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ダルら所属先決まらず 大リーグFA市場に「寒波」

スポーツライター 杉浦大介

米大リーグの今オフは歴史に残るほど「寒いストーブリーグ」が続いている。去就が注目されるダルビッシュ有をはじめ、大半のトップ級のフリーエージェント(FA)選手の所属先がまだ決まっていない。FA市場のこうした動きの鈍さはほかの日本人選手にも影響しそうだ。異例の事態が生じている理由はどこにあるのか。

「もう1月なのに誰も契約しない。そろそろ練習を始める時期なのに、トップのFA選手たちはまだみんな2018年の居場所を探している」

1月9日、米スポーツ専門局「ESPN」のデビッド・シューエンフィールド記者の記事のそんな記述が、今年の冬がいかに異例かを物語っているのだろう。

スポーツ誌「スポーツ・イラストレイテッド」が昨季終了後に発表した上位10人のFA選手の中で、新たな所属先が決まったのはロッキーズ、フィリーズとそれぞれ3年契約を結んだウェイド・デービス、カルロス・サンタナのみ。そのほか、ランキング1位のJD・マルチネス、2位のダルビッシュ、3位のジェイク・アリエッタ、4位のエリック・ホズマー、5位のロレンゾ・ケイン、7位のマイク・ムスタカス、8位のジョナサン・ルクロイ、10位のアレックス・コブはすべて去就が決まっていない。年を越しても、実績あるこうしたFAのスター選手たちの所属先がこれほど決まっていないケースは珍しい。

またランス・リン、ジェイソン・バルガスといった優れた先発投手、クローザーとして実績のあるグレッグ・ホランド、野手のローガン・モリソン、ニール・ウォーカー、エドゥアルド・ヌネス、ルーカス・デューダ、カルロス・ゴメス、ジョン・ジェイらもまだ18年の所属先が定まらない。今オフ、3年以上の新たな長期契約を結ぶ選手はまだいない。多くのチームが春季キャンプを始める2月13日まですでに1カ月を切りながら、異常事態が続いている。

「新労使協定や18年オフも…」

「もともと今オフのFA選手たちのレベルは最高クラスとはいえないうえ、大都市に本拠地を置く複数のチームが経費削減のため、移籍市場が動いていない。その背後で新労使協定が効いている。そして、18年オフには多くのスーパースターたちが一斉にFAになることも影響しているのだろう」

ナ・リーグのある強豪チームのベテランスカウトに意見を求めると、そんな答えだった。例年はオフシーズンの中心になることが多いドジャース、ヤンキースという資金力豊かな球団が、今冬は経費を抑えている。これまでは東西の両雄がオフのFA市場をリードし、標準となる金額を設定している感じがあったが、今オフはそのシナリオは適用されなかった。

このように球団が経費削減を考えている背景には、16年に締結された労使協定の影響があるに違いない。年俸総額が基準を超えたチームには「ぜいたく税」が課されるが、年俸高騰を抑制して戦力均衡を狙うためか、新制度ではそのペナルティーが厳しくなった。

年俸総額が「ぜいたく税」を課す基準を超えた場合の税率は昨季以降、1年目がこれまでの17.5%から20%にアップ。2年連続で基準を超えると30%、3年連続以上では50%と、オーバーする状態を繰り返すたびに税率は高くなる。超過額が2000万~4000万ドル(約22億2000万~約44億4000万円)と大きい場合にはさらに12%が上乗せされ、4000万ドルを超えた場合には1年目は42.5%、以降は45%の課税となる。また、4000万ドルを超えたチームには、18年以降のドラフト1巡指名権の順番が10位下降するというペナルティーまで加わった(指名権が全体6位以内の場合は除外)。

17年の年俸総額が断トツで約2億4400万ドルだったドジャースは、3620万ドルの「ぜいたく税」を支払ったと伝えられる。15シーズン連続で基準を超えたヤンキースも、17年は1570万ドルを支払っている。今後いったんは基準内に下げない限り、税率は高いまま保たれる。こうした数字を見れば、今オフ、この2チームが「ぜいたく税」が課される1億9700万ドル以内に年俸総額を抑えようと取り組んでいるのは理解できる。

そのほか、レッドソックスやカブスなども出費を抑えているうえに、タイガースやフィリーズといったチーム編成に金をかける球団はチーム再建の途上にある。このため、今オフは資金力が豊かなチームが財布のひもを締める状態になってしまっている。

今オフ、なぜこれほど多くのチームが経費削減を進めているかといえば、1年後に大豊作のFA戦線が待ち受けているからだ。

上記のベテランスカウトの言葉通り、18年オフにはブライス・ハーパー(ナショナルズ)、マニー・マチャド(オリオールズ)、ジョシュ・ドナルドソン(ブルージェイズ)、ダラス・カイケル(アストロズ)、アダム・ジョーンズ、ザック・ブリットン(ともにオリオールズ)、クレイグ・キンブレル(レッドソックス)、アンドリュー・ミラー(インディアンス)、ダニエル・マーフィー(ナショナルズ)、アンドリュー・マカチェン(パイレーツ)、クレイトン・カーショー(ドジャース、契約を破棄する権利を行使した場合のみ)らがそろってFAになり、移籍市場に出る。

イチローら日本選手の所属先が決まるまでにはまだ時間がかかる可能性がある=共同

これだけの役者がそろえば、史上に残る争奪戦が起きることは確実。1年後を見据えて「散財」は避けたいという思いが各球団の首脳陣の頭に中にあるに違いない。ドジャース、ヤンキースは「ぜいたく税」を支払わないよう、リセットしておきたい。こうした思惑が今オフのFA選手獲得への慎重姿勢につながっているのだろう。

有力代理人の交渉戦略も影響か

加えて、自身が代理人を務める選手の交渉を1月下旬まで引っ張ることが多いスコット・ボラス氏の影響も指摘される。忍耐強いボラス氏はこれまでも1月後半まで時機をうかがい、プリンス・フィルダー(当時タイガース)、マックス・シャーザー(ナショナルズ)に総額2億ドル以上の契約を獲得したことがある。そんな経験に倣い、ホズマー、ムスタカス、アリエッタ、マルチネス、ホランド、カルロス・ゴメスといった選手の所属チーム決定はまだ先かもしれない。

また、現代の大リーグでは継投策が重視されており、高額をはたいての先発投手獲得が以前ほど重視されていないという見方もある。さらにここ数年のロイヤルズ、アストロズ、カブスなどの成功を見て、FA選手に金をかけるのではなく、時間をかけて生え抜き選手中心のチームづくりを心がける球団が増えているのも紛れもない事実だろう。これらのすべてが重なって、大リーグはこれまで例を見ないほど動きの乏しいオフを経験することになっているのだ。

それでも、スター選手たちは最終的に高額契約を得るはずだ。ダルビッシュ、アリエッタ、マルチネス、ホズマーという4人は総額1億ドルに及ぶ契約を手にしても不思議ではない。ただ、その後に続く第2集団や中堅どころの選手たちにとって、今オフは難しい季節が続きそうだ。年俸の高い選手から所属球団が決まるのが通常だけに、この流れはイチロー、上原浩治、青木宣親らベテランの日本勢にとっても厳しい。そういった意味で「寒いストーブリーグ」は本当に多くの選手に影響を及ぼしているといえるのだろう。

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