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レースの谷間、どう過ごす? 綿密な逆算がカギ

ランニングインストラクター 斉藤太郎

前回紹介した右股関節のケガは完治しました。最近ではサッカーレフェリーの自主トレキャンプや、フルマラソンの4時間ペースランナーを担当できるまでに状態が戻ってきました。

それにしても、寒い日が続いています。拠点の千葉・佐倉では最低気温がマイナス3~4度を記録する日が珍しくありません。朝、走られる方が少なくない中で、体調が芳しくないランナーがいつも以上に多いと感じています。

寒い時期は栄養バランスを考えた食生活に気を使おう

長距離ランナーは一般人と比べても体脂肪率が低く、乾いた空気をたくさん体内に取り込むので、実は抵抗力が高くないようです。疲労が蓄積してくると、微熱やせきが止まらないことや、背中の張りなど不快な状況が続くことがあります。そこで大事なのが栄養バランスを考えた食生活。果実ジュースなどで十分なビタミンを摂取してください。弱りがちな内臓に配慮して、食事はゆっくりとよくかんで食べましょう。走ったあとはオレンジジュースなどでクエン酸と果糖を速やかに補給すると、疲労回復の観点からは効果的です。

フルマラソンシーズンは中盤戦から終盤戦へと移行しようとしています。今回はその間の過ごし方のヒントを紹介させていただきます。

9週間後にサブ3達成

1月28日の大阪国際女子マラソンでサブ3を達成したランナーの話です。2カ月前にあたる11月末の大会は、自己ベストながらも3時間2分台でサブ3を逃しました。とても悔しい思いをされたそうです。次のレースまでは9週間。サブ3を逃したとはいえ、自己新記録で走ったダメージは浅いわけがなく、必ずどこかで疲労が出てきます。いま先に休んでしまうか、それとももう少しの間は練習で攻めて、疲労感が出てから休むべきか。悩むところです。

先に休んでしまうとそのままズルズルと日にちがたってしまう予感がしたので、もう少し練習を続行することになりました。取り組んだのはレース10日後に30キロ(ジョギングペース)、数日空けて1キロをフルマラソン想定ペースよりやや速く走るインターバル、朝+夕の2回に分けて長く距離を踏む練習などです。

頑張って走る設定ではなく、ゆとりあるスピードで走る。休みたい気持ちや徐々にやってきた疲労感に耐えて3週間ほど頑張りました。1人で取り組むこともあれば、クラブメンバーと走って気持ちが後押しされて乗り越えるやり方も併用しました。休養期なしでの練習続行によるケガが怖かったのですが、ストレッチなど自己メンテナンスにも細心の注意を払いました。

レースから1カ月、谷間の期間が半分ほど過ぎた年末に身体的にも精神的にも疲労がピークに達し、ボトムの状態になりました。ですが、これは予定通り。先に取り組むべき30キロ走などを消化していましたし、次のレースまでまだ1カ月残されています。焦ることなく練習を落とすことができたのでした。そして、次レースの3週間前あたりから気持ちも体調も上向きだし、少しずつペース感覚を取り戻すメニューで仕上げていきました。

その結果、大阪国際女子マラソンは2時間58分台で見事、サブ3を達成できました。前レースでの課題を整理して修正を図り、「適切なメニューで負荷をかける」「ダメージを抜き去る」「仕上げる」といったことを時間内にまとめられたことが快走につながったといえます。私が見ている限り、失敗者の多くは「負荷が適切ではなかった」「ダメージが残ってしまった」「仕上がりきらなかった」というはみ出した状態でレースを迎えることが多いようです。

調子を上げるためのコツと注意点

レースをうまく走れなかった方の多くは「スピードが不足していたことが失敗の理由」と考え、次のレースに向けてはスピード練習に偏ったメニューを組みがちです。

順序立てて練習を積もう。最後まで粘れる体調に仕上げるのが大切だ

そのまま次レースに臨むとどうなるでしょうか。序盤はまだスピード練習の貯金がものをいって快調に進めますが、中盤から終盤にかけて急激にペースが落ちていき、最終的には前のレースと同じような結果に陥るはずです。つまり、失敗の原因はスピードの不足ではなく、多くはスタミナ不足や疲労が残っていたことに求められます。押さえておきたいのは、30キロを過ぎてからも想定ペースで押し通せる力と、最後まで粘れる体調に仕上げることなのです。

そのためには、スピードよりもむしろレース想定ペース、もしくはそれよりやや遅めのペースを基準に、ゆとりを持って走り続けるメニューやジョギングを中心に組み立てていくことがポイントとなってきます。

3つの参考メニュー

(1)5キロ走(フルマラソン想定ペース)×2~3本→計15キロ

レースペースで呼吸は楽かどうかなどを確認しながら走ります。1本1本区切り、ストレッチなどをはさみます。セット間は5~7分間。改善点をその都度冷静に修正でき、徐々に体調が上向いてくることに期待します。

