iPS移植で合併症 理研など、目の難病患者に除去手術
理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダーと神戸市立医療センター中央市民病院などは16日、他人のiPS細胞から育てた網膜の細胞を目の難病患者に移植する臨床研究で網膜がむくむ合併症が発生したと発表した。iPS細胞を用いた再生医療の臨床研究で、手術が必要な合併症が起きたのは初めて。重症ではなく、今後も臨床研究を継続するという。

合併症が発生したのは2017年6月に同病院でiPS細胞から育てた網膜細胞の移植手術を受けた70代の男性患者。新たに膜ができ、4カ月後に「網膜浮腫」と呼ぶ網膜がむくむ症状が出た。放置すると視力の低下などを招く。
患者は薬物治療で改善しなかったため、膜を除去することにした。14日に入院し、15日に除去手術を受けた。患者は近々退院できるという。
記者会見した同病院の栗本康夫眼科部長は原因の詳細を今後調べるとしたうえで「iPS細胞由来の網膜細胞を移植する際に散らばった細胞の一部が膜を作った可能性が高い」と説明した。
網膜の下に注射器で細胞を含む液を移植するが、手術中に一部が網膜の上にあふれ出たという。移植した細胞の問題というより手術法の問題との認識を示し、今後、改良などを検討する。
今回の合併症について高橋プロジェクトリーダーは「治療で入院を伴うため、分類は『重篤な有害事象』だが、失明につながる重症なものではない」と強調。「緊急性や生命への影響はない。今後の臨床研究に影響はない」と説明した。
海外で実施している胚性幹細胞(ES細胞)を用いた網膜の再生医療でも、同じ合併症が見られるという。現時点で、ステロイド剤で抑えきれない拒絶反応や移植細胞のがん化の問題は起こっていないという。
再生医療等安全性確保法では医療機関に対し、臨床研究で重篤な有害事象を確認した場合、厚生労働相に報告するよう求めている。研究チームは今回、手術計画を固めた11日に報告したという。
iPS移植は高橋プロジェクトリーダーらが臨床研究として世界で初めて実施。17年からは京都大学が備蓄する他人のiPS細胞から育てた網膜の細胞を「加齢黄斑変性」と呼ぶ難病患者5人に移植し、1年間の経過観察を進めていた。視力は大幅に改善しないものの、定期的な投薬が不要になり視力低下を止められる可能性があるという。
東京医科歯科大学の大野京子教授(眼科学)の話 網膜浮腫は合併症を含め、様々な原因で起こる。研究チームは当初、加齢黄斑変性の悪化が浮腫の原因だと考えてステロイド投与などの治療をしたのかもしれない。網膜の手術そのものが原因で浮腫が生じる可能性もある。細胞の移植が手術を必要とする以上、浮腫などの合併症は生じうる。合併症が起きたらしっかり治療し、原因を探ることが重要だ。