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日本流ビジネス、米で起業 500社の福利厚生代行

米国で福利厚生代行サービスを提供するスタートアップ企業のFOND(フォンド、カリフォルニア州)。創業者の福山太郎最高経営責任者(CEO、30)は20代半ばで米国に渡り、いきなり起業した。人材の流動性が高く、優秀な人材を引き留めたい企業の需要をくみ取り、500社以上が同社のサービスを活用する。

FONDの福山太郎最高経営責任者(CEO)
FOND 福山太郎CEO2010年慶応義塾大学法学部を卒業後、シンガポールでシステムエンジニアとして働く。11年片道切符を片手に渡米、起業準備。12年Yコンビネーターに参加。エニーパーク(現FOND)を起業。13年福利厚生代行サービスを開始。16年リワードサービスを開始。17年社名をFONDに変更

起業家養成プログラムに参加

「何の実績もない高校球児が突然、メジャーリーグに挑戦するようなもの」。福山CEOは自身の足跡をこう振り返る。

東京・高円寺育ち。2010年に大学を卒業し、1年間シンガポールのIT(情報技術)企業でシステムエンジニアとして働いた。学生時代にシリコンバレー企業が脚光を浴びており、米国での起業を夢見ていた。「人生は一度きり。やりたいことをやったほうがいい」と、片道切符を握りしめ11年に渡米した。

会社を一緒に起こした米国人の友人とともに、12年1月に難関大学よりも狭き門とされる起業家養成機関「Yコンビネーター」に参加。同プログラムを日本人として初めて卒業した。

だが苦労の連続だった。渡米直後に起業準備をするための「オフィス」は、ファストフード店の駐車場に止めた車の中。高校時代に米国留学経験はあるものの、英語力も不十分。脱獄を描いた人気テレビドラマ「プリズン・ブレイク」を毎日見て言い回しを学んだ。

Yコンビネーターでも3カ月間のプログラムの3日目に運営側に呼び出され、「君らはワーストスタートアップ。資金調達して成功する確率はゼロに近い」と一刀両断にされた。ふがいなさに、思わず涙がこぼれた。

SNS(交流サイト)を応用して共通の友達がいる人同士を紹介するサービスの事業化を描いて参加したが、ゼロからテーマを探すことに。ヒントを求めてYコンビネーターの卒業生に片っ端からインタビューした。

多くの経営者と会う中で、彼らが口をそろえたのは「人材が最も重要」ということ。優秀な人材がいるから良いサービスが生まれ、企業が成長する。ところがシリコンバレーやニューヨークでは転職の頻度が特に高く、人材が定着しない。

上司や同僚がポイント贈る

フィットネスクラブやレンタカーの割引きなど、多様なサービスを取りそろえているのが特徴だ

もう一つ助言を受けたのは、日本人であることを強みにすることだった。「日本で普及し、米国にまだないサービスを探せ」。そう言われ、ひらめいたのが福利厚生代行だった。人材定着という米国企業の課題解決にもつながる。

米国にも従業員向けの福利厚生サービスはあるが、運営を外部に委託するのは珍しい。日本ではバブル崩壊後に保養所を手放す企業が増加したことで生まれたとされる。

営業活動を始めたところ早速手応えを感じた。3カ月間に及ぶYコンビネーターの集大成となる資金調達イベントでは150万ドル(1億6千万円)を集めた。

現在、FONDのサービスは大きく2つ。福利厚生の代行と「ご褒美」を意味するリワードサービスだ。福利厚生代行では、携帯電話料金や映画チケットの割引サービスなど500種類をそろえる。旅先での宿泊など特別な日だけでなく、日常的に使えるサービスに重点を置くのが特徴だ。

リワードは社内の独自ポイントをギフトカードなどに交換できるサービスだ。米国では職場で頑張った人や誕生日を迎えた人に、上司や同僚がちょっとした贈り物をする習慣がある。ポイントを贈りあい、たまったポイントをコーヒー店の商品券など好きな物と交換できる仕組みにした。

米国でも人材確保のために福利厚生を充実させる動きが広がっている。FONDの取引先は決済大手のビザやセールスフォース・ドットコムなど500社を超えた。当初は福利厚生に手が回らないスタートアップ企業が中心だったが、最近では低コストでサービスを充実させたい大企業の採用が増えている。

海外で成功した事業モデルを日本に輸入して起業する経営者は多いが、福山CEOはその逆だ。人脈も市場もない状態での起業だったが、「日本で成功している会社があることが励みになった」。国際通貨基金(IMF)によると、米国の雇用者数は1億5千万人と日本の2.3倍。「米国でトップになれば、世界一になれる」と意気込む。

これまでに合計2500万ドル(約27億円)を調達。サンフランシスコのオフィスで働く従業員は約50人に増えた。米国で新規株式公開(IPO)をめざす。日本のスタートアップ企業の資金調達環境は改善しており、「頭がいい人は、言葉が通じて人脈もあってご飯もおいしい日本で起業したほうがいい」と話す。

それでも「こんな僕が米国で成功できれば、誰もが成功できる。変わるきっかけになれば」。世界一の夢に向かって走る。

(企業報道部 若杉朋子)

[日経産業新聞 2018年1月31日付]

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