの「ヒーロー」。アクションカメラの市場を確立した

ゴープロの「ヒーロー」。アクションカメラの市場を確立した

 ゴープロが1月上旬に業績見通しを下方修正して以来、家電製品のスタートアップから相次ぎ悪い知らせが届いている。玩具メーカーの米スフェロはスマートフォン(スマホ)で操作する玩具が年末商戦で低迷したのを受け、従業員45人を解雇した。落とし物を追跡できる端末を手掛ける米タイルは、事業を「見直す」必要があるとして社員30人を削減した。さらに、ウエアラブル端末メーカーの米フィットビットは、昨年格安で買収したスマートウオッチ(腕時計型端末)メーカー、米ペブルテクノロジーのサービスをついに今年の夏で打ち切ると発表した。

 ちなみに、フィットビットが17年11月に発表した7~9月期の決算は、1億1300万ドルの赤字だった。これは9カ月近く前に約100人のリストラを断行した上での数字だ。それでも、同社は少なくともまだ存続しているだけましだ。ウエアラブル端末のジョウボーン、電子タバコのエヌジョイ、デジタルアートのエレクトリック・オブジェクツ、ドローン(小型無人機)のリリーロボティクス、睡眠トラッカーのハロー、そしてタブレット端末のフゥフーの場合はそうならなかった。もちろん、「つながるジューサー」のジューセロも同様だ。

 各社の窮状はそれぞれ異なるが、基本的には同じ問題を示している。大手IT(情報技術)企業がハードウエアの売り上げを独占している状況では、独立したハードウエア系スタートアップが売り上げを築き上げるのはほとんど不可能だという問題だ。

 これは10年前にはそれほど驚くべき見方ではなかった。ハードウエアには巨額の先行投資や生産能力を生み出すための設備投資、販売に必要な物流、商品を置いてもらうマーケティング力、強烈なブランドが必要だったからだ。

 その後「ハードウエア系スタートアップの黄金時代」が到来した。

 インターネットのおかげで、1990年代後半には起業のすそ野が広がり、保管コストの低下、ブロードバンドとクラウドの普及でこのトレンドに拍車がかかった。これによりウェブサービス、それからアプリが登場した。数人の若者が連休中に、寮の部屋で飼い犬をはべらせながら改造を加えれば、開発できるような代物だった。

 その後、こうしたトレンドはハードウエアと交わった。スマホ時代の到来により大半のコンピューター機能をスマホでこなせるようになったため、簡単にネットに接続できる機器が増えた。クラウドファンディング大手キックスターターは手軽な資金調達手段を提供。3次元(3D)印刷により試作品をすぐに作れるようになり、製造の外注もレンタルで利用可能になった。さらに、電子商取引のおかげで、実際の店舗に出向いて商品を置いてもらうよう頼む必要もなくなった。ハードウエアは突如として、それほど遠い存在には思えなくなった。

 ハードウエアの急成長ぶりは米ラスベガスの有名な家電見本市「CES」の軌跡からたどることができる。

 筆者は最後にCESを訪れた14年にこう書いている。「CESの出展企業は3200社、展示スペースは200万平方フィート(フットボール競技場35個分に相当)で、前年の3000社、192万平方フィートからそれぞれ増え、いずれも過去最高を記録した。これまではスタートアップコーナーだった『Eureka Park(エウレカパーク)』には、前年比40%増の200社が出展した」。

 では、現状はどうか。CESの発表では、17年の出展企業は4000社、展示スペースは260万平方フィートを超え、エウレカパークだけで600社が参加した。18年の最終的な数字はまだ明らかになっていないが、エウレカパークへの出展企業は800社、展示スペースは275万平方フィートに上ったとみられている。

 これに伴い、機器の種類も爆発的に増えたが、この現象がずっと続くわけではないのは明らかだった。大半の機器には、十分な関心や消費者、ニーズがなかったからだ。

 それでも、こうした状況を打破できるハードウエアのスタートアップがあるはずだ。

 確かに、あるにはある。ただ残念なことに、こうしたスタートアップには「アマゾン」「グーグル」「アップル」という名がつく。しかも、近ごろではこうした企業がハードウエアの売り上げの大半を吸い上げている。豊富な資金力を持ち、研究開発に資金を投じ、時間をじっくりかけ、一つの製品が失速したり、浮き沈みがあったりしても、沈没しない長期的な見通しもある。

