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桐生祥秀、「五輪ファイナリストへ」新たな決意

陸上男子100メートルで日本人として初めて9秒台をマークした桐生祥秀の新たな挑戦の年が始まった。東洋大を卒業する今春から日本生命と所属契約を結び、事実上のプロ選手として活動をスタートさせる。世界と戦うスタートラインに立った今、22歳のスプリンターが見据える先は――。9秒98を出して自らの殻を破った昨年9月の日本学生対校選手権(インカレ)を振り返りながら、2020年東京五輪への決意を聞いた。

(関連記事を11日朝刊「オリパラ面」に掲載)

――昨季は6月の日本選手権で4位に敗れ、個人種目でのロンドン世界選手権を逃した。その挫折を乗り越えての快挙達成。1年をまとめると。

日本選手権後は気持ちが折れそうだった。1週間くらいはグラウンドにも顔を出せなくて。その後、50メートルを70本、無心で、がむしゃらに走って迷いを断った。トレーニングだけでなく、気持ちの面でも何段階も成長できたシーズンだったと思う。

――「10秒の壁」を破ったインカレの決勝前にハプニングが起きていたとか。

昨年の日本学生対校選手権で桐生がマークした9秒98は新品のスパイクから生まれた=共同

実は、決勝の直前にスパイクのつま先がぱっくり開いてしまった。破れたのは予選か、準決勝か、ウオーミングアップか、定かではないが、予備でもう1足用意していたので助かった。まさか、その新品のスパイクで記録が出るとは。

僕はスタートの一歩目だけ地面を擦るんです。無意識ですが、低く出ようとは考えている。その感覚を大事にしていて練習用と試合用を使い分けることはしないので、スパイクが1週間で使えなくなることもあるんです。

「最初は特別。名前が残る」

――そのスパイクへのこだわりは。

軽さを求めていて、履いていて気持ちがいい、というのが一番大事。高校(京都・洛南高)1年から使っているアシックスさんには、気がついたらこちらの希望を伝えるようにしています。僕は足が小さいので、市販のものだと左右が余る。足のサイズにぴっちり合わせないといけないので、そこに時間がかかりました。また、足首が硬いので足裏全体で一気に地面を蹴りたい。そのため、フラットな形状なのが特徴。今のスパイクの開発はリオデジャネイロ五輪を1年後に控えた2015年から始まりました。

――誰よりも先に9秒台を出した意義は。

高校時代からずっと最初に9秒台を出したいと考えていた。インパクトがあるし、今後、陸上の歴史を振り返ったときに名前が残る。2、3番目では残らないと思うんです。どのスポーツでもそうだけれど、何でも1番、最初は特別だと思う。だからどうしても最初に出したかった。調子に乗っているわけではないが、高校3年で10秒01を出してから陸上界への注目度が変わったと思っている。注目だけさせておいて、僕が消えるわけにはいかなかった。9秒台を出したことで、もっと陸上に興味を持ってもらえたらうれしい。

「ストライドをいかに伸ばすか」

――9秒台を出せた要因をどう分析しているか。

ピッチ(足の回転)の速さは限界に近いので、ストライド(一歩の長さ)をいかに伸ばすかに重点を置いてきた。そのために、ジャンプ系の練習をやったり、筋力トレーニングをやったりしてきたのが良かった。

もう一つ。昨夏の世界選手権でケガをした影響で、その後の練習では50メートルや100メートルという短い距離を思い切り走ることができなかった。インカレの前は250メートルや300メートルといった長い距離を(大きなフォームで)走って調整していたので、ストライドが伸びたのだと思う。そういう意味では、新たな気づきもあった。

――大学での4年間は苦しい時間も多かった。

大学に入学してからなかなか自己ベストを更新できなかったが、4年間を振り返るとすごく早かった。もう卒業なのかと。ただ、故障していた時期はすごく長く感じていた。特に昨年の日本選手権から世界選手権の400メートルリレーに出場するまでの時間は長かった。正直、やる気もなくて、モチベーションを上げるのも大変だったので。

――今春には社会人になる。

学生ではないので今よりもっと自由な時間が増えるが、グラウンドも、土江寛裕コーチとの関係性も変わらない。環境に大きな変化はないと思う。

――今後の強化ポイントは。

春には社会人となる桐生は東京五輪へ向け、平均9秒台を目標に掲げる

今までやってきたウエートトレーニングや坂道ダッシュ、短い距離を走る練習もしますが、250メートル、300メートル、400メートルと長い距離を走る練習も100メートルにいい影響を与えるとわかったのが昨季だった。やっていることは間違っていないと思うので、少し長い距離も取り入れてみようと思う。

「日本選手権を勝ってアジア大会へ」

――今年の目標は。

まず6月の日本選手権に照準を合わせたい。昨年は世界選手権にピークを持っていくことばかり頭にあったので、調整(途中)の段階で日本選手権に臨んでしまった。甘えではないが、春先の調子の良さもあったし、ちょっと休む気持ちで勝負しても代表に入れるだろうと思っていた。そこで足をすくわれた。今年こそ日本選手権で優勝して、アジア大会(8月、ジャカルタ)に臨みたい。今の短距離界は10秒0台は普通。少しの甘えで代表落ちするくらい、レベルが上がっている。

ライバルはやっぱり山県亮太さん(セイコーホールディングス)。僕がテレビで見ていた時、山県さんが日本陸上界で一番速かった。ずっと「この人と走りたいな」と思っていた。同じような境遇で、お互いにケガに苦しんだ時期もあった。常に競い合ってきたので、他の選手とは少し違うライバルなのかなと思う。

――平均9秒台を目標に掲げている。

海外のコーチから「9秒台に突入する選手は、その前に10秒0台を連発する。10秒0台を数回出して初めて9秒台に行けるんだよ」と言われてきた。予兆もなく、いきなり9秒台を出した選手は、例えば負傷した後にフォームを修正しようとしても、戻し方がわからなくなると聞く。だからアベレージを上げていきたい。平均で9秒台を出せる強さを追い求めたい。

――2年半後には東京五輪がやってくる。

一瞬でやってくるのかな。五輪は他の世界大会と違う存在。リオ五輪400メートルリレーで銀メダルを取った時と、世界選手権で銅メダルを取ったときでは反響が違った。やっぱり五輪だと身に染みて感じた。それが、2020年に東京である。しっかり結果を残したい。

それまでに、自己ベストはできるだけ伸ばしておきたい。僕が0秒01でも更新すれば、それが日本記録になる。0秒01を刻んでいったら、もしかしたら9秒8台という次元にも行けるかもしれない。

五輪ではファイナリストになることが目標。決勝に進出すれば、何かが起こるかもしれない。7、8番目の人でもメダルを取れるチャンスがある。その舞台で勝負できるように、自分が信じたことを貫いていきたい。

(聞き手は渡辺岳史、北西厚一)

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