マードック帝国に衰え 娯楽見切り報道に原点回帰

2017/12/28 23:00
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米メディア大手21世紀フォックスは映画・テレビ部門を661億ドル(約7兆4000億円)で同業のウォルト・ディズニーに売却する。フォックスを率いる「メディア王」ルパート・マードック氏(86)は、果敢な買収戦略で世界有数のメディアグループを育て上げた人物として知られる。そのルパート氏が、あえて今「帝国」の分割に動いたのはなぜか。

「後退ではないかと聞く人がいるが全く違う。戦略転換だ」。14日の会見で、ルパート氏は今回の決断を語気を強めて説明した。戦略転換には「ピボット」という、ベンチャー企業などが大幅に軌道を修正する際に使う言葉をあえて選んだ。

フォックスの議決権の4割近くを握るマードック一族。ルパート氏の後継者は次男ジェームズ氏(45)と言われてきた。だが、そのジェームズ氏はフォックスの事業売却に伴い、ディズニーに移る可能性がある。

保守派の父親と異なり、ニューヨークの社交界ではジェームズ氏夫妻はリベラル派として知られる。イーロン・マスク氏率いるテスラの取締役に名を連ねるなど、新興メディアやIT(情報技術)企業の経営者と親しく「次はディズニーの経営トップを目指すのでは」と見方も浮上する。

そうなれば、後継者のバトンはフォックスに残る可能性が高い長男ラクラン氏(46)に渡る。こうしたマードック王国内での力学の変化が分割を促した、との見立てだ。

ルパート氏の「メディア王」としての力が衰えつつある、という指摘もある。オーストラリアの新聞社を父親から受け継いだルパート氏は、60年以上もグループの拡大にまい進してきた。フォックスの2017年6月期の売上高は285億ドル(約3兆2千億円)。メディア企業としてはディズニー、コムキャストに次ぐ3位の存在だ。

だがルパート氏本人は近年、「(フォックスには)十分な規模がない」との懸念を周囲に漏らしていたという。娯楽や情報の流通経路がテレビや新聞からインターネットに移る中、対抗すべき相手もグーグルやアマゾン・ドット・コムなど「ネットの巨人」に代わったからだ。

もう一段の拡大を狙って手は打ったが、どれもうまくいかなかった。14年に同業のタイムワーナーに買収を仕掛けたが、拒否され失敗。16年には英有料テレビ大手スカイの完全子会社化に動いた。欧州でも幅広く事業を展開する同社の獲得はルパート氏の悲願だったが、英政府からの承認獲得に苦戦している。

規模の拡大に走っていた間に、米消費者の趣向は急速に変化した。ネットフリックスやアマゾンなどによる動画配信サービスが台頭。若者の間では動画の「ビンジ・ウオッチング(イッキ見)」が主流となり、筋書きや登場人物の性格などを作り込んだドラマが好まれるようになった。

一方で、フォックスが得意とする素人が歌の才能を競うような単純な娯楽番組は競争力を失った。主力の「FOXニュース」の視聴者の平均年齢(中間値)も今や67歳。傘下メディアの価値の毀損が進む前にルパート氏は「次の一手」を急ぐ。

「次の章の始まりにワクワクしている」。会見でこう語ったルパート氏の声色は明るかった。

16年に当時の経営トップがセクハラ疑惑で退任したことを受け、ルパート氏はFOXニュースの暫定最高経営責任者(CEO)に就任した。現在はニュース報道という原点に戻った日々を楽しんでいると伝えられる。

米国では、42年ぶりの規制緩和で新聞・テレビの兼業が容認された。長期的には、新聞・出版を主力とする傘下のニューズ・コーポレーションと、ディズニーへの事業売却後に残った放送事業の再統合に挑むのではないかと見られている。

「親しい人は俺のことを闘争心の強い『ニュース・マン』だと理解している」(ルパート氏)。手元に残ったスポーツとニュースはルパート氏が最も情熱を感じる事業だ。

ネット広告収入の大半をグーグルとフェイスブックの2社が囲い込む現状で、フォックスが再び報道を稼げる事業に転換できるか。その成否は高齢のルパート氏の双肩にかかっている。

(ニューヨーク=清水石珠実)

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