/

元コーチが語った 王者アストロズの強さの源

スポーツライター 丹羽政善

右へ、左へと白球が高く舞い上がり、次々に米カリフォルニアの空へ吸い込まれていく。大リーグの2017年ワールドシリーズ第2戦(10月25日)では、アストロズとドジャースの両軍合わせて1試合8本塁打(ワールドシリーズ記録)が乱れ飛び、4時間を超えた試合は最後、延長でアストロズが振り切った。

試合が終わると、そのアストロズ打線を陰で支えたアロンゾ・パウエル打撃コーチ補佐(中日など)は、ドジャースタジアムのダッグアウト裏で携帯電話を手に話し込んでいた。

翌朝、チームと一緒にヒューストンには戻らず、サンフランシスコへ。電話の相手はジャイアンツのゼネラルマネジャー(GM)、ボビー・エバンス氏だった。

先日、NHK・BS1で「アストロズ革命~MLBデータ新時代~」が放送されたが、昨年12月にフロリダ州ブラデントンに滞在していたパウエル打撃コーチ補佐のもとを訪れ、話を聞いた。冒頭の話は、インタビューが終わって一緒に食事をしているときに彼が明かしたワールドシリーズの裏話だが、そこにも実はアストロズ革命の一面が垣間見える。

フライを打つに行き着く

その点については後で触れるとして、興味深かったのはやはり、いかにアストロズがデータを利用しているかというテーマ。行き着いた一つの形がフライを打つ――。極端にいえば、ホームランを狙うという打撃だが、それは一発攻勢で圧倒したように、ワールドシリーズでも彼らの戦いを象徴した。

話を進める前に「フライボール」について少し触れておくと、昨今の大リーグでは内野守備のシフトが徹底している。それもデータのたまものだが、たとえばマリナーズのロビンソン・カノが打席に入ると、二塁手が一、二塁間の深い位置、つまりライトの手前まで下がる。となると、いくら強いゴロを打っても内野を抜くことは確率的に低くなる。以前は転がせば可能性が広がるといわれたものだが、今や「フライを打て」が大リーグのトレンド。結果にも大きな違いが出ている。

上の表は昨季のフライボールとゴロの打率、長打率を比べた数字だ。

長打率の差は歴然である。そして、長打率が高ければOPS(出塁率+長打率)、得点も高くなるというのは知られるところ。昨季、800得点以上を挙げたのは8チームあるが、別表を見ると、ツインズを除いて得点上位のチームはやはり長打率も上位なのである。全球団がプレーオフに進出したことも共通している。

話を戻すと、フライを打ったほうが打率も長打率も、さらに連動して得点もアップする。アストロズの場合、右に好打者が多く、左翼ポールまで315フィート(約96メートル)と狭い本拠地ミニッツメイド・パークの特性を生かすべく、その実践に力を入れた。

もちろん、ただ打ち上げるだけで結果が伴うわけではない。そこで、パウエル打撃コーチ補佐らは、たとえば打者に打球の具体的な角度を意識させたのだという。何度で打てばいいのか。仮に打球角度が25度から30度になれば、後は打球の初速次第でホームランになるということを、データを用いて選手に説明する。

その前提として、コーチ陣がデータの意味を理解する必要もあるが、パウエル打撃コーチ補佐によると、「アストロズは1月にコーチ陣が集まり、物理学者やデータの専門家からレクチャーを受ける」のだそうだ。

それぞれのデータの意味、その関連性、どんな結果が導かれるのか。それらを理解した上で、春季キャンプに入ると選手一人ひとりに個別データを示しながら、取り組むべき課題を擦り合わせていく。

「決して強制ではない」

かといってそれは「決して強制ではない」とパウエル打撃コーチ補佐は言う。「データに興味がある選手もいれば、ない選手もいる。我々としてはあくまでも選択肢を与えるにすぎない」

たとえば、外野手のジョシュ・レディックはデータに見向きもしないという。だが彼の場合、元来のフライボールバッターである。

米データサイト「fangraphs.com」によると、彼の10年から17年まで8シーズンの平均フライボール確率は44%でリーグ29位タイ。昨季は42.3%で同32位タイ(いずれも規定打席に達した選手が対象)。教えるまでもなくフライを打つ打撃をしており、だからこそアストロズも16年に契約したのだろう。

ちなみに打球の角度と初速の理想的な組み合わせを「バレル」と呼ぶ。それを身につけることで、ジャスティン・ターナー、クリス・テイラー(ともにドジャース)といったそれまで平凡だった選手が次々と覚醒したが、そこには「三振が増える」というリスクも潜む。

