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阪神・岩田にみる プロスポーツの存在意義

編集委員 篠山正幸

「1型糖尿病」と戦いながら投げ続ける阪神・岩田稔(34)はスポーツ選手の社会との関わり方を考えさせてくれる存在だ。大阪桐蔭高卒業時、病気のために社会人チームの内定取り消しの憂き目に遭っている。そうした困難にもめげなかった不屈の精神の源はどこにあったのか。

病気への理解深めることに貢献

社会貢献が認められて表彰式に臨む岩田(右)

岩田は同じ病を持つ人たちを球場に招待したり、1勝につき10万円を寄付して、1型糖尿病の研究活動を支援したりしてきた。地道な活動が認められ、昨年12月、プロ野球関係者の社会貢献活動を表彰する「ゴールデンスピリット賞」(報知新聞社制定)を受賞した。

1型糖尿病は過食や運動不足など、生活習慣に起因する2型糖尿病とは違って、血糖値を下げる膵臓(すいぞう)の細胞が機能しなくなって発症する。偏った食習慣などとは無縁の小児でも発症することが少なくなく、根本治療が難しいために、ずっと病気と戦い続けなくてはならない。岩田の活動はこうした知識を広め、病気への理解を深めることに貢献している。

大阪桐蔭のエースを目指してまっしぐらだった岩田を病魔が襲ったのは2年のとき。異常なのどの乾きを覚え、頻尿の症状が現れた。80キロだった体が65キロまでやせ細り、調べてみると1型糖尿病だった。

野球はおしまい、一生ベッドの上で生活しなくてはならないと覚悟したという。そこでひと筋の光をもたらしてくれたのは病院の先生が紹介してくれた1冊の本だった。

1988年から2年間巨人に在籍し、21勝を挙げたビル・ガリクソンの著書だった。同じく1型糖尿病を患っていたが、薬で血糖値をコントロールすれば、普通の生活ができるのはもちろん、スポーツをあきらめる必要はないということが、そこには書かれていた。

高校卒業時に、企業の内定を取り消されたことで、負けじ魂に火がついた。「これで負けていたら、社会で生きていけない。絶対負けない」と誓ったという岩田は両親に大学進学の許しを請い、関西大で野球を続けた。

阪神入団3年目に10勝を挙げるなど、2017年までの12年間で通算56勝を挙げている。

血糖値をコントロールすれば、と言葉にすればあっさりしたものだが、1日に4回ほど血中の血糖値を調べ、薬を注射しなくてはならないという話を聞くと、並大抵のことではないとわかる。

毎食後と就寝前の計4回、測定と注射で1日計8回、針を刺すことになるという。これが毎日。年間では3000回近く皮膚に穴を開けるのだ。岩田もこうしたケアを続けながら、練習し、マウンドに上り続けている。

高2で発症してから18年間。病気のために練習などで自分に甘えを許したことはもちろん、一度もない。「それだけは(妥協の)理由にしたくなかった」

今、一番の発奮材料は「笑顔」

負けてなるものか、と野球に取り組んできた岩田。プロになり、様々な社会貢献活動をするようになった今、一番の発奮材料になっているのは子どもたちを含む、同じ病気を持つ人たちの笑顔だという。

「会ったときの何ともいえない笑顔。自分もいい笑顔にさせてもらえるし、自分ももっとやらなければ、というパワーの源になる」

16年は6年ぶりに勝利なしに終わったが、昨季は3勝を挙げ、復活の気配がある。勝ったときばかりでなく、マウンドに上る姿を目にしただけで、岩田を希望の光とする人たちは笑顔を浮かべたことだろう。

突き詰めていうなら、プロスポーツ選手の役目は人々に笑顔を届けること……。当たり前すぎて忘れがちなプロスポーツの存在意義を、岩田の活動は思い起こさせてくれる。

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