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竹本織太夫襲名 地元ミナミで愛されたい(もっと関西)

カルチャー

人形浄瑠璃文楽の語り手である太夫、豊竹咲甫太夫(さきほだゆう)が六代目竹本織太夫(おりたゆう)(42)を襲名した。襲名披露は師匠である豊竹咲太夫の父、八代目竹本綱太夫の五十回忌追善公演にも当たり、綱太夫の前名である織太夫を襲名することは将来の綱太夫への布石でもある。世代交代が進む文楽界で、次世代を担う太夫としての期待が高まる。

3日に国立文楽劇場(大阪市中央区)で初日を迎えた初春文楽公演。追善と襲名披露の狂言である「摂州合邦辻(がっぽうがつじ)」を語り終えた新・織太夫は息の上がった様子で「ただただ、えらかった(大変だった)」。1時間弱の舞台を全力で駆け抜けるような渾身(こんしん)の語りだった。「(咲太夫)師匠、八代目綱太夫をはじめ、この舞台を作ってくれたすべての人に感謝です」

同作は主人公の玉手御前(たまてごぜん)がお家騒動阻止のため、義理の息子の俊徳丸(しゅんとくまる)に邪恋をしかけ、ついには自らの命をも捨てるという物語。

「合邦住家(すみか)の段」のクライマックスにあたる後半部分は、出家して清貧の暮らしを送る玉手御前の父、合邦道心が娘の腹に刀を突き刺した後、彼女から意外な本心を明かされる。「合邦が全生涯をかけて玉手にわびる場面が最も重要」として「お客さんの心に突き刺さるように語りたい」と述べた。

綱太夫は江戸中期から続く歴史ある名跡で、八代目綱太夫は昭和を代表する名人だった。九代目綱太夫は2015年に亡くなった九代目源太夫の前名。綱太夫の前には五代目織太夫を名乗っており、織太夫の名は歴代の綱太夫が前名として名乗ってきた。今回の襲名披露は「綱太夫という家ののれんの味をこいつにまかせるから、皆さん叱咤(しった)激励して育ててやってくださいという意味」と重く受け止める。

「身を捨てて」

これまでも八代目綱太夫の語りに憧れ、目標としてきたが「咲甫太夫として語るのと、織太夫を名乗って舞台に上がるのとではお客様の見る目が違う。織太夫のファイティングスピリットを出していきたい」。織太夫時代の八代目綱太夫は「あんな舞台勤めてたら早死にするぞ」と言われるほど、迫力に満ちた語りだったという。新・織太夫も「身を捨てて舞台を生かすような太夫になりたい」と力を込める。

稽古のため、八代目綱太夫の録音を何度も聞き「技術やテンションも含めて、うまいなあと思うところを飛び越えている。それに一歩でも近づきたい」。「上手だ」「分かりやすい」と評されるより、「お客様が背もたれから身を乗り出して、手に汗を握ったり、鳥肌が立ったりするような、体感できる舞台を目指したい」と語る。

一方で歴代の綱太夫は「技知(わざしり)」と呼ばれる技巧派でもある。「徹底的に技術を学んで、語りの精度を上げていきたい」と新・織太夫。文楽の一場面は長いものだと1時間を超える。「長いと感じさせないためには、口さばきや言葉尻の止まり方など、切っ先するどい包丁のような技術が必要」と指摘する。

三味線弾きの二代目鶴澤道八を祖父にもち、幼少期から文楽に親しんだ。1983年、8歳の時に豊竹咲太夫に入門し、93年に文楽の初舞台を踏む。伸びのある豊かな声で、最近は重要な場面を任される機会も増えてきた。

襲名にあたって改めて意識したというのが、地元ミナミとの関係だ。義太夫節の創始者、竹本義太夫が道頓堀に人形浄瑠璃の竹本座を開設したのが1684年。以来330年余にわたって、文楽はミナミの地で育まれてきた。自身もミナミで生まれ育った織太夫は「今までの文楽は自分たちの劇場の中だけで楽しませようとしてきたけど、この街に文楽があってよかったと思われる存在になりたい」。

9商店街訪ねる

「大大阪」と呼ばれ栄えた大正後期から昭和初期には、町中に浄瑠璃を語る旦那衆や女流義太夫らがたくさんいた。今は一般の人々の日常から文楽はかけ離れた存在だ。16年前から講師としてかかわる市立高津小学校での文楽の授業は、ミナミの街に文楽を根付かせようという考えから。毎年6年生が1年間かけて、太夫、三味線、人形遣いを学び、計約500人が文楽に携わった。

襲名に先立ち17年12月には、国立文楽劇場近くの黒門市場をはじめ、千日前や戎橋筋、道頓堀などミナミの9つの商店街すべてを練り歩き、あいさつに回った。「いつも買い物に行く店の人が涙を流して手を振ってくれた。そういう情の深い町で愛される織太夫になりたい」

(大阪・文化担当 小国由美子)

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