大和ハウス樋口会長、「総合生活」を100カ国で
2020年の東京五輪・パラリンピックに向かって活気づく建設・不動産業界で、大和ハウス工業は16年度の売上高が約3兆5000億円強と先頭を走る。だが五輪後には建設・不動産市場は縮小する可能性が高い。目標に掲げる10兆円の売上高への道筋をどう描いているのか。樋口武男会長に聞いた。

――17年度は増収増益で推移していますが、経営環境をどうみていますか。
「多角的な経営で重要なことは世の中の変化に気付くことだ。充足する前に動かなければならない。住宅は必要不可欠な産業だが、日本の新築市場には限界がある。当社は『総合生活産業』を志す。今期の業績に寄与する物流倉庫も総合生活だ。IT(情報技術)社会では物流がカギを握る」
「人工知能(AI)を使った倉庫管理を得意とするスタートアップを17年11月にグループに入れた。ネットで購入したら発注してすぐに手にしたいのが消費者心理だ。高速道路の出入り口に倉庫を建ててどこよりも早く届ける。ただ世の中の変化ははやい。物流倉庫の市場もすぐに飽和状態になる」
――五輪を前に東京で都市開発が進んでいます。
「(建設の特需は)18~19年で終わり、その後は不景気になるとみている。大型の受注が極端に減る。ゼネコンやデベロッパー、住宅の枠を超えた業界再編が進むだろう」
「東京、大阪、名古屋の三大都市圏へのヒトとモノの集中が加速する。地域間の経済格差はさらに広がる。地方は医療などの必要な機能を集約した『コンパクトシティー』に向かう。古い家に住む高齢者に駅の近くに移ってもらい、その家の耐震を強化して地域を再生する取り組みだ。高齢者は動きたがらず、街や団地が老化している。活性化させるには行政、自治体、企業が一体となった対策が必要だ」
――空き家の問題も深刻になってきています。
「賃貸住宅の事業環境は1年前と全く違っている。郊外型のアパートに空室が目立ってきた。ぽんぽんと建てればいいという時代は過ぎた。新しいスキーム(枠組み)を考えなければいけない段階にある。住宅で伸びる分野はアフターケアだ。リフォームの市場が拡大する」
――17年は米住宅会社のスタンレー・マーチン(バージニア州)を買収するなど、海外展開も加速しました。
「大和ハウスは10兆円の売上高を目指している。今は4兆円弱で、先は遠い。国内で上げる売上高の可能性は5兆円くらいまでで、海外を大きくしなければならない。18カ国に展開しているが、近いうちに100カ国以上に持っていく。2000億円ほどの海外の売上高を20倍以上にする予定だ」
「海外での勤務を希望する社員が2000人ほどいる。これは強みだ。地域に根ざしたオーナー家が経営する海外の民間企業とできる限りタイアップし、『ウィン―ウィン』の関係をつくっていく。東京五輪後に日本が不景気に陥ってから海外と言い出したのでは遅い。いずれは中東やアフリカにも出る」
――「ロボットスーツ」を開発するサイバーダインや折り畳み機能付き洗濯機を開発するセブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ(東京・港)にも出資しています。
「『総合生活』という判断基準で、世の中のためになるなら投資をする。ベンチャーを上場させてキャピタルゲインを得るのも魅力だが、大和ハウスがその商品を取り扱う代理店になって世界で売っていきたい。商品力は海外展開で強みになる。理想は空調だけで海外を中心に2兆円の売上高を持つダイキン工業だ。そうした商品を持つには社内だけでは無理なのでベンチャーの力を借りる」
「投資する際には『人』を最重視している。サイバーダインもセブンドリーマーズも直接、経営者と会って判断した。ファンドの創設などは今のところ考えていない。独立独歩でやっていく」

――事業規模が急ピッチで拡大しています。マネジメントの面での課題は。
「企業はヒトなりという。やはり人材育成が大事になる。(次世代の経営者育成を目指して08年に創設した)『大和ハウス塾』にはグループ会社からも出席を募り、幹部になる段階で当社の考え方を吸収してもらう。最近は82ある全国の事業所も順に訪ねている。私も18年に80になる。もう晩年だ。元気なうちに石橋信夫創業者の考え方を伝えていく」
――17年11月に芳井敬一氏が新社長に就任しました。
「芳井社長は普段は東京にいるが、週に2日、大阪本社の私の部屋で昼食を一緒に取っている。よもやま話も含めていろいろな会話をしている。非常に素直で気持ちのいい人間だ。もう少しずるさがあってもいいと思うが、それはこれから身につけていくのだろう。トップ人事を間違えたら会社は終わり。3~5年たたないとわからないが、いい選択だったと思っている」
在任17年、後継が最大の課題
樋口氏が大和ハウス工業の社長に就任したのは2001年4月。直前の00年度の売上高は1兆162億円だった。04年から会長兼最高経営責任者(CEO)を務め、トップ在任期間は17年に及ぶ。その間、物流センターの建設・運営など住宅以外の事業を伸ばし、17年度の売上高見通しは3兆7500億円。事業規模を3.5倍にした。
17年10月まで社長を務めた大野直竹氏(69、現特別顧問)がこう話したことがある。「私は当面の4兆~5兆円の売上高を考える」。その先の絵を描くのは樋口氏の役割だという意味だ。「10兆円」という売上高の大風呂敷を広げ、大和ハウスの成長体質を鼓舞してきた。
物流センターや商業施設などの受注は堅調で、2~3年先までの事業は見通しが立っている。ただ、五輪に伴う特需が終わった暁には、建設業界に「冬の時代」が来るともされている。
住宅では空き家問題が顕在化してきた。物流センターもいつまでも需要が供給を上回るわけではない。「先の先を読む」「周囲が変化に気付く前に動く」という樋口イズムの重要性は増している。
その樋口氏から今回、「自分も晩年」という言葉が出てきた。両膝の半月板を損傷し、週末恒例だったゴルフも楽ではない。趣味の筋力トレーニングも控えている。時代の観察眼と語り口は健在だが、体力の衰えは待ってくれない。
17年11月、新社長に芳井敬一氏(59)が就いた。「私が任命する社長は3人目」と樋口氏は苦笑する。折しも競合の積水ハウスで「中興の祖」である和田勇会長兼CEO(76)が退任することになった。「樋口時代」を引き継ぐという大仕事が迫っている。(北西厚一)
[日経産業新聞 1月30日付]











