2018年12月16日(日)

記者が予測、今年はこれがバズる QCやIoA

2018/1/3 6:30
保存
共有
印刷
その他

仮想通貨バブルや人工知能(AI)スピーカーの発売ラッシュに沸いた2017年。戌(いぬ)年の18年はどのようなIT(情報技術)トレンドがバズるだろうか。IT・電機業界を担当する記者が大胆予想する。

IBMの量子コンピューターは上からツリーを吊したような形をしている

IBMの量子コンピューターは上からツリーを吊したような形をしている

(1)2018年は量子コンピューター(QC)の商用化に向けた実証実験が相次ぎそうだ。電子や光などミクロの世界で起きる現象=「量子力学」を利用した量子コンピューターは現在のコンピューターの最大1億倍の能力を持つ。カナダのDウエーブ・システムズ(バンクーバー)と米IBMが先を走るが、日本でもNTT富士通が量子力学を活用したコンピューターを開発。競争が熱を帯び始めた。

愛知県刈谷市にあるデンソーの情報エレクトロニクス研究室。寺部雅能担当係長のパソコンは9月、Dウエーブの最新QC「2000Q」とつながった。従来のコンピューターの1000倍以上の速さで演算処理する「怪物マシン」だ。

デンソーは世界で都市問題となっている交通渋滞の解決を目指している。渋滞が頻発する地域で自動車のGPS(全地球測位システム)データを集め、各車に目的地までの最適ルートをリアルタイムで示す。12月にタイで実証実験が始まった。

目的地に行くルートは無数で天候や事故、工事など状況は刻々と変化する。膨大なデータと各車の情報を突き合わせて渋滞解消につなげる。今のコンピューターでは計算に時間がかかりすぎてしまうため、QCの活用に踏み切った。

従来のコンピューターはあらゆる情報を0と1の数字に置き換え、0と1の組み合わせで計算するので、データが増えると膨大な計算が必要で時間がかかる。だが量子コンピューター(QC)は量子力学の現象を利用して0と1を重ね合わせ、0でもあり1でもある状態を作り出す。これが「1量子ビット」と呼ばれ、QCの能力を示す単位となる。

従来のコンピューターのように全ての組み合わせを計算して比較せず、0と1が重なって量子ビットのエネルギーが最も安定した状態を見つけ出し、瞬時に答えを選ぶ。計算するデータが多いほど従来のコンピューターとの能力差が開く。

「まるで大型冷蔵庫のようだった」。リクルートコミュニケーションズ(東京・中央)の技術者、棚橋耕太郎氏は世界で初めて商用化に成功したDウエーブのQC「2000Q」を目の当たりにした感想を語る。

高さ3メートルほどの「大型冷蔵庫」の中身はほとんど空洞で、真ん中にコードが絡みついた金色のパイプがぶら下がり、先端に1センチメートル角ほどの小さなチップが確認できる。

これが従来のコンピューターのCPU(中央演算処理装置)やメモリーに相当するチップで、零下273度という絶対零度に近い極低温に冷却され、超電導状態で動く。

1回の計算時間はわずか20マイクロ(マイクロは100万分の1)秒。精度を高めるため、同じ計算を1000回繰り返しても20ミリ秒で済む。棚橋氏は「すごい速さだった」と驚く。従来型のコンピューターに同じ問題を計算させると数十秒かかるという。

リクルートコミュニケーションズはDウエーブのQCを使い、ネット広告配信で閲覧者の大量の行動履歴から欲しい商品を予測し、最適な商品を推薦しようとしている。こうしたレコメンド機能はすでにあるが、大量のデータを分析して精度を高めるのが狙いだ。

DウエーブのQCは米グーグルと米航空宇宙局(NASA)が15年に課した特定の問題に「通常のコンピューターの1億倍速い」速度で結果を出した。Dウエーブの技術に疑いの目を向けてきた学者もいたが、通常なら3年2カ月かかる計算を1秒で処理するという桁外れの能力を見せつけた。

営業統括のボウ・エワルド氏は「機械学習をより効率化でき、ビッグデータから何か規則性やモデルを見つけ出したい時、より正確な結果を導き出せる」と話す。

Dウエーブは最適な組み合わせを選ぶ問題の解決に絞った特化型のQCだが、米IBMは暗号解読など様々な問題を汎用的に解ける「IBM Q」の商用化を目指している。14日には独ダイムラーや韓国サムスン電子、JSRなどと協業を始めると発表した。

