守・破・離への道(岡田武史)

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クラブ経営 課題に直面 実り多き節目の1年

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2017/12/31 6:30
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それでスタッフに任せるべきところは任せるようにしたのだが、それが当初は裏目に出た。自由放任にしたつもりはないのだが、仕事に遅刻するとか、職場にゴミが増えるようになるとか、規律の緩みが目につくようになった。大事にすべき感性がマヒしていくというか。サッカーチームなら完全に末期的症状だった。

仕事場の掃除を率先して始めた

仕事場の掃除を率先して始めた

あらためて思い知らされたのは「任せるだけではダメなのだ」ということだった。任せることと同時に明確な目標を定めさせて、その目標が達成できたかどうかをきちんとフィードバックして報酬に反映させる体系をつくり上げる。そうしないと「コンフォータブルゾーン」と呼ばれるぬるま湯につかって抜け出せなくなってしまう。そんなことはサッカーのチームビルディングに長年携わり、十分にわかっていたつもりだったのだが……。

コミュニケーションを密に

率先して始めたのが仕事場の掃除からだった。仕事を任せ、目標と責任を持たせることと並行して、クラブで働く人間には360度評価を導入することにした。まず私がその対象になった。その結果、私に対する不満も含めて、いろいろと足りないものが見えてくるようになった。

クラブ内で働く者同士のコミュニケーションを密にすることにも努めた。チームづくりにフィロソフィーが必要なように、働きやすい職場にするために必要なものを「プロミス」と名付けて私なりにまとめ、それを週に1回の業務会議のときに全員の前で誰かに読ませるようにした。メールや電話で連絡を取り合う頻度も増やし、チームスタッフと食事をする機会も定期的に設けた。

そういう地味なことを丁寧に続けるうちに職場は明るくなり、真っ暗なトンネルの先が見えてくるようになった。サッカーチームを率いていたときもそうだったけれど、組織の一人ひとりが生き生きと輝いていない状態を見るのが、私には一番耐えられないことなのだ。失敗してはやり直し、また失敗してはやり直すという本当に苦しい1年だったけれど、自分では、やっと自分がいなくても企業としてやっていけるというか、周りに任せても大丈夫な体制を整えられ始めた手応えがある。精神的に本当につらかった時期から抜け出すことができた。

FC今治にとって今年一番の出来事は、今治市内の高橋ふれあいの丘というスポーツ公園の中に総工費約3億円をかけて「ありがとうサービス、夢スタジアム」(以下夢スタ)というサッカー専用競技場を開場できたことだった。9月10日のヴェルスパ大分とのこけら落としは5241人のお客さんで超満員にできた。

FC今治にとって一番の出来事は夢スタを開場できたこと

FC今治にとって一番の出来事は夢スタを開場できたこと

今治のご当地グルメや今治の有名店の出店はもちろん、対戦相手のご当地グルメなど全部で18のブースを出店し、来場者の目と舌を刺激する食のイベントを試合と同時に開催した。また子どもの遊び場や迷路などステージを設けてのイベントなど、いろいろなことをやった。たとえ試合に負けても「見にきてよかった」「試合以外にも楽しいことがあるんだ」と喜んでもらえる場所にしたいという思いからだった。

夢スタの効果というかインパクトは、やはり大きかった。私がFC今治のオーナーになった当座は地元の人から「どうせすぐに尻尾を巻いて東京に帰るんだろう」と斜に構えて見られていた部分があったと思うのだが、夢スタが開場して私の「本気」をやっと認めてもらえるようになったと感じる。

クラブにはスタッフがお客さんから聞き取った喜びの声を記す「ハッピーノート」と、お客さんからの苦情を記す「トラブルノート」の2種類がある。前者には、こけら落としの試合を観戦に訪れ、「こんな風景がここで見られるなんて信じられない」と泣いているおばあさんの話が書いてあり、私の胸も熱くなった。11月4日の今季最終戦で私は夢スタの出口で、来場してくれたお客さん全員を見送ったのだが、「来季もまた見にくるよ」と言ってもらうたびに、こみ上げてくるものがあった。

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