「日銀の変」、欧米市場を揺らす
日銀が昨日9日、超長期債を対象に実施した買い入れオペ(公開市場操作)において買い入れ額を前回から減らすと通知した。この「日銀の変」により、米国のトランプ税制改革や好調な米国経済指標を受けても突破できなかった米10年債「2.5%の壁」があっさりブレークされた。
外国為替市場の主役も、一夜にして、ECB(欧州中央銀行)からBOJ(日銀)に移った感がある。9日のアジア時間帯の日銀の通知後、筆者に対し「やはり出口戦略か?」という海外筋の問い合わせはニューヨーク時間帯まで続いた。伝言ゲームのごとく、欧米市場の末端では「いよいよ日銀も出口戦略に動く」とまで話が膨らんでゆく。
おりしも外為市場では、ユーロ買い攻勢が対ドルで1.21ユーロの大台を突破できず、失望感からユーロ安・ドル高に転じていたタイミングであった。ECBの量的緩和縮小の落としどころについて様々な観測が流れるなか、突如、日銀から想定外の動きが出たことで、市場が神経質に反応した感がある。
改めて、2018年は中央銀行の「金融正常化レース」が大きなテーマであることが確認されたともいえよう。マラソンに例えれば、先行独走のFRB(米連邦準備理事会)、周回遅れでスパートをかけたECB、そして追う日銀もレース参加の気配、とマーケットは受け止めたわけだ。この1~3位までのランナーの間隔差がドル・ユーロ、そしてドル・円レートを直ちに動かす。
円相場には目もくれずユーロ買いに走っていた通貨投機筋も、昨日は日本市場に注目した。「日銀に何か新しい動きがあれば、こちらの深夜でも構わない、連絡してほしい」との要請もあった。ECB由来のユーロ買いが一服すれば、次のターゲットはBOJとの認識が透ける。
まだ新年相場も始まったばかりだが、この3日間で今年の予告編を見せられたようだ。
先頭を走るFRBの金融正常化・利上げペースが本当に緩やかなのか。まずは3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)でのパウエル新議長デビューで利上げがあるか否か。
3月利上げで円高リスクが若干弱まれば、日銀の出口がより現実味を増して注目されよう。日銀が1位と2位との差を詰めれば、先行ランナーはピッチを速める可能性も指摘される。
昨年は「不動の1年」を貫いた日銀だが、今年は米利上げと日銀の出口戦略のせめぎ合いが円相場を揺らすことになりそうだ。

豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経ヴェリタス「逸's OK!」と日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層心理」を連載。
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