2018年9月19日(水)

難病を生きる子ども 孤立する家族
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政策研究
コラム(経済・政治)
2018/1/21 6:30
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 医療技術の進歩で、先天性の大きな疾患などがある新生児でも命を救えるようになった。ただ、助かりはしたが非常に虚弱であったり、呼吸器の装着が必要だったりする子どもが増えた。このような子どもたちへの社会的な支援が大きな課題として浮上している。

一見健常児だが、非常に虚弱という子どもも(心臓病の子どもたちのイベント会場で、横浜市)

一見健常児だが、非常に虚弱という子どもも(心臓病の子どもたちのイベント会場で、横浜市)

 2017年11月の土曜日。横浜市の幼稚園に小さなドーム型の移動プラネタリウムがやってきた。集まった小学生以下の子どもたちは興味津々でドーム内に吸い込まれ、投影が終わるとにこにこして出てきた。

■普通に見えても

 ごく普通の子どもたちに見えるが、ここは先天性の心臓疾患を持つ子どもたちの集いの場。小さなからだで大きな手術を乗り越えてきたものの、非常に疲れやすく、階段を上るのにも苦労したり、かぜをひくと重症化したりする子が多い。常に親がそばにいるため、社会性がなかなか身につかない子もいる。

 この場に参加していた重宗果歩ちゃん(9)もそんな一人。体調管理には十分な注意が必要だ。通っている小学校では万が一の事態に備えて親の付き添いも求められる。頻繁に病院にも通わないといけない。

 弟(6)の世話もあるので、母親の裕美さん(38)は常に大きなストレスにさらされ、「吐き気や微熱が収まらない」という。会社員の夫もできる限り手伝うが限界がある。裕美さんは「学校内での見守りだけでも他の人に代わってもらえたら」と訴える。

 かつて先天性の心疾患の子どもたちは出生時に亡くなることが多かった。一定の配慮をすれば暮らしていけるといった子どもがいることは想定されておらず、政府は歩けない、しゃべれないといった重症心身障害児だけを福祉制度の対象としてきた。それ以外の子どもたちは主に家族だけで面倒をみているのが現状だ。しかしこのままでは、その家族が崩壊しかねない。

 政府はようやく対策を打ち出す。歩けて話せるのだけれども、常に呼吸器や経管栄養など医療的処置が必要といった子どもなどを「医療的ケア児」と称して支援する方針だ。このような子どもは全国に約1万7千人いるという。

 厚生労働省は18年度から保育所などがこのような子どもを預かりやすいよう、看護師を配置したり、保育士に医療行為の研修を受けさせたりするモデル事業を始める。

 ただ医療的処置は常時必要ではなく、一見健常児だが非常に虚弱という果歩ちゃんのような子どもについてはまだ人数すら把握されていない。明確な支援もない状況は変わらない。

 民間はこのような子どもたちにも光を当てようと、動き出している。

■民間が先行

 18年春、横浜市南区に1~2歳児を対象とした定員12人の小さな保育所がオープンする予定だ。名称は「すもーるすてっぷ保育園」。小児科の経験が長い看護師が常駐し、一般の子どもに加え、病弱な子どもや心臓疾患などの内部障害を抱える子どもを預かる。

 さらに、病弱な子が別の保育園に移ったり、小学校に入ったりする際に看護師や保育士を付き添わせる派遣サービスも計画している。

 運営はNPO法人Small Step。代表の赤荻聡子さん(37)は先天性の心臓疾患がある娘の母親でもある。普通の子どもと同じように育てたいと地域の保育園に申し込んだものの、「責任が持てない」と軒並み断られた経験から「病児を地域で受け入れる環境づくりの一つとして保育園をつくることにした」と話す。

 今後、公的な支援も含めて広げていくには、国や自治体の財政は厳しい状況にあるのは事実だ。しかしこの子たちは、状態にもよるが、看護師が常時付き添ったりする必要はないことも多い。「一定の研修を受けた市民が見守るといったことも可能」(神奈川県立保健福祉大の小柴梨恵助教)だ。

 どのような状態の子どもであろうとも、工夫してごく当たり前の成育環境を整えることが求められる。医療や福祉、教育も含めた地域全体が連携していくことも大切だ。

 病院の新生児集中治療室(NICU)はどこも満杯状態が続く。小児在宅医療が専門の前田浩利・医療法人財団はるたか会理事長は「子どもを病院から家に帰して地域で安心して暮らせる体制がないと、日本の小児医療も崩壊しかねない」と指摘している。

(山口聡)

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