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50歳からの人生、誇りを持って

プロスポーツ選手として長く存在し続けるために最も大切なことは何だろうと、長いこと考え続けてきた。考えあぐねた末の答えは「過去の栄光にしがみつかない」ということだ。

9年前の40歳の時に世界最高峰のトレイルランニングの大会であるUTMBで世界3位になった。UTMBは自転車のロードレースで言えばツール・ド・フランスにあたる世界最高レベルの舞台だ。コースはヨーロッパアルプスの最高峰モンブランを一周巡る171キロメートルの山岳ルートで、フランス、イタリア、スイスの3カ国をたどり、その登りの高さの累計は約10000メートルにも及ぶ。

軽装備で野山を走るトレイルランニング(写真は筆者)

この世界3位という輝かしい結果の代償は大きかった。アキレス腱(けん)を痛め、ケガとの闘いは4年に及んだ。さらにはこの大会を境に体は老化の一途をたどった。そのためトップレベルのプロであり続けようと必死になって、この結果を越えたいとやみくもに努力した。ところが元のレベルにすらどうにも戻せず、肉体的にも精神的にも苦しい時期が続いた。次第に「もうあれだけやったではないか」という気持ちが湧きあがり、ふと気づくと私は現役の選手なのに人前では過去の栄光ばかり話していた。すると周囲も私を現役選手としてではなく「終わった人」とみなすようになってきた。一人になると悔しさやもどかしさにいらだちつつも、どうしても過去にすがる状況から抜け出すことができなかった。

自分を追い込み、高みを目指した日々

野山を駆けるトレイルランニングに魅せられた私がプロとなったのはそもそも40歳とかなり遅かった。15年勤めた安定した公務員生活にピリオドを打ち、プロになることを決意したものの、生活していけるか不安でたまらず、とにかく目前のUTMBで結果を出すことにのみ専念した。40年の人生でこれほど強いプレッシャーを感じた日々は初めてだった。一方でこの時ほど湧きたつような高揚感に包まれ、高みに向かって突き進む充実した日々はなかった。今となれば陸上選手としては三、四流だった私がトレイルランニングで世界3位にまでなれたのは、追い込まれた状況でも「最高の心の在り方」を体現できたからだと思える。

50歳を目前にふと思った。このまま過去にしがみついていていいのだろうか。あの時に感じた、湧き出るような気持ちに再びなりたい。結果はどうであれ、もう一度UTMBにチャレンジしよう。そこで私は当時と同じように自分にプレッシャーをかけるべく、この挑戦を「NEVER」というプロジェクトで公開することを決めた。

一昔前なら50歳前後が寿命だったことを考えると、ここ10年で私の体が別人のように衰えてしまったのも無理はない。難しいチャレンジではあるが、ギリギリの挑戦の先に待っている世界を楽しむ心づもりで、50歳からの人生も誇れる最高の時間にしたいと思う。

自然と対話しながら走り、体を動かすことを通じて得る喜びとその醍醐味、走るためのヒントをこれからつづっていきたい。

(プロトレイルランナー 鏑木毅)

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