 だが、小さな独立企業ではそうはいかない。それを如実に示しているのがゴープロというわけだ。

 ゴープロのスポーツカメラはブランドとしての強烈な特徴と個性を備え、旋風を巻き起こした。だがこうした機器は、安い後発品の参入で結局は値下がりしてしまう。アップルのような企業は新たな機能やデザインに巨額の資金を投じ続け、自社製品のエコシステムを拡充することでこうした動きを長い間はねつけてきた。もっとも、それができるのは世界で最も企業価値が高い高収益企業だからだ。

 ゴープロも似たような手を打とうと試みたが、ことごとく失敗に終わった。ドローンの開発にも挑んだが、発売前に大幅な遅れが生じ、16年に発売を断念した。それが原因でこの年2度目の人員削減に追い込まれ、結局はドローン事業からの撤退を決断した。

 防水機能と音声操作機能を備えたカメラ「ヒーロー5」を発売しても状況は変わらなかった。ヒーロー5やヒーロー6の新モデルを次々と高価格で投入したが、消費者が関心を示さなかったため、大幅な値下げを強いられた。

 そしてコンテンツの問題だ。ゴープロのユーザーが生成したコンテンツは膨大な量に上っており、これが同社に面白いチャンスをもたらしている。同社はユーザーが作った大量の動画を管理、保存、編集しやすくするソフトウエアを投入したが、収益にはそれほど貢献できていない。

 さらに、自前のコンテンツ基盤を開発し、ユーチューブのチャンネルで膨大なアクセスを誇るコンテンツの活用にも取り組んだ。

 ゴープロは14年、米マイクロソフトの元幹部でネット通話大手スカイプのトップを務めたトニー・ベイツ氏を社長に迎え入れた。ベイツ氏の任務の一つはこのコンテンツ基盤の開発の監督だった。広告収入に加え、ゴープロ製品の販売増加や関心の拡大を期待されていたが、実現できなかった。ベイツ氏は16年末、大量リストラのさなかにひっそりと退任した。

 これでも悪いことばかりだが、状況はさらに悪化している。

 ゴープロは1月上旬、17年10~12月期の売上高見通しを2カ月前の4億7000万ドルから3億4000万ドルへと大幅に下方修正した。さらに、従業員を1254人から1000人に削減する方針も打ち出した。最も多かった15年の1500人から3分の1近く減ることになる。

 ゴープロの業績低迷を受け、既に集団訴訟の動きが出ている。さらに、身売りのうわさを否定したものの、現時点ではこれが最良の選択肢だとみるアナリストは多い。

 一方、ゴープロの株価は急落している。同社は14年6月に上場し、株価は同年9月に1株93.70ドルで最高値を付けた。ところが現在では、5.50ドル前後で取引されている。

 ゴープロがこの悪循環から抜け出すとは思えない。経営資源や人員を削っている上に、スマホに搭載されているカメラはさらに強力になり、後発品の単価は下がり続けているからだ。ゴープロに打つ手はない。

 では、数千社に上る他のハードウエア系スタートアップはどうだろうか。当時は賛否両論あったものの、米オキュラスVRの創業者らが米フェイスブックに身売りしたのは、今や先見性があったといえる。オキュラスが独立企業だったら、仮想現実(VR)端末の売れ行きが事前に期待されたほど芳しくない今の状況で存続できただろうか。豊富な資金を提供してくれるフェイスブックの傘下にいるので、これは大した問題にはならない。

 一方、他のハードウエア系スタートアップの選択肢は限定的だ。ニッチ分野で小規模を維持するか、製品がヒットして熱心な買い手が現れ次第売り抜けるかのどちらかしかない。

 CESが示すとおり、ハードウエア系スタートアップの起業家らはこうした現実を意に介していないようだ。起業自体は簡単すぎるほど簡単だ。だが気の毒なことに、ハードウエアの世界では失敗は悪いことだが、中途半端に成功するのはもっと悪いという奇妙な現実がまかり通っている。ずっと大きな痛みを伴う破綻が避けられないからだ。

By Chris O’Brien

(最新テクノロジーを扱う米国のオンラインメディア「ベンチャービート」から転載)

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