中部銀次郎さんお勧めの「頭が動かない」ドリル
ゴルフジャーナリスト 地平達郎
1月20日は大寒。一年中で最も寒い時期とされる。今年は特に厳しいようで、ゴルフコースに出かけるのはもちろんのこと、練習場にいくのさえ一大決心が必要だ。
そんなとき、生前の中部銀次郎さんがことあるごとに口にし、迷えるゴルファーたちに勧めていた、家の中でもできるドリルがある。

日本アマチュア選手権に優勝すること6回。不世出のアマチュアゴルファーといわれた。残念ながら2001年12月14日に59歳の若さで亡くなったが、当時を知る人たちが語るエピソードが今も伝説のように残っている。
いったんクラブハウスの玄関に足を踏み入れると、ストイックなゴルファーのスイッチが入るが、ゴルフ場を離れると実に気さくな、ごく普通の人だった――。当時を知る人の多くがそう語るが、どちらかではなく、両方が中部さんだったようだ。
酒が入ると、ことのほか陽気になった。気取らない居酒屋ふうの店が好みで、東京・渋谷や新橋などに行きつけの店が何軒かあり、顔なじみ客とワイワイやるのが大好きだった。当然、ゴルフの話になることが多く、そのうちにスイングのコツを聞いてきたりする人が出てくる。
■壁につけるのは「額」
そこで、「ちょっと立ってみてください」と、ワンポイントレッスンが始まる。
その方法はいつも同じで、さらに「これさえできれば、ゴルフはうまくいきますよ」が口ぐせでもあった。
壁から40センチくらい離れたところに壁に向かって立たせると、こうアドバイスした。
「そのまま上半身を前傾して、おでこを壁にくっつけてください」
この姿勢ができたら次に、両手をだらーんと下げて両手でグリップの形をつくらせる。その状態からテークバック、トップ、ダウンスイング、インパクト、フォローをゆっくりと連続運動させるのだ。
壁につけているので頭は動かない。それがゴルフスイングでいちばん大切なことだと説明するこのドリルには、いくつかのポイントがあった。
まず、壁につけるのは、頭でなく「額」であること。こうすると当然、壁を見ることになる。視線が前を向くので直接、床を見ることはできない。
実際のアドレスの姿勢もこれと同じで、後頭部の髪の毛を後ろに引っ張られるような感じで構え、「下目遣い」でボールを見ることになる。
次に、額を壁につけたとき、上半身を反るようにすること。いわゆる背中が曲がった状態ではなく、逆に背骨を「く」の字に体の前方に押し込む感覚になる。

この2つができると、後頭部から尾てい骨部にかけて1本の線が出来上がる。このときさらに「お尻の……を後ろに突き出す感じ」と、独特の表現をしたりしたものだ。
■こんなに窮屈なものとは…
もう1つは両手のポジション。壁に正対して構えているから、両手をほぼ真っすぐ下に垂らした状態でなくては腕を振ることができない。これが、中部さんが言う「ハンドダウン」ということになる。
両手の前腕部の線とグリップをしたクラブシャフトの線が真っすぐにならないよう、グリップを下に押し込んだような構えが出来上がる。
言われたとおりにやったほとんどの人が「ゴルフって、こんなに窮屈なものなんですか……」とびっくりした。
みなさんも実際におやりになれば、ずいぶん不自然な動きに感じられるに違いない。あるいは、おでこが壁に擦れて痛くなるかもしれない。しかし、この窮屈さこそがゴルフスイングの基本であり、いちばんの原則である「頭が動いてはいけない」ことの証明でもある。
寒さが和らぎ、ゴルフの虫が本格的にうごめき出すまでに一度、試されてはいかがだろうか。
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