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G7にも招かれたIoT時代の守護神 セルテック

ソフトウエア開発のセルテック(東京・渋谷)が、あらゆるモノがネットとつながる「IoT」分野で注目を集めている。カギとなるのは1つの機器上で複数の基本ソフト(OS)を動かすハイパーバイザーと呼ぶ技術。半導体設計の英アーム・ホールディングスとの出合いで実現し、「IoTの番人」として名乗りを上げた。

英アームの技術から着想

2017年9月、イタリア北部トリノで開かれたG7の情報通信・産業相会合。イノベーター会議に日本代表として登壇したセルテックの江川将偉社長(40)は、居並ぶ関係者に語りかけた。

「人工知能(AI)で大切なのは情報のコントロール。データの安全性を担保できなければ多くの人が不利益を被る」

江川氏が09年に創業したセルテックの名を一躍有名にしたのは、ハイパーバイザーと呼ぶソフト技術だ。

パソコンや家電、クルマなどのCPU(中央演算処理装置)に組み込み、1つの機器の上で複数のOSを同時に動かすことができる。これらの機器が不正なアクセスやウイルスの攻撃にさらされた場合、瞬時に保護用OSを動かして大事なデータだけを守る。

従来はサーバーに使われていたこの技術を、「モノ」に落とし込んだことがポイントだ。IoT時代にはクラウド側だけでなく、モノの側でのセキュリティー対策が求められる。

ヒントは半導体の影の主として知られるアームからもたらされた。江川氏が創業前に勤めていた電子部品商社の取引先だったが、新開発のセキュリティー技術が顧客に受け入れられないと言う。

「トラスト・ゾーン」と呼ぶ技術で、今ではアームが主要半導体に全面導入する計画だ。16年に3兆3000億円でアームを買収したソフトバンクグループの孫正義会長兼社長も、巨額買収を決断した理由としてこの技術を挙げている。

トラスト・ゾーンの特徴は、ひとつの半導体チップ上でOSを動かす領域とそれを守る領域を分けることにある。

「これは仮想化できるのでは」と考えたと言う江川氏。仮想化とは主に複数の端末の機能を1台のサーバーに集約する技術を指す。ただ江川氏が注目したのはCPUだ。

この技術を組み込むことでCPU上で複数のOSを同時に動かせると考えたのだ。4人のエンジニアを引き連れて東京・渋谷のマンションの一室にこもってセルテックを創業した。

たった3カ月で完成したハイパーバイザー。前例がなく当初の顧客の反応はいまいちだったが、大手自動車メーカーが採用を決めたことで風向きが変わった。

NTTグループとも提携し、用途も住宅向けや社会インフラ、電力などに広がる。18年の売上高計画はまだ10億円だが、25年には1000億円という大目標を掲げる。

彼女に振られて起業決意

江川社長は昨年のG7でも講演した

今や注目の若手経営者の仲間入りをした江川氏。ここまでに数奇な道のりを歩んできた。

父親の影響で4歳からプログラミングを学んだ江川氏は、高校受験で地元・大阪の最高峰の私立校に挑んだが見事に失敗。進学した公立工業高校では、周囲に大学を目指す同級生は皆無だった。高校の授業は熟睡を決め込み、放課後に大手予備校に通う毎日を送った。

幼い頃から「大きくなったらガンダムを作りたい。いや、どうせならスペースコロニーを作ろう」と夢見た江川氏はカリフォルニア州立大学で航空宇宙工学を学ぶ。米ボーイングへの就職が決まり、同社を経て米航空宇宙局(NASA)を目指そうと夢を膨らませていた時、交際していた日本人女性が帰国した。

「夢か彼女か」。思い悩んだ江川氏は彼女を選び、後を追って帰国した。ところが「夢のないあなたに興味がなくなった」とあっさり振られる。行き場のない気持ちを「いつか起業する」という次の目標に置き換えて前を向いた。

だが研究職を目指した自分にはノウハウがない。そこでまずは企業に就職し営業、マーケティング、マネジメント、経営を各3年経験するという「12年計画」を立てた。

最初に選んだのが半導体商社のPALTEK。採用面接で「営業を3年やって辞めます」と豪語したが1年目の成績は散々だった。そこで受注を獲得するためのシミュレーションをA3用紙一枚にまとめて実行する独自の手法を考え出して2年目で営業成績が1位に。宣言通りに3年で退職しトーメン(現豊田通商)に移った。

転職3年目の29歳で新事業の担当者を任されるが肩書は課長。「なんで部長とちゃうねん」。ささやかな反発で名刺には肩書を書かなかった。

この頃、日本の電機産業の弱点を思い知らされる出来事があった。台湾の半導体メーカーがソフトを無料にする販売戦略に出たところ、アジアの顧客が一気に流出した。「これからはソフトが主体になる」。ところがハードの性能にこだわる日本の電機メーカーは構造変化に気づいていないように思えた。

だが、逆に言えばソフト軽視の風潮は起業のチャンスと映った。「人にまねできないソフトを作れないか」。そう考えた末に行き着いたのがハイパーバイザーだった。

時代はIoTの入り口に差しかかり、江川氏にとっては追い風が吹く。ただ、少年時代の夢を忘れてはいない。「いつかはガンダム」。遠い先の話かもしれないが、そんな遊び心が「世の中にないものを」という発想の原点になっている。

(企業報道部 杉本貴司)

[日経産業新聞 2018年2月7日付]

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