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日本ハム、大谷の穴は外国人で埋まるのか

野球データアナリスト 岡田友輔

 米大リーグ球団アスレチックスのユニークなチームづくりを描き、映画にもなった野球小説「マネーボール」。統計学に基づいた「セイバーメトリクス」と呼ばれる指標で選手を評価し直し、限られた資金で強豪チームを編成した画期的な手法は新しい野球観を構築し、その後の球界に多大な影響を与えた。進化を続けるセイバーメトリクスの考え方を紹介しながら、少し違う野球観戦の視点を提案する。

昨季半ば、Aクラス入りの望みが薄れた日本ハムは早々と今季を見据えたチームづくりにかじを切った。若手を積極的に起用する傍ら、球宴に出場したベテランの谷元圭介をはじめ、ルイス・メンドーサやエドウィン・エスコバーを次々と放出した。日本では類をみない割り切った手法にファンは一抹の寂しさを覚えたかもしれない。しかしチーム編成の特色はこうした低迷期に一段とあらわになる。ここでは感情論を離れ、日本ハムのチームづくりを貫く哲学について考えてみたい。

まずは不振の分析から。2016年の日本一球団がどうして17年は借金23のリーグ5位と迷走したのか。理由は至極単純だ。打てないし、守れなかった。得点はリーグワースト2位の509、失点は同3位の596で差し引き87のマイナスだ。セイバーメトリクスの手法で内訳を算出すると、おおよそ責任の3分の2は攻撃面に、3分の1は投手陣にあったことが分かる。

パ・リーグ優勝を果たした16年、大谷は一人で10勝以上をもたらしたことになる=共同

16年との最大の違いは投打で大活躍した大谷翔平が故障もあって機能しなかったことだ。セイバーによる評価手法のひとつに、ある選手が出たことで控えレベルの選手に比べてどれだけ勝利数が上積みされたか、という指標がある。16年の大谷は投手で5.8勝、打者で4.6勝のプラス。つまりひとりで10勝以上をもたらし、貯金にして20の違いを生んだ。通常は最優秀選手(MVP)級の選手でも貢献度は8勝程度。16年の大谷は文字通り、桁が違った。

ところが17年の貢献度は打者で2.3勝、投手で0.5勝にとどまった。すべてがかみ合った16年の再現を期待するのは酷としても、この落差は痛い。さらに、機能しないのは大谷だけではなかった。野手陣では中田翔を筆頭に田中賢介、中島卓也ら主力が軒並み不振に陥った。ポジション別の比較では、パ・リーグの平均以上に得点に貢献した日本ハムの野手は主にブランドン・レアードが守った三塁手と、離脱するまで打率4割をキープした近藤健介が入った指名打者だけだった。

大谷の米国移籍が予想できた今季を見据え、日本ハムが昨季半ばから取り組んだのが若手の積極的な登用だ。打席に立った選手の平均年齢をみると昨季の日本ハムは12球団で一番若い25.9歳。最も高い巨人とは5歳弱の開きがあった。月別でみると6月の26.6歳をピークに若返りが目立ちはじめ、9月には24.4歳まで下がった。打席という限られた資源を若手への投資に使ったことが見てとれる。

投資はそれなりに実を結んだ。例えば3、4月の合計や7月には2割1分台、6月には2割3分台だったチーム打率が9、10月合計で2割4分台に上昇。リーグ平均と比べた月間の得点能力もワースト月のマイナス30点台からマイナス7点台に改善した。

とはいえ、今年の日本ハムが上位進出を狙うには発展途上の若手野手を当てにするだけでは厳しい。今年は大谷に加え、セットアッパーのクリス・マーティン、抑えの増井浩俊というブルペンの柱も抜けた。昨季途中に放出した3投手も合わせた年間270イニング程度をどう埋めるかがチームの浮沈を左右しそうだ。

カギを握るのは新外国人である。今年のチームにはメジャー通算17勝で先発候補のニック・マルティネス、抑え候補のマイケル・トンキンら3投手と、左の長距離砲オズワルド・アルシアが加わった。過去3年、最高でも2億円弱だった新外国人への投資が今年は5億円(金額は推定)。自前の若手が育つまでの間を外国人でつなごうという戦略だ。同じく下位に沈んだロッテやヤクルト、中日と比べ、この辺りの手当ては日本ハムが最もしっかりとやった印象を受ける。下馬評は高くないかもしれないが、新外国人たちが期待通りに働けばAクラス入りは十分可能だと私はみている。

記念写真に納まる(左から)マルティネス、栗山監督、トンキン、ロドリゲス=共同

日本ハムのフロントは12球団を見渡しても個性的だ。大きな特徴は毎年優勝を追わないことにある。基本的にはAクラスを維持しながら緩やかな世代交代を進め、選手たちの脂が乗りきるタイミングで何年かに一度、優勝を狙う。伸びしろが大きい若手に機会を与えるとともに、年俸に比べて貢献度の低いベテランや外国人は実績があってもちゅうちょなく放出する。フロントが嫌われ役になる覚悟が徹底している。

こうしたことができるのは育成システムに自信があるからにほかならない。フロントが時間と労力をかけて選手一人ひとりの成長スキームを描き、それを現場の監督やコーチと共有する。野球の技術だけでなく、体を大きくするために練習量を制限したり、寮での座学を通じて人間力の向上を図ったりと多角的な視点で取り組んでいる。しかしその一方で、川島慶三(現ソフトバンク)、吉川光夫、石川慎吾(ともに現巨人)のような伸び悩む選手は早めに放出する。少子化の時代、限られた人材と原資を最大限に活用する発想から大谷の二刀流も生まれた。

こうしたことを踏まえると、清宮幸太郎はつくづくいいチームに入ったと思う。得点への貢献度は出塁率と長打力のかけ算で決まる。一塁に中田、指名打者に近藤と当面のポジションは埋まっているが、日本ハムであれば双方を兼ね備えた清宮という貴重な人材を大きく育ててくれるだろう。

 岡田友輔(おかだ・ゆうすけ) 千葉県出身。大学卒業後、民放野球中継のデータスタッフやスポーツデータ配信会社勤務を経て2011年に独立。株式会社DELTAを立ち上げ、野球のデータ分析やプロ球団へのコンサルティングなどを手がける。著作に「デルタ・ベースボール・リポート1」など。42歳。

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