日本一の34.4メートル。南海トラフ地震で想定される、高知県黒潮町を襲う津波の高さだ。2012年の内閣府検討会の発表を機に町は独自の対策を進める。「大津波」を逆手に取り、小さな港町は防災の先進地になった。
海に臨む住宅地に17年4月、避難タワーが完成した。高さ22メートルは国内最大級。東日本大震災の教訓を生かし引き波にも強い最新設計とした。

朝焼けに染まる静かな港町に、高さ22メートルの津波避難タワーがそびえる

防災研修で訪れた隣町の小学生らがタワーの長い階段を上った
町の職員約200人は全員が防災担当者だ。「避難カルテ」を作成し、水没予想全世帯の避難経路や援助の必要性を把握した。住民の意識も向上、200人以上が町民の救命措置や避難に携わる「防災サポーター」に認定された。被災時に必要なものを世帯ごとに避難所に置く独自の対策は、全国の注目を集める。「津波日本一の数字はショックだったが、それが意識を変えてくれた」と自主防災会長の森岡健也さんは話す。

「避難カルテ」には約3800の世帯ごとに避難場所や経路などが記されている

避難訓練で高台に向かう地元の中学生。年8回ほど抜き打ちで行う

町が開いた防災研修で、防災士から毛布の巻き方を学ぶ住民
町は防災を産業にも結びつけた。第三セクターの黒潮町缶詰製作所を設立し雇用を創出。地元食材を主に使う防災備蓄缶詰は味へのこだわりが受け、全国約50店舗で販売する。
いつか必ずやってくる大津波。恐れるだけでなくうまく付き合う道を、町の人たちは探っている。
(大阪写真部 淡嶋健人)

次々と製造される防災備蓄缶詰。材料は主に地元の食材だ

想定される津波の高さにちなみ「34M」とデザインされている