(2)10~12キロ走(フルマラソン想定ペース)+10キロランニング→計20~22キロ

20キロペース走(フル想定)のように1回にまとめてレースペースで走るのは良い練習なのですが、ダメージも大きくなります。レースまでの日数が少ない中で、安心感を得られても、その疲労が残って体調がレースまでに戻らない。ここが落とし穴です。10キロ程度にとどめておき、あとはペースを落としてのジョギング。ペース感覚の確認とスタミナ補充とを兼ねたメニューです。

フルマラソンの調整練習としてハーフマラソンに出る方も多いと思います。このあたりの考え方を参考に、練習レースで思いの外走れてしまい、その先に体調が下降線とならないように、ある程度自制心をはたらかせて走ってみてください。30代あたりまでは回復が早く、あまり気にしなくてもよいのですが、40歳を超えてからは疲労の抜け方のペースが遅くなってきますので注意です。

(3)前日に刺激を入れる

・200メートル×10本(間に100メートルジョギング)

・上り坂快調ペース200メートル×5~7本(下り坂はジョギング)。この前後に20分程度のジョギング

・ジョギング後に100メートル快調ペース×10~20本(間に100メートルジョギング)

ゆとりをもって走りたい、良い状態で臨みたい練習の前日に取り入れるスパイス的なメニューです。いずれもタイム設定をする必要はありません。心地よく呼吸し、心拍数を上昇させるイメージ。大きな動きを取り入れることで体に刺激が入ります。練習後にはスカッとしています。これ自体では走力が向上することは考えにくいのですが、大切な練習の前日にこういったメニューを取り入れることで、一段階キレの増した体調で臨むことができます。結果としてペースにゆとりを持って走れます。

近くに坂がない方、距離を測る手段がない方でしたらジョギングの残り約20分を次のように使いましょう。1分ずつ交互に「快調スピード」と「ゆったりジョギング」を7~10セット繰り返す走り方でも代用が効きます。

ずっと長い時間をかけて臨むシーズン1本目のマラソンと異なり、シーズンの2本目、3本目の練習計画の法則は一様ではありません。それまでのレースと練習の経過、現状と課題を整理した上で導きだされるべきです。

フルマラソンシーズンは終盤へ。現状と課題を整理して練習計画を立てる

例えば「スタミナ対策で40キロ走は必ずやっておきたい」という気持ちがあったとしても、課題を完全に克服する時間が足りない場合などはバランスも必要です。組み立て方の正解は1つではありません。

一方で正しくない方法として、安心感を得たいがために詰め込みすぎ、前述したような時間が足りなくなってしまう傾向が多く見られます。自分はどういった経路を進んできて、何月何日にどういう記録でマラソンを走りきりたいのか。そのためにはあと何日残っているのか。いま一度ダイアリーを見て逆算してみてください。

<クールダウン>何ができていないか認識する
 自分を客観的に確認することを「メタ認知」と呼ぶそうです。「肩が上がっていないか」「少しリラックスしよう」など、ランニング中に自分をコーチする自分に気づくことはありませんか。
 「自信を持て」というアドバイスは大切です。一方で、できていない自分を認めず「できている」と思い込んで自信を持つことは「おめでたい」ことです。自分は何が分かっていないのか、何ができていないのかに自ら気づくことで課題を認識する能力がメタ認知です。スポーツに限ったことではなく、勉強などでも幼少期からこうした習慣が育まれる環境をつくってあげることが、その先の伸びにつながっていくそうです。
 ランニング指導で思い当たるのが、スキップ系のエクササイズや「アジリティラダー」という縄ばしごのトレーニングでの光景です。1つの種目をマスターするまで通常は何回か繰り返して取り組みます。はたから見ていると、前回の結果を超えていこう、前よりも上手に取り組もうという姿勢が強く表れている人と、ほとんど改善されない人との差がよく分かるものです。記録を伸ばす方は、自らできていない部分を認識した上でコーチからのヒントを活用されている人のような気がします。

 さいとう・たろう 1974年生まれ。国学院久我山高―早大。リクルートRCコーチ時代にシドニー五輪代表選手を指導。2002年からNPO法人ニッポンランナーズ(千葉県佐倉市)ヘッドコーチ。走り方、歩き方、ストレッチ法など体の動きのツボを押さえたうえでの指導に定評がある。300人を超える会員を指導するかたわら、国際サッカー連盟(FIFA)ランニングインストラクターとして、各国のレフェリーにも走り方を講習している。「骨盤、肩甲骨、姿勢」の3要素を重視しており、その頭の文字をとった「こけし走り」を提唱。著書に「こけし走り」(池田書店)、「42.195キロ トレーニング編」(フリースペース)、「みんなのマラソン練習365」(ベースボール・マガジン社)、「マラソンと栄養の科学」(新星出版社)など。

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