アストロズの本塁打数と三振数
2014年163(4)1442(2)
15年230(2)1392(2)
16年198(14)1452(4)
17年238(2)1087(30)

フライボールの効果が広くリーグに浸透した昨年、リーグの年間本塁打数が6105で過去最多となったが、年間三振数も4万104で過去最多。16年は年間本塁打数が歴代3位で、三振数は同2位。アストロズも例外ではなく、本塁打と三振の数をリーグ順位とともに表にまとめた。

三振に関してはワーストの順位と捉えてほしいが、14、15年は本塁打の数も多いが三振の数も多い。ところが昨年は本塁打数が1位のヤンキースとは3本差の2位だったにもかかわらず、三振数は1087でリーグ最少だった。フライボールを打とうとするなら、多少の三振は覚悟する――。その概念を変えてみせたのだ。

その点について、パウエル打撃コーチ補佐はこう説明した。

「三振の多い選手を放出」

「ホームランは打てるが、コルビー・ラスマス、カルロス・ゴメス、クリス・カーターといった三振の多い選手をどんどん放出した」

ラスマス(フリーエージェント=FA)は15、16年にアストロズでプレー。1年目は25本塁打を放ち、フライの確率は51.6%だったが、三振する確率も31.8%と高かった。2年目は15本塁打で、フライの確率は43.1%。三振の確率は29.0%だった。カーター(FA)は13年から3シーズン在籍。その間、90本塁打を放ったが、三振の確率は13年から順に36.2%、31.8%、32.8%と安定して高く、チームが「本塁打が打てるなら三振には目をつぶる」という方針を転換すると、居場所を失った。

昨季の優勝メンバーの中では、ワールドシリーズで最優秀選手(MVP)を取ったジョージ・スプリンガーの三振数がかつては多かった。メジャーデビューした14年は33%、15年は24.2%、16年は23.9%。しかし昨年は17.6%にまで下がった。

パウエル打撃コーチ補佐に言わせれば、そこが「彼の成長したところ」なのだという。その理由を端的にいってしまえば、打てない球には手を出さなくなったということになるが、裏にはまたデータによる指摘があったのだろう。

このことを深掘りすると終わりがなくなるので機会を改めたいが、番組ではジェフ・ルーナウGMにもインタビューした。その場にはいなかったが、チームづくりにおいて、統計学やコンピューター科学の学位を持つ人に加え、数学者や物理学者を雇ったことなどが明かされていた。そんな人たちが1月のミーティングでコーチらに講義するのだろうが、加えてこんな話もしたそうだ。

「選手を支える人の中には、米軍で戦場での心構えを教えていた人もいる」

精神的に極限状態に置かれる戦場でいかに冷静な判断を下すか。それはまさに、ワールドシリーズ第7戦のような試合を想定していたのかもしれない。

結局、アストロズは単にデータだけに特化してチームをつくったわけではなく、門外漢からも知恵を借りるなどこれまでにない発想でチームをつくり上げた。それは、ルーナウGM自身が経営コンサルタントという全く畑違いの世界からやってきたことと無縁ではないかもしれない。

ノウハウを盗もうと…

さて、こうして成功を収めたことで、今度は多くのチームがそのノウハウを盗もうとする。

2000年代の序盤、アスレチックスが統計学を駆使した、いわゆる「マネーボール」でリーグを席巻すると、他チームに人材が流出したが、手っ取り早いのがそうした引き抜きである。

実際、アストロズのベンチコーチだったアレックス・コーラ氏は来季からレッドソックスの指揮を執る。彼の場合、ワールドシリーズ出場をかけてヤンキースと戦っているさなか、第2戦と第3戦の合間にボストンへ飛んだ。パウエル打撃コーチ補佐も同様。ワールドシリーズが終わると、ジャイアンツはアストロズのパウエル打撃コーチ補佐を打撃コーチとして契約したと発表した。ジャイアンツとしてはアストロズがどうデータを利用し、打者にどう教えていたのか。それを学ぼうというのだろう。

そもそも11年にカージナルスが優勝すると、アストロズは同チームで補強、育成の責任者として実績をあげていたルーナウ氏を引き抜いたのである。

春割ですべての記事が読み放題
今なら2カ月無料!

セレクション

トレンドウオッチ

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
春割で申し込むログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で申し込むログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
春割で申し込むログイン