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W杯投票で波紋 日本ラグビーの国際戦略に遅れ

世界のラグビー界に小さな波紋を起こす出来事が2017年11月にあった。ラグビーのワールドカップ(W杯)23年大会の開催国を決める投票。各国のラグビー協会などの票を集めてフランスが招致に成功した中、日本の投票先が驚きを持って受け止められた。

23年W杯の開催地を決めたのは、11月15日に行われた国際統括団体ワールドラグビーの理事会だった。招致に名乗りを上げていたのはフランス、アイルランド、南アフリカの3カ国。理事を出している各国のラグビー協会や、地域連盟などが票を投じた。

フランスは1度目の投票で最多票を獲得したが、過半数には至らなかった。決選投票で南アを破り、W杯をつかんだ。

日本ラグビー協会はワールドラグビーの規定で2票を持つ。複数の関係者によると、いずれもフランスに入れたという。

深い関係の南ア見放すことに

各国が目を丸くしたのは、日本が現在、深い関係を築いている南アを見放したことになるからだ。日本のサンウルブズが16年から参戦するスーパーラグビーは南ア、ニュージーランド、オーストラリア、アルゼンチンが参加する。この4カ国は南アに投票。日本だけがその和を乱したことになる。

「日本にとって極めてまずい判断になるかもしれない」――。こう報じたのはニュージーランド・ヘラルド紙。日本協会の幹部も「南アに完全にそっぽを向かれた。将来にかなり大きな禍根を残した」と危機感を募らせる。

なぜ、日本はフランスを支持したのか。投票先の選定は協会の理事会で岡村正会長(東芝名誉顧問)に一任。一部の幹部らの話し合いで決められた。

協会の有力幹部は重視した条件を3つ挙げる。「各国とのこれまでの関係と、ワールドラグビーのリポートの内容、そしてロビー活動の熱心さ」

日本とフランスに強いつながりがあるのは事実。19年W杯の開催国が日本に決まった09年、日本を熱心に支持した国がフランスだった。

リポートとは、ワールドラグビーが外部機関に依頼して3カ国の招致計画を点数化したもの。南アが1位、フランスが僅差で2位だったが、全5項目の中で最も重視された財政・商業面はフランスが1位だった。

3点目のロビー活動の熱心さは、日本の多くの関係者が称賛する。5月に京都市で開かれた19年W杯の組み合わせ抽選会。フランス・ラグビー連盟のベルナール・ラポルト会長らが来日し、市内のホテルで各国の要人と話し合う姿がよく見られた。

抽選会の前日、フランスW杯招致委員会のクロード・アチェ最高経営責任者(CEO)に取材する機会があった。「19年W杯がなぜ日本で開かれることになったか知っているか? 我々の支援があったからだ」。借りは返してもらうと言わんばかりだった。

「日本のラグビー界で最も力があるのは、森(喜朗・日本ラグビー協会名誉会長)さんだろう? あす、会いにいくんだ」とも話していた。

フランスは多種多様の"アメ"も用意していた。関係者によると、こんな提案を受けた組織もあったという。「フランス開催になれば、大会中にTGV(高速列車)をチャーターし、代表チームの移動に使ってもらう」「我々に投票すれば、スポンサーとなる企業を紹介してあげる」。後者は買収とみられる恐れがあり、さすがに断られたようだが……。

対照的だったのが南ア。投票の半月前にワールドラグビーのリポートが公表され、最高点を得たことで油断したのか。以後は各国への働きかけを減らした。最後まで諦めないフランスの交渉は最大の勝因だっただろう。

読み切れぬ今回の投票の余波

今回の投票の余波がどういう形で表れるかは読み切れない。日本協会の坂本典幸専務理事は「投票先を明かすことはできない」としたうえで、「日本がフランスでなく南アに入れたとしても結果は変わらなかった。我々がキャスチングボートを握っていたわけではないので、そこまで影響はないのではないか」と話す。

確かに、1度目の投票の得票数はフランス18、南ア13。決選投票はフランス24、南ア15と差は開いた。ただ、「だからこそ別の選択肢を取るべきだった」と別の協会幹部は話す。「日本の2票のうち1票をフランスに入れれば、19年W杯招致の義理を果たすことはできる。もう1票は南アに入れるべきだった」。国際的な戦略が不足していたという指摘である。

今後、南アラグビー協会との間にすきま風が吹く可能性は高い。真っ先にあおりを受けそうなのがサンウルブズだ。スーパーラグビー参戦が確定しているのは20年まで。以降は日本以外の参加4カ国で構成する主催団体「サンザー」と契約を更新する必要があるが、南アが強硬に反対すれば難しくなる。実際にこんなことがあったと日本協会の関係者が明かす。「投票の直前に南ア側から接触があり、南アに投票しないとサンウルブズの存続が危うくなるとの意向を伝えられた」

そもそも日本協会ではサンウルブズの継続を推す声は弱い。ある有力幹部は「20年まではやるけれど、その後は条件次第」と消極的な姿勢を示す。スーパーラグビー参戦で日本代表選手のコンディション管理は難しくなったものの、代表強化の効果が大きいのは明らかなのだが。

サンザーは代表チームの対抗戦「ラグビーチャンピオンシップ」を開いており、ニュージーランドなどは日本の参入を検討している。日本にとってファン獲得、代表強化という点でこれ以上ない方法だが、こちらにも逆風が吹く。「フランスへの投票で日本は参入のチャンスを小さくした」とニュージーランド・ヘラルド紙。

今後、サンウルブズの存続やラグビーチャンピオンシップへの参戦を本気で目指すとしたら、南アとの関係改善のための交渉力が必要になる。今回のように相手に恩を売ることができる投票は当分なさそうだから、なおさら難業になる。

ラグビー界、ビジネスライクに

19年W杯の日本招致に携わった関係者は「世界のラグビー界の潮流に対応するためにも国際交渉力を磨くべきだ」と話す。「ラグビー界はビジネスライクになってきた。今回、収益力をアピールしたフランスが勝った一因もここにある。日本はアジア初のW杯という大義で19年大会を招致できたが、もう同じ方法は通用しない」

国際交渉力は日本のラグビー界の弱点になっている。16年、日本協会の有力者である河野一郎理事(現副会長)がワールドラグビーの理事枠を継いだが、重要事項を決める執行委員会の議席を失った。W杯の自国開催を前に、あってはならない事態だった。

逆に、国内の一部の競技団体は海外での発言力を増している。国際体操連盟の会長に17年、渡辺守成氏が就任。国際トライアスロン連合の副会長にはすでに大塚真一郎氏が就いており、「ラグビー界も人材を早く育てないといけない。国際的な人脈と国際会議での発言力を持つ人材を育てるには時間がかかる」と日本協会の幹部は強調する。

9月に来日したサンザーのメンバーが、日本のラグビーチャンピオンシップ参戦に絡めて語った。「19年W杯で日本が(1次リーグ同組の)アイルランドとスコットランドを倒すところを見たい」。日本が初の8強に入れば参入の道は開けるという示唆だ。

しかし、現場の選手が結果を出しても、グラウンド外の交渉で負ければすべてが水泡に帰す。なりふり構わずW杯を勝ち取った今回のフランスに見習うべきところは多そうだ。

(谷口誠)

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