米男児名、「ドナルド」は過去最低 人気は「ノア」に
編集委員 小林明

赤ちゃんの名前には両親や親族の切なる思いや希望が込められている。その変遷をたどってみると時代ごとの世相や社会心理が読み取れて興味深い。なかには話題を振りまく政治家や芸能人による影響を指摘する声もある。今回は米国で生まれた新生児の名前人気ランキングの最近の推移を探ってみよう。まずは男児編から。
ノア、リアム、ウィリアム…、目立つ聖書由来の名前
米国で生まれた新生児で人気なのはどんな名前かご存じだろうか?

米社会保障庁が公表している最新の2016年に生まれた男の新生児の名前人気ランキングによると、首位からノア(Noah)、リアム(Liam)、ウィリアム(William)、メイソン(Mason)、ジェイムス(James)という順番になっている。ウィリアム、ジェイムスはともかく、ノア、リアム、メイソンなどは日本人にはまだなじみが薄い名前かもしれない。だが、米国ではすでにかなりメジャーな名前になっているのだ。
ノアは旧約聖書の創世記に登場する人物の名前で神の命によって箱舟を作り、家族や動物とともに洪水を生き延びたとされる。テレビドラマ「ER緊急救命室」に出演した人気俳優、ノア・ワイリーなどが有名。リアムは3位に入ったウィリアムの短縮形。リアムとウィリアムは同じグループと考えてもよいだろう。
メイソンはもともと職業の石工を現す名字が名前に転じたもの。近年、名前にするのがトレンドになっており、人気が急上昇している。さらに6位以下を見ると、ベンジャミン(Benjamin)、ジェイコブ(Jacob)、マイケル(Michael)、イライジャ(Elijah)、イーサン(Ethan)などの順番で続く。やはり聖書にまつわる名前が多いようだ。
ドナルドは史上最低488位に、トランプ大統領の影響?
最近、米国で話題になっているのが、2017年1月に誕生したトランプ大統領の名前、ドナルド(Donald)の人気衰退。もともとディズニーアニメの人気キャラクター、ドナルドダックなど昔から米国人には親しみのある名前として知られており、1934年にはピークの6位に食い込んでいた。だが、近年は順位低下に歯止めがかからず、2016年は488位と過去最低の順位に下がってしまった。
「トランプ大統領の名前の人気が史上最低に」――。多くの米メディアがこの現象を盛んに取り上げている。
なにかと物議を醸すトランプ大統領の言動は、特定の有権者層の支持固めにはつながっているものの、それ以外の有権者からは猛烈な反発を買っているのも事実。ランキングのドナルドの順位も2015年の443位から2016年の488位へと人気の下落にやや弾みが付いているように見える。
ただ、ドナルド人気の低下は1990年代からジワジワと続いてきたかなり長期的な傾向でもある。1934年の6位をピークに14位(1950年)、19位(60年)、30位(70年)、53位(80年)、87位(90年)、217位(2000年)、377位(10年)と長い時間をかけてここまで低下してきた。
大統領選を通じてトランプ氏が米メディアと冷戦状態にあることを考慮すれば、「トランプ効果」だけが原因なのかどうかはまだ判然としないというのが正直なところ。最終的な結論を出すには、2017年以降のランキングの動向もきちんと見極める必要がありそうだ。
ジェイコブ時代→ノア時代、ウィリアム、メイソンも上位
米男児の名前の流行を細かく分析するため、2009年から16年までの人気ランキングトップ20を見てみよう。

2013年を境にジェイコブからノアに首位が交代したことがわかる。ノアは1995年に99位にランク入りして以来、グイグイと順位を上げ、4年連続で首位に君臨している。14年間続いたジェイコブ時代からノア時代に切り替わった格好。「ノアの箱舟のように激動の時代を無事に生き抜いてほしい」という両親の願いが託されているのかもしれない。
ランキング上位でさらに目立つのはウィリアムの根強い人気。
多少変動しながらも、5位以内をキープしている。ウィリアムはもともと1900年以前から人気の高い名前だった(1900年は2位)が、短縮形のリアムの近年の人気の高まりも考え合わせると、ブームが再来しているといってもよいだろう。このほかメイソンも根強い人気を誇っており、2011年以降は4位以内を維持している。
流行は「10年周期」、変化するメカニズムとは?
一方、勢いが減速してしまったのがイーサン。2009~10年の2位をピークに徐々に順位を下げ、2016年にはとうとう10位にまで落ちてしまった。ジェイデン(Jayden)も2010~11年の4位を最高に順位が急降下。ひところのブームが一段落しているようだ。ジェイデン人気は俳優のウィル・スミスの息子で後に俳優になるジェイデン(スペルはJaden)が誕生した時期とほぼ一致しており、「有名人にあやかろうとしたブームではないか」という見方もある。
なぜこうした流行の変遷が起きるのか?
実は、名前の流行には基本的に「10年程度で入れ替わるサイクルがある」とされる。いったん流行していた名前が10年するとその世代を代表する名前になってしまい、より新しさや変化を求める次の波が続いてやって来るためだ。常にその繰り返し。もちろん例外はあるが、色やスタイルなどのファッションや商品、サービスなどの流行にもいえる現象らしい。
振り子のようにブームが再来する「原点回帰」が起きることもある。流行が一回りして、再び新しさを感じるようになるためだ。
こうした気分の変化が流行の歯車を大きく動かすメカニズムになっている。
年齢が分かる? ロバート=戦前、ジェイコブ=ゼロ世代
人気ランキングで100年以上前から現在まで首位に立った名前の変遷を調べてみると面白い。

ざっくり言うと、ジョン(John)→ロバート(Robert)→ジェイムス→マイケル→ジェイコブ→ノアと推移してきたことが分かる。流行した時代に明確な区分があるのだ。逆に言えば、名前さえ分かれば、相手の生まれた年代を大まかに推測することもできる。少なくとも「あの時代に流行した名前だ」と見当をつけることは可能だ。
たとえばジョンやロバートなら戦前に流行した名前、ジェイコブなら2000~09年のゼロ世代に流行した名前、ノアならここ数年の間に生まれた男児……。こんな推測も成り立つ。
もちろん例外はあるだろうが、ジョン・スタインベック(1902年生まれ)、ロバート・レッドフォード(1936年生まれ)、マイケル・ジャクソン(1958年生まれ)など各時代で代表的な有名人の名前がすぐ頭に浮かんでくる。
ここでもはっきりと読み取れるのが「ブームは10年程度で変化する」という法則。
40年以上も首位に君臨し続けた超人気のマイケルだけは例外だが、どの名前もこの目安にほぼ沿った推移になっている。米国人と付き合いがある人はこの流れを頭に入れておくと便利かもしれない。雑談の糸口にもなりそうだ。
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