川栄李奈 空気を読むのは得意、「察する力」で飛躍へ
2017年は13本のドラマや映画に出演。もはや「AKB48出身」との肩書は必要ないほど、川栄李奈が女優としての存在感を示した。自分の強みを「空気を読むのは得意」と分析。集団(AKB48)にいたから身に付いたという「邪魔をせず、出るべき時には前に出る『察する力』」を生かして、脇役からブレイク。飛躍の18年は映画初主演が控える。

17年に演じた役柄は幅広い。ドラマ『フランケンシュタインの恋』の元ヤンキー工務店員から、『僕たちがやりました』のエロかわ女子高生、au「三太郎」CMの態度がビッグな織姫まで痛快に演じきった。一方、ドラマ『感情8号線』などでは繊細な演技も披露。映画『亜人』では、アクション女優としても可能性を感じさせた。
「『お芝居をしたい』『いろんな役をやりたい』と思ってAKB48を卒業したので、幅広い役柄をたくさん演じられて、すごくうれしい1年でした。私にとってお芝居の魅力は、別人になれること。自分を出すのがあまり好きじゃないというか、苦手なので、役として笑ったり泣いたりできるところが好きなんです。
演じ分けは特に意識してなくて、どんな役でも台本を読んで、『こういう感じかな』と想像して現場に行くだけ。『ここでこうする』とかあまり決めずに、感覚で演じてます。例えば『フランケンシュタインの恋』はヤンキーみたいな子という設定だったので、昔のドラマで見たりしたヤンキーのイメージを膨らませて、明るいヤンキーを意識して演じました。『僕たちがやりました』は、『学校にこういうブリッ子っぽい子がいたなあ』とか思い出しながら、女子に嫌われそうな子を心掛けました(笑)。『僕やり』はラブシーンも多かったですけど、抵抗はなかったです。役者と呼ばれる人は基本、何でもやるじゃないですか。だから、『お仕事なんで!』っていう感じ(笑)。『元アイドルだから』とかは気にしたことがないです」
作品のスパイスとなる存在に
10年、15歳の時にAKB48のオーディションに合格。12年に選抜メンバー入りを果たし、バラエティー番組でも活躍を見せた。14年のドラマ『ごめんね青春!』で女優業の楽しさを知り、翌年、AKB48を卒業。16年のNHK朝ドラ『とと姉ちゃん』で女優として脚光を浴びた。そして17年は、auやオリックスなど5社のCMにも起用。4本の連ドラにレギュラー出演し、オリコンの「2017年ブレイク女優ランキング」では2位に選出されている。
注目すべきは、土屋太鳳や松岡茉優らランキングに入った他の女優が主演作やヒロイン役で躍進したのに対し、川栄は脇役やスポット出演を軸にブレイクした点だ。いわば「若き女性バイプレイヤー」。幅広い役柄を演じる「演技力」が評価されたといえるが、本人は自分の武器をどう考えているのか。
「武器は、地味なところだと思います。顔もそうですけどあまり個性がないので、誰の横にいても害はない、みたいな(笑)。派手さはない代わりに、いろんなものになじめるとは思います。
あとは…空気を読むのは得意です。シーンによって、『ここはこの人が目立つところ』とか役回りがあると思うんですけど、『自分はここじゃないな』と思う時は邪魔をしない。かといって、存在を消し過ぎてもダメなので、出るべき時は前に出る。『察する力』が付いたのは集団(AKB48)にいたからだと思います。バラエティー番組でもけっこう人を見ていて、『ここは自分が出る番じゃない』と思ったりしていたので」

18年は、脇役はもちろん主役へとステージを上げる年となる。1月20日には、長澤まさみ主演の『嘘を愛する女』が公開。ストーカーまがいの行為を繰り返す女子大生・心葉を演じ、作品にスパイスを与えた。3月3日公開の『プリンシパル~恋する私はヒロインですか?~』では黒島結菜演じるヒロインの親友になる女子高生を演じ、少女マンガ原作映画になじんでみせる。
そして秋に公開予定なのが初主演映画『恋のしずく』だ。日本酒の魅力に目覚める農大生役で、ついに作品の「顔」となる。
「主演ということで、本当にありがたいお話だと思いました。17年秋に撮影を終えたんですけど、経験して分かったのは、主演は毎日撮影があるということ(笑)。今までは撮影期間の何日かでおしまいだったのが、毎日、朝から晩まで自分の撮影がある。やっぱり、主演は大変なんだなと思いました。

もう1つ感じたのは、脇を演じる方の大切さです。主人公ってわりと多くの人が共感できる普通のキャラクターが多いと思うんですけど、脇の人には個性が必要で、クセのある難しい役も多い。なおかつ、主役を引き立てる演技をしなきゃいけない。『恋のしずく』で周りの方に本当に引き立ててもらったので、自分が脇に回るときは改めて、主演の方を助ける気持ちで演じようと思いました」
19年は、宮藤官九郎脚本の大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』に出演決定。今後は連ドラ主演にも期待がかかるが、どんな女優を目指すのか。
「息の長い女優さんになりたいです。パッと出ていなくなった、ではなく(笑)。『いつもよく出てるよね』と思われる人になりたい。主演じゃなきゃとかは全然思わないです。お芝居が好きなので、役をいただけるならどんな役でもやりたい。
息の長い女優になるために必要なのは姿勢だと思います。調子に乗ったら、声をかけてもらえなくなる。永遠に調子に乗らず、低姿勢でやっていきたいです(笑)」
(ライター 泊貴洋)
[日経エンタテインメント! 2018年2月号の記事を再構成]
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