意外な画風 大阪で育む イラストレーター 中村佑介さん(もっと関西)
私のかんさい

2018/2/6 17:00
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■人気バンドのアルバムジャケットや単行本の表紙などを数多く手掛けるイラストレーターの中村佑介さん(40)は建築家の父と洋服デザイナーの母の下、兵庫県西宮市で生まれ育った。独特の雰囲気を持つ少女を繊細なタッチで描く画風は、大学時代の試行錯誤を通じて誕生した。

 なかむら・ゆうすけ 1978年兵庫県生まれ。大阪芸術大デザイン学科卒。アジアン・カンフー・ジェネレーションのCDジャケットなどで注目され、森見登美彦さんの小説「夜は短し歩けよ乙女」など単行本カバーのイラストも手掛ける。

なかむら・ゆうすけ 1978年兵庫県生まれ。大阪芸術大デザイン学科卒。アジアン・カンフー・ジェネレーションのCDジャケットなどで注目され、森見登美彦さんの小説「夜は短し歩けよ乙女」など単行本カバーのイラストも手掛ける。

アニメーションやゲームが大好きな子供だった。夢中になったのが、チョコレート菓子のシール集めが流行した「ビックリマン」や格闘ゲーム「ストリートファイター」。自分もいつかは社会現象を巻き起こすようなイラストを描いてみたい、と漠然と思うようになった。

イラストレーターを志して大阪芸術大に進学。ゲーム会社などを志望するようになったころ、「ときめきメモリアル」などの恋愛シミュレーションゲームが流行するなど、業界で求められるキャラクターのイメージも大きく変化していた。「就職には格闘ゲームに出てくるような力強い男性より、かわいらしい少女のイラストを描けた方が有利だよ」。周囲からのアドバイスだった。

就職したい一心で、気が進まないまま少女のイラストを描き始めたが、どうしても評価されない。「なぜ現実にあり得ないほど瞳の大きな少女ばかり求められるのか」「身の回りにいるような女の子を描いてはいけないのか」。疑問ばかりが募った。

考えを巡らせるうち、たどり着いたのは「見る人が感情移入さえできれば、身近な女の子を描いても十分魅力的に映る」との結論。少女の背景に、主人公の性格やストーリーを表す景色や物を盛り込んでみると、大学内で「面白い絵を描くやつがいる」と話題になった。

■卒業間近に就職を諦め、フリーランスとしての活動を選んだ。友人らに反対されるなか、背中を押してくれたのは父と母。「あなたには才能がある。自分を信じて」。「親バカ」とも感じる両親の言葉は、その後の売れない時期の支えになった。

少女の背景に描く素材の意外な組み合わせが作品の魅力の一つ=飛鳥新社提供

少女の背景に描く素材の意外な組み合わせが作品の魅力の一つ=飛鳥新社提供

大した人脈も持たないままで活動を始めた。当初の仕事は、大学の知人に紹介してもらったチラシやフリーペーパーの挿絵が中心。依頼料は1本5千円程度で、大阪・天王寺に借りた風呂なし6畳半の家賃さえ払えない月もあった。苦しい毎日を過ごすなかで知り合ったのが、4人組バンド「アジアン・カンフー・ジェネレーション」のボーカル、後藤正文さん。デビュー作のCDジャケットを担当させてもらった。

後藤さんがヒットを飛ばすのと歩調を合わせるように、本の表紙やテレビCMのキャラクターなど、次第に多方面から仕事の依頼が舞い込むようになり、2009年、大学以降の10年間に仕上げた作品をまとめた初の画集「Blue」を出版した。

■画集は発行部数約9万5千部を記録。17年7月には、あべのハルカス(大阪市阿倍野区)で個展を開き、約3万人が来場した。売れっ子となった今も大阪に居を構えるが、今後は海外での活動も見据えている。

仕事を始めてからは、天王寺かいわいで暮らしてきた。超高層ビルのすぐ近くに労働者たちの集まるあいりん地区や、戦前の雰囲気を今も残す飛田新地がある。都会と下町、豊かさと貧しさなど、様々な要素がいびつに混じり合った街。そこから醸し出される刺激が、自分の個性につながっている。

摩天楼とライオン、富士山とパンダなど、少女の背景に描く素材の意外さは、大阪から与えられた自分の武器。見る人に「変だけど面白い」と感じてもらえていると思う。その面白さを海の向こうに伝えるには何が必要だろうか。これからの自分が吸収すべきものを、この"ごちゃ混ぜの街"で見つけ出したい。

(聞き手は大阪社会部 大畑圭次郎)

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