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米に金融危機の芽、崩れゆく楽観 07年の日銀議事録

日銀は29日、2007年7~12月の金融政策決定会合の議事録を公開した。後に米金融危機に発展するサブプライムローン問題について、福井俊彦総裁(肩書は当時、以下同じ)は12月会合で「底が見えない」と警戒。景気の先行きへの楽観論に基づく利上げシナリオが少しずつ崩れていく様子が明らかになった。

当時、仏銀のBNPパリバは信用力の低い個人向けの住宅ローンを証券化した商品に多く投資していた。07年8月、同行の運用悪化が表面化。だが直後の会合では福井総裁は証券化などの高度な金融商品について「リスク分散がうまく進んでいる面が評価される話」と述べた。まだ危機感は強まっていなかった。

海外では07年9月、欧州中央銀行(ECB)が確実とみられていた利上げ実施を見送り、米連邦準備理事会(FRB)は利下げに踏み切った。市場はつかの間の落ち着きを見せたが、11月には日経平均株価が1万5000円を割るなど気味悪さが増していく。

日銀内にはなお楽観論が強かった。政策委員のうち、水野温氏委員は07年7~11月に追加の利上げを提案(いずれも否決)。11月会合でも「欧米の主要金融機関は根本的に収益力が高く、業績の悪化はある程度時間を要しても乗り切ることができる」との見方を示していた。

国内経済が堅調だったことに加え、米国経済がつまずいても中国など新興国の需要が世界経済を支えるという「デカップリング論」も強気を支えた。原油も高騰しており、須田美矢子委員は07年11月に「インフレ期待を沈静化させるための利上げは必要だ」とまで指摘していた。

だが楽観論は徐々に薄らいでもいた。「疑心暗鬼が市場に充満している」。07年11月会合では日銀の中曽宏金融市場局長が米欧の空気をこう表現した。福井総裁は12月会合で、米国で住宅価格の下落が加速する様子を「やや不気味な動き」と表現。「不良債権のマグニチュードを事前に計測することは不可能だ」と警戒感をあらわにした。

もっとも、福井総裁には日銀の景気判断などでリスクを強調することに戸惑いがあったようだ。11月会合では「景気の下振れリスクを少し詳しく書くと、すぐに金利変更の距離感と直結させる人が多い」と漏らし、日銀の次の利上げが遠のくと解釈されることへの懸念を吐露していた。

当時政策委員だった西村清彦・政策研究大学院大学教授は「日銀がじたばたしていると見られれば、不安を増幅させかねない面もあった」と当時の事情を説明する。そのうえで「警鐘をもう少し鳴らした方がよかったのかもしれない」と振り返った。

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