2018年10月23日(火)

森ビル、虎ノ門ヒルズ「成り」を探せ

2018/1/29 6:30
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森ビルの創業者、森泰吉郎が生きていたら今の虎ノ門を見てどう思うだろうか。きっとこう言うだろう。「60年前に私が予言した通りになった」――。

愛宕グリーンヒルズの40階にはWiLの出資先がずらり

愛宕グリーンヒルズの40階にはWiLの出資先がずらり

森泰吉郎はもともと横浜市立経済専門学校(現・横浜市立大学)の教授で、1954年に商学部長に就任。1957年には学長選挙に駆り出されるほどになったが、対抗馬のキャンペーンにより敗退、その後きっぱりと大学を辞め、不動産業の世界に入った。

会社を手伝ったのが次男で後に六本木ヒルズを建設する森稔、そして三男で現在、森トラストの会長を務める森章だ。2人の息子に森泰吉郎はいつもこう言っていたという。「日本はこれから高度成長が続く。それを主導する霞が関に隣接する虎ノ門の価値は上がる。土地もビルも売ってはならない」

その通りだった。虎ノ門は日本の高度成長とともに発展し、官庁の外郭団体やシンクタンクなどの需要を吸収していった。同時に虎ノ門に地盤を置く森ビルも成長、ビル名に番号をふった「ナンバービル」を次々と開発、会社は見事に成長軌道に乗った。

そして今、この虎ノ門を舞台に第2の創業が始まろうとしている。虎ノ門プロジェクト。点在するナンバービルを核とする複数の再開発をひとまとめにした大型再開発だ。2022年度末までに立ち上がるビルは合わせて4棟。事業費は連結売上高(17年3月期)の1.5倍の4000億円にも達する。

ただ、今完成しているのは14年6月に竣工した虎ノ門ヒルズ森タワーだけ。残り3棟は今からだ。延べ床面積で合わせて東京ドーム17個分の膨大な「床」が22年度までに新たに出現する。森ビルにとっての戦いはすでに始まっている。

確かに「ヒルズ」ブランドは国内ですっかり浸透、上海環球金融中心(上海市)のおかげでアジアなど海外でも「森ビル」の名前は広く知られるようになった。しかし、100%稼働に持っていくのは簡単ではない。仮にいったんオフィスは埋まったとしてもその後も一定の割合で空室が発生、新たなテナントを誘致する問題は常に発生する。

どうするか――。森ビルが出した解がベンチャーキャピタル(VC)、シリコンバレーを本拠地とするWiL(伊佐山元・共同創業者・最高経営責任者=CEO)との提携だった。

このWiLを選んだところに森ビルの考え方がよく表れている。要するに本気なのだ。大企業だけではオフィスは埋まらないし活力も出ない。間隙を埋めてくれるスタートアップ企業をWiLとの連携で本気で探し出そうとしている。

WiLが特徴的なのはまず出資者だ。13年に立ち上げた1号ファンドの資本金は3億ドルだが、その出し手がすごい。ソニー日産自動車、全日本空輸……名だたる大企業が続々だ。

そしてスタートアップのシーズ(種)をそのWiLの出資者を中心に探し出す。「日本の場合、大学を卒業した優秀な学生はとりあえず大企業に入る。そんな優秀な人材が大企業で様々な開発をしているのに、せっかくの技術を大企業は埋もれさせてしまっている」(共同創業者・ジェネラルパートナーの松本真尚)

シーズを探し出す対象を大企業に絞り込んだWiLの手法は斬新であるうえ成功確率も高い。大企業も自社のなかに可能性を見いだしてもらえればありがたい。まず大企業が自ら社内でシーズを探し出し、定期的に開く「ビジネスコンテスト」に持ち込み、これをWiL側でCEOの伊佐山や松本が「よし、いける」「もっとここを詰めてみて」「最初から考え直してみて」と振り分けていく。

そんな手法で探り当て、日の目を見はじめたスタートアップ企業はすでに数社。現在はWiLが拠点を構える森ビルの愛宕グリーンヒルズ(東京・港)の40階に拠点を置き、この瞬間も成長を続けるが、そのうちのいくつかは、いずれ虎ノ門ヒルズに足場を移す。

もちろんスタートアップ企業の育成を手掛けるのは森ビルだけではない。Aクラスの新鋭ビルに小割りスペースを設け、それなりの賃料でスタートアップ企業に貸し出す大手デベロッパーは多い。ただ、それは容積率のボーナスの見返りである場合が少なくない。

森ビルは違う。真剣勝負だ。見せかけではない。だから松本も森ビルに共鳴した。「何となく森ビルとは肌合いが合う」

=敬称略

(企業報道部 前野雅弥)

[日経産業新聞 2018年1月29日付]

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