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「日本的な曖昧はダメ」 SOMPO社長の人材評価術

SOMPOホールディングスの桜田謙悟社長(上)

SOMPOホールディングスの桜田謙悟社長

損害保険業界を取り巻く環境は厳しい。主力の自動車保険は人口減少に伴い国内市場が縮小。一方、温暖化など自然災害のリスクは増大している。そうしたなか、海外M&A(合併・買収)とデジタル化を武器に大胆な構造転換を進めているのが、SOMPOホールディングスの桜田謙悟社長だ。自らの経験を踏まえたグローバルなマネジメント術やデジタル人材の育成などについて聞いた。

35歳で「グローバル」の洗礼を受ける

――積極的にグローバル展開をしていますが、桜田さんもアジア開発銀行に出向するなど海外経験が豊富です。

「35歳のときにフィリピンにあるアジア開銀の本部に出向し、そこでいろいろなことを学びました。アジア開銀は世界50カ国から約2000人、役人から学者、私のようなビジネスマンまで多種多様な人が集まる組織です。35歳にして、それまでの知識がほとんど役に立たないような状況に置かれたのは、いま思えば、いい経験だったと思います」

「初っぱなから洗礼を受けました。歓迎のランチで、私は『海外勤務も、国際機関も初めてです。右も左もわかりませんがよろしくお願いします』と言ってとりあえずニコニコしていました。ところが同時期に入った経済学の博士号を持つドイツ人は、自信満々の表情でこうあいさつしたんです。『私は皆さんにない経験と知識を持っているはずなので、組織にとって新たなプラスとなるように尽力したい』とね」

「謙譲の美徳」は誤解のもと

「それを聞いて私は『イヤな奴だなぁ』と思いましたけど、彼に対する拍手のほうが、私のときよりはるかに大きかった。そこにいた人たちからは、『桜田さんは、右も左もわからないで来ているなんて、何なんだ』と思われてしまったんですね。グローバルな舞台では、謙譲の美徳は誤解されるので、使っちゃダメだというのを最初に学びました」

 ――実際に仕事が始まってからも苦労されましたか。

「英語もできなくて、最初の半年はストレスで夜中になると鼻血が出るほどでした。配属された人事予算局では、最初にいくつかテストがありました。例えば、アジア開銀のスタッフは何かしらのミッションのために各国に出かけていきますが、その過去1年分のデータを基に、『コストのボリューム効果と価格効果を分けて分析せよ』といった課題が出されるのです。それを30ページくらいの論文にまとめなきゃいけない」

桜田氏は、自分の頭で考えることが大切と強調する

「ドイツ人の経済博士にはどう逆立ちしても知識では勝てません。どうやって自分の考え方を議論のテーブルに載せてもらおうかと必死でした。でも徐々にわかってきたのは、英語では全然かなわなくても、私の場合、算数が得意だったので、数式でかなり勝負できるということ。さらに、専門知識がなくても、実務経験があったので、それを自分なりにそしゃくして組み立てれば、なんとかなるということでした。自分の頭で考えることができれば、『知らないこと』自体を怖がる必要はない。それはいま、社員にも繰り返し言っています」

人事評価もファクトベース

――マネジメントについても何か学びましたか。

「4人くらいの部下を持つようになり、最初は日本での人事評価との違いに驚きました。当時、日本では『今期は厳しい面もあったけど、こういう点は良かった。だから君の評価は平均点だよ』と上司が言えば、部下が『ありがとうございます』と言ってだいたい終わりでした。ところがアジア開銀では、面接になると部下がさっと紙を出してくる。そこに自分がいつ、何をしてどんな成果を上げたか、ずらっとリストアップされているんです」

「その中には評価すべきこともありますが、針小棒大に書かれた部分もかなりある。それに反論するには、単なる記憶ではダメなんですね。こちらも彼らの日常的な行動や成果をメモしておいて、データやファクトを基に議論しなければならない。ここでも日本的な曖昧さは通用しないということを学びました」

グローバルで統一した人事評価制度を導入

――桜田さんの海外で体験した肌感覚もあるからでしょうか。海外の拠点を含め、グループ全体で人事評価を統一しようとしていますね。

「主要なポストに関しては800項目ほどピックアップして、コンサルタントと一緒に、一定の評価軸に従って採点していく作業を進めました。例えばブラジルのAというポジションの仕事と日本のSOMPOホールディングスのBというポジションの仕事を、共通の物差しで測るのです。それによって、個々のポストのジョブサイズ(職務の範囲)やジョブグレーディング(職務の等級)が明確になります。それらが同じであれば、同一国内なら給料は同じ。国が違えばそれぞれの生活水準に合わせて調整します」

 「職種や業種が違っても、ジョブサイズやグレーディングが同じであれば異動もしやすくなります。もちろん、いままでの処遇が高すぎるという結果が出た場合は、話し合って下げてもらうケースもありますが、全体として人事の透明性が大きく増すと思います」

日本型雇用もインプット主義からアウトプット主義へ

――日本型の雇用・人事制度はかなり特殊ですが、そこも変えていくのですか。

グループ全体で人事評価を統一すれば「人事の透明性が増す」と話す桜田氏

「そうですね。私は経済同友会でも人材戦略と生産性革新の委員会で、日本型雇用慣行の改革を強く打ち出してきました。ですからこの点に関してはかなり強い思いを持っています」

「日本企業は全国一律で新卒を採用し、年次に応じた処遇をし、みんなでたくさん働いてインプットに注力すれば、売り上げも上がる、処遇も上がる、という『インプット主義』でやってきました。高度経済成長期にはそれが必要だったし、実際に機能したのですが、それではもう生産性が上がらなくなりました。20年前の時点で、何時間働いたかではなく、どういう価値を生んだのか、いくら貢献したのかという『アウトプット主義』に変わるべきだったのに、うちもそうですが、日本企業、特に大企業は変えきれなかった」

「比較的景気がいい今は、インプット主義をアウトプット主義に変えるラストチャンスだと思います。特に日本のサービス業は先進国の中で最も生産性が低いといわれています。アウトプット主義にいかに早く切り替え、徹底できるか。そこに踏み込んでいかなければグローバル競争には勝てません」

「アウトプット主義で重要になってくるのはマネジャーの任務配分能力です。一つの部や課として、目標とするアウトプットを実現するために、『誰が、いつまでに、どのように達成するか』という分担を明確する。そういうプロジェクトマネジメント型のリーダーを育てていく必要があります」

桜田謙悟
 1956年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒。78年安田火災海上保険(現損害保険ジャパン日本興亜)入社。アジア開発銀行出向、経営企画部長などを経て2010年損保ジャパン社長。12年、NKSJホールディングス(現SOMPOホールディングス)社長

(ライター 石臥薫子)

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