2018年7月24日(火)

大東エナジー、事実上の撤退 2つのリスク浮き彫り
電力自由化の誤算(上)

2018/1/20 6:30
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 2016年4月に全面自由化された電力小売り。異業種から様々な企業が参入し、いまや400以上の新電力が乱立する。ただ、参入から2年もたたずに新電力大手が家庭用から事実上撤退。価格制度の抜け穴を突いて利益を上げていた別の新電力が改善指導を受けるなどひずみも目立つ。制度設計をめぐる大手電力と新電力の意見の対立も落としどころが見えない。自由化の誤算を検証する。

大東エナジーは契約者に他の電力会社への切り替えを求める文書を送付した

大東エナジーは契約者に他の電力会社への切り替えを求める文書を送付した

 「いい部屋でんき」から他の電力会社へ切り替えのお願い――。

 17年12月中旬、大東建託グループの新電力会社、大東エナジーと電力契約を結んでいた広島県の会社員、岩間亮さん(27)のもとへ、前触れもなく一通の文書が届いた。切り替え期限は1カ月以内。それまでに手続きが終わらなくても電気が止まることはないと説明されたものの、岩間さんは電力比較サイト、エネチェンジ(東京、千代田)を通して契約を変更。「年明けは出張もあり、慌ただしい作業に追われた」と憤る。

 大東建託は16年5月、賃貸物件の付加価値向上を目的に、大東エナジーを通じて全国の賃貸物件の入居者を対象に電力供給を始めた。大手電力より3~5%安い料金プランを打ち出し、26万件の契約を獲得。販売電力量シェアは新電力中5位につけていた。しかし17年11月から契約者に対し、順次冒頭の文書を送付。賃貸物件の共有部分への電力供給は続けるが、家庭向けの小売事業からは事実上撤退した。

 大手の一角を占めていた大東エナジーの行き詰まりは、新電力のビジネスモデルが抱えるリスクを浮き彫りにした。

 1つは需要予測の難しさだ。大東エナジーは1~2人世帯が6割以上を占める賃貸物件の顧客を電力供給の対象にした。大東エナジーの高橋浩喜取締役は「平均で月に180キロワット時の電力使用を見込んたが、実際は120~150キロワット時に留まった」と話す。

 大手電力の自由化前の料金体系は電力使用量が増えれば単価が3段階で上がっていく仕組みで、使用量が少ない1段階目の料金はもともと低く抑えられていた。さらに割安な価格を打ち出せば利幅は当然、薄くなる。薄利多売を前提としたモデルでは、需要が見込みを下回ればとたんにそろばんが合わなくなる。

 もう1つは電力調達価格の変動の大きさだ。大東エナジーは販売する電力の9割を日本卸電力取引所(JEPX)で確保していた。ただ17年夏は気温が予測より高く、7~8月の市場価格は前年より平均2割も上昇。大東エナジーは「夏場の市場価格の高騰を受けて事業縮小の検討を始めた」(高橋氏)という。

 さらにJEPXで調達した電力の代金は、2営業日後に支払わなければならないことになっている。一方で契約者から電力料金を受け取るのは1~2カ月後で、資金繰りも厳しい。大東エナジーの累積赤字は数億円に上っていたといい、グループ全体の決算に与える影響が拡大する前に家庭用からの撤退を決めた。

 エネルギー法務手続きを専門とする村谷法務行政書士事務所の村谷敬所長は「需給管理や電力価格の変動に対するリスク管理など電力事業の基本をおろそかにする新電力は他にも多い」と指摘する。市場からの撤退を迫られる新電力は今後も増える可能性がある。

 電力小売事業を拡大させている東京ガスの広瀬道明社長は「事業の継続が難しい電気事業者も出てくるかもしれないので、積極的に譲り受けたい。M&A(合併・買収)もあるかもしれない」と意欲を見せる。

 同社はガスとのセット割りを強みに電力小売りの顧客数が100万件の大台を突破。18年度は158万件をめざしている。1月からは消費電力の少ない世帯向けに1段階目の料金が東電より0.15%安いプランを始めるなど強気の姿勢だ。新電力淘汰の時代はすでに始まっている。

(企業報道部 藤岡昂)

[日経産業新聞 2018年1月16日付]

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