2018年12月11日(火)

物質を射ぬく超強力な光 明るさ太陽光の100億倍、研究支える
関西サイエンスマガジン

2018/1/16 6:00
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兵庫県佐用町に広がる山の麓。白い円形の巨大な施設が姿を現す。理化学研究所が運営する大型放射光施設「SPring―8(スプリング8)」だ。電子を光の速度近くまで加速して出てくる放射光を利用する装置で、たんぱく質の分析や物質の構造解明などに威力を発揮する。大学や民間企業からの利用希望者が絶えず、科学研究の基盤を支える「縁の下の力持ち」としてフル稼働が続く。

加速器がずらりと並ぶSACLA(兵庫県佐用町)

加速器がずらりと並ぶSACLA(兵庫県佐用町)

施設の大きさは円周1.4キロ。直線型のX線自由電子レーザー「SACLA(さくら)」も加えると、全長は2.1キロになる。ドローン(小型無人機)で上空から撮影すると、巨大な未確認飛行物体(UFO)が着陸した宇宙基地のように見える。

完成したのは1997年。当時、欧米と巨大な放射光施設の建設で競争が加速。日本では地盤が安定した同町が選ばれ、80億電子ボルトの電子エネルギーを出す世界最大の施設として稼働を始めた。放射光は光に近い速度まで達した電子を磁石で曲げると出てくる光。太陽光の100億倍も明るい。健康診断に使われるX線のように、外からは見えない物質やたんぱく質の内部が探れる。

巨大な円形の施設などからなるSPring-8

巨大な円形の施設などからなるSPring-8

利用する研究者は年間約1万6000人で、発表された論文は年1000本以上。分野は医学から生命科学、産業応用、地球科学、考古学まで多岐にわたる。施設を一躍有名にしたのは、和歌山県で起きた「毒物カレー事件」だ。カレー鍋に残っていた微量のヒ素を調べ、犯人の逮捕に向けた有力な証拠となった。最近ではシャンプーや虫歯予防のガム、電気自動車(EV)向けのリチウムイオン電池の開発にも活躍する。

理研放射光科学総合研究センターの石川哲也センター長は「放射光施設のパラダイムを変えてきた」と語る。基礎研究や製品開発に欠かせない装置として認知度が高まり、世界でも同様の施設が30近くも建設された。

2012年に稼働したSACLAも人気が高い。電子をマイクロ波で加速してたんぱく質などに当てる装置で、施設内には黄金色に輝く加速管が直線約400メートルも並ぶ。輝度はスプリング8の10億倍で、10フェムト(フェムトは千兆分の1)秒という極めて短い時間でたんぱく質の動きなどを分析できる。昨年には光合成の研究でノーベル賞の受賞候補に挙がる岡山大学の沈建仁教授らが、「PS2」という光合成たんぱく質の構造解明に活用した。ノーベル賞の受賞を後押しする成果と期待される。

SACLAのアンジュレーター(写真上)。中央の管内に永久磁石が並ぶ(写真下)

SACLAのアンジュレーター(写真上)。中央の管内に永久磁石が並ぶ(写真下)

施設内では放射光の心臓部である「アンジュレーター」と呼ばれる装置の開発が進む。アンジュレーターは強力な永久磁石のS極とN極を交互に並べた装置で、光速に近いスピードで走る電子を磁石の間に通し進路を蛇行させてX線を生む。理研は世界で初めて磁石全体を真空中に入れた装置を実用化した。開発を担当した理研の北村英男名誉研究員は「小型でも強力なX線が出せるようになった」と語る。

最近ではアジア諸国を中心に放射光施設の建設が進み、同施設で開発された装置は世界から引っ張りだこ。番号が付いた1個ずつの磁石を微妙に配置する高度な技術が必要で、まさに日本人の巧みの技といった感じだ。

国内では新たな放射光施設の建設構想もある。宮城県などが進める計画で、同県や東北大学、東北経済連合会などが協力して誘致活動を展開する。東日本大震災からの復興を目的に新産業育成の起爆剤になると期待される。満20年を過ぎて人間に例えれば成人を迎えたスプリング8。世界の先頭を走り続ける。

(文・竹下敦宣、写真・浦田晃之介、淡嶋健人)

 関西にはけいはんな学研都市(関西文化学術研究都市)や神戸医療産業都市、京都大学や大阪大学などのほか、大手企業の研究機関が集積する。関西の先端技術や研究を、独自の視点で切り取った写真と文章で毎月伝える。

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