2018年2月21日(水)

未来の手術 支えるハート クロスエフェクト(もっと関西)
ここに技あり

コラム(地域)
関西
2018/1/15 17:00
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 ドクン、ドクンと今にも動き出しそうだ。指でつかんでみるとへこんだり変形したり軟らかい。表面に入った切り込みの中をのぞくと、4つの部屋に分かれ、何本も血管らしきものが伸びる。クロスエフェクト(京都市)が国立循環器病研究センター(国循)の医師と共同開発した3D(3次元)心臓モデルは、外科医が切開や縫合などの手術をシミュレーションできる世界初の製品だ。

 コンピューター断層撮影装置(CT)で撮影した画像をもとに、まず3Dプリンターで心臓の外観と内部構造をそれぞれ造形する。シリコンで心臓の外観の型を取り、中空となった部分に内部構造の造形物(中子)を入れて真空下でウレタン樹脂を流し込む。機械を人間の手で操作するのだが、流す樹脂の量の調節などに「熟練の技術が求められる」(竹田正俊社長)。

CTのデータを基に作られた成人男性の心臓モデル。細部まで正確に再現する

CTのデータを基に作られた成人男性の心臓モデル。細部まで正確に再現する

 他社にまねができないのが、大手企業と共同開発した「超軟質」と呼ばれるウレタンだ。この素材によってメスで切れ、針で糸を通せる「心臓」を生み出すことができた。最後に「切れ目を入れずに中子を取り出せる」(竹田社長)のもクロスエフェクトの独自技術。心臓内部の心室や心房、弁などの形を変えずに完成することができる。

 国循の白石公・教育推進部長は、生まれつきの心臓病である「先天性心疾患」の臨床に当たってきた。100人に約1人が発症し、その約半数に手術が必要だという。新生児の心臓は約20グラムで、みかんほどの大きさだ。内部構造も複雑で、手術中、開腹できる時間も限られる。白石氏は消しゴムほどの硬さの模型開発には成功していたが、実際に切開や縫合まではできない。「患者それぞれの患部を細部まで再現し、手術をシミュレーションできる模型が必要だ」(白石氏)との思いを強くし、2000年ころから30社あまりに声を掛けてきた。

 「軟らかい心臓を作れないか」。3Dプリンターを使い自動車部品など工業製品の試作品を製造するクロスエフェクトにも白羽の矢が立った。「世界最速」とうたう短期納入が強みだったが、竹田社長は技術的に難しいと1度は断っている。その後、真空環境で模型を成型する技術を導入し、09年に「チャレンジさせてほしい」と願い出た。約1年後、半信半疑で完成品を見た白石氏は「これでいけるなと思った」。

 現在は、心臓の再現性をより高めるように改良を進め、3年後には医療機器として全国の臨床の現場で使えるように承認取得も目指す。「今まで助けられなかった命が助かるかもしれない」(竹田社長)という一心で、医工連携の先陣を切る。

文 大阪経済部 田辺静

写真 為広剛

 カメラマンひとこと 細部まで精巧に作られた心臓モデルに刃物をあて、曲げたり裏返したりしながら滑らかな表面に仕上げていく。実物と同じ大きさの心臓に思わずドキッとする。構図を考えながら見つめていると、手のひらの上で鼓動を打ち始めそうな気がしてくる。上から下からのぞき込み、大動脈などの太い血管が集まって見えるアングルにたどり着いた。

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