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伊藤園、衛星+ドローンで空から育てる茶葉

緑茶最大手の伊藤園は人工衛星とドローン(小型無人機)を使い、茶葉を効率的に生産する計画だ。茶葉を撮影し、独自のアルゴリズム(計算手法)で摘みごろかどうかを調べ、契約農家に伝える。お茶の市場が広がる一方、農家が減り原料を調達しにくくなっている溝を先端技術で埋める。

伊藤園は宮崎や大分、鹿児島県など九州で、耕作放棄地を茶畑につくりかえて「お~いお茶」などの原料を栽培する農家を支援している。もともと農家であっても多くはお茶に詳しくない。

そこで、摘みごろを見極められるようドローンと人工衛星の組み合わせを試みる。2020年にも、数十ヘクタールの大規模畑がある大分県などで実験する。農業技術部の荒井昌彦部長は「候補の農家と協議していく」と話す。

軸はドローン。人が操作し、畑の中心となる場所の生育状態を調べる。取り付けた近赤外カメラで茶葉を撮影。太陽の光が葉にあたり、反射してレンズに入る波長をとらえる。モノクロ画像に落とし込み、熟度を示す指数を算出し最も熟した時期かどうか判断する。

植物の葉は青や赤の光を吸収するが、目に見えない近赤外光は強く反射する。反射している近赤外光と吸収している赤色光を測れば生育状態の判断材料になるという。

ドローンによって畑の一部が最適な摘みごろと判断されると衛星の出番だ。まず宇宙から畑全体の写真を撮る。最適な摘みごろの場所とそれ以外の場所の茎の長さ、葉の濃淡を比べる。画像を分析し、生育状態が同じようなら摘んでしまい、そうでなければ待つ。画像の黄の部分は「摘みごろ」、青は「収穫には早い」などと確認できる。

つまりドローンで撮影した畑を起点に、他のエリアの収穫時期を判断し、全体でスムーズに収穫できる体制を整える。

ロケットや衛星の打ち上げを支援する宇宙技術開発(東京・中野、松尾泰社長)の衛星を利用する。「ラピッドアイ」が見分けられる最小の距離は5メートルで、「ジオアイ」は50センチメートル。伊藤園は両方を使い、自社専用に年1回の撮影を発注する。全体像がみえれば、農作業の優先順位を付けることが楽になる。

衛星による撮影は、宇宙から地上のデータをとるリモートセンシング技術として複数の産業で使われ、伊藤園は畑で応用できないかと宮崎県都城市で実験してきた。ただ、そもそもどんな状態であれば最適な摘みごろなのか判断する基準が必要で、その基準をドローンでつくるわけだ。

反射波から摘みごろを判断するにはアルゴリズムを使う。都城市の畑に13年から近赤外カメラを置き、コツコツ実験データを集めて開発してきた。荒井氏らは、波長などのデータと生育状況がどんな関係にあるかじっくり観察した。都城市での実験をもとにしたアルゴリズムを、他県でドローンによって撮影した画像の分析に生かす。

いまの農家のやり方は、茶葉の摘み取り時期が近づくと実際に摘んでみて調べている。畑を回り、熟度の分析に半日から1日かける。摘み取り時期は成長が早く、分析結果を待っていると収穫のタイミングを逃す。伊藤園の新しい仕組みは農家の負担を減らす。

ただ、ことはそう簡単ではない。畑の場所が違えば、葉が熟す条件は変わる。栽培場所に合ったアルゴリズムが必要だ。都城市の実験をもとに開発したアルゴリズムは土地に合わせて修正する必要がある。だが収穫は年1回、4~5月ごろにあるだけで、データは多く取れない。ドローンを飛ばせば農作業がすぐ楽になるわけではないのだ。

衛星やドローンはそれぞれ農業に使われているが、組み合わせた利用は珍しい。茶系飲料メーカーにはキリン、サントリー、日本コカ・コーラもあるが、伊藤園が先行している。

伊藤園にとって高いコストが悩みだ。定点カメラ1台だけで数十万円かかり、全国に1200ヘクタールの契約栽培面積を持つ同社が全体にこれらの仕組みを広げる負担は重い。現時点で、どこまで広げられるかわからない。

それでも伊藤園が取り組まなければならない事情は、伸びる需要に対して減少する供給能力というギャップにある。

17年の茶系飲料市場は9325億円と2年連続で拡大する見込み。伊藤園の18年4月期の連結売上高は、4925億円と3期連続の増収となりそう。神戸市に16年、約30億円で茶葉の加工工場を新設した。一方で農林水産省によると、全国の15年の茶葉販売農家・生産法人数は2万144で、10年間で半減した。

農家の高齢化と離農の増加によって茶葉の供給能力は落ちていく。茶葉をつくりたい農家にとってコスト削減や省力化が一層重要になのは確か。先端技術を生かすことが一つの活路になる。

(企業報道部 湯前宗太郎)

[日経産業新聞2017年12月28日付]

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