従来コンピューターの1億倍の能力を持つ「夢のコンピューター」だが、実用化には課題も多い。IBMは量子現象を利用した回路そのものをつくる「量子ゲート」と呼ぶ方式を採用。重ね合わせを長時間保つため、特化型より技術的なハードルが高い。能力は20量子ビット程度にとどまっている。特化型のDウエーブでもデンソーは重ね合わせたグループが相互につながらず、自在に操るには時間がかかりそうだ。「イジング(磁性)モデル」と呼ぶ物理現象を応用するが、これを大規模な演算システムに実装するのが難しく、2000量子ビットの能力のうち200量子ビットしか実装できていないという。早稲田大学や東北大学と専用ソフトの開発に取り組んでいる。

「もう一度、国産コンピューター技術を取り戻す。これは60年かけて日本政府が世界に仕掛けたリターンマッチだ」(内閣府革新的研究開発推進プログラムの山本喜久プログラム・マネージャー)。そんな意気込みのもとNTTや国立情報学研究所(NII)らが11月にクラウド経由で一般公開したのが、量子力学的な特性を使った計算機「量子ニューラルネットワーク(QNN)」だ。

QNNも特化型だが、IBMの量子ゲート型やDウエーブの量子アニーリング型とも動作原理が異なる。1周1キロメートルの光ファイバーの輪の中に特殊な光発信器で約2000個の光を流す。この光は量子力学でいう磁石(スピン)の性質を持つ。

約2000個の光に集積回路で解きたい問題の「関係性(ゆらぎ)」を加える。ゆらぎを加えられた2000個の光は1キロメートルの輪を100~1000周する間に相互に作用し合い、全体が最も安定する磁石の向きに変化する。この磁石の向きが問題の答えとなる。

QNNは仲が悪い人同士をできるだけ別のグループに分ける「マックスカット問題」と呼ばれる組み合わせ最適化問題を解く仕組みを実装した。数十人なら0と1の掛け合わせで計算する現在のコンピューターでも解けるが、人数が増えるほど計算量が膨大になり時間がかかるようになる。QNNは2000人の仲が悪い関係性が2万という膨大な組み合わせをわずか1000分の5秒で解いた。

QNNは光の量子現象を使うが、途中で電子の集積回路を使うので厳密には量子コンピューターではないという意見もある。しかしIBMやインテルのQCの能力は10~20量子ビット程度にとどまるが、QNNは2000ビットに達する。山本プログラム・マネージャーは「実際の社会課題を解決するには10量子ビット程度では到底足りない」と強調する。

「ゾゾスーツ」を着用したスタートトゥデイの前沢友作社長

「ゾゾスーツ」を着用したスタートトゥデイの前沢友作社長

(2)18年はあらゆるモノがネットにつながる「IoT」を活用したオーダーメード品が増えそうだ。衣料品通販サイト「ゾゾタウン」を運営するスタートトゥデイは11月、着るだけで体のサイズを測れるボディースーツ「ゾゾスーツ」の注文を受け付け、10時間で23万件以上の申し込みがあった。

ボディースーツに張り巡らせたセンサーが生地の伸び具合を検出し、全身1万5000カ所を瞬時に計測する。同社は計測データを使い、プライベートブランド(PB)で1人ひとりにぴったりの衣料品を受注生産する計画だ。自分の体のサイズが分かれば、衣料品のネット通販で障壁となる「サイズのミスマッチ」を解消できる。

資生堂は自分の肌の状態にあったスキンケア化粧品をつくれる配合機器を18年春に発売する。スマートフォン(スマホ)アプリで自分の肌を撮影すると、きめや水分量などのデータが同社のサーバーに送られる。

サーバーで利用者の肌に適した成分や比率を算出し、配合機器がカートリッジに充填された原料からオリジナルの美容液や乳液をつくる。IoT技術の進化で究極のオーダーメード品ができるようになった。2018年は従来のビジネスモデルを覆す商品が出てくるかもしれない。

ロボットが撮影した映像から遠隔地の雰囲気を味わえる

ロボットが撮影した映像から遠隔地の雰囲気を味わえる

(3)遠隔観光体験などを実現する技術「IoA(インターネット・オブ・アビリティーズ)」の開発が加速する。IoAは東京大学の暦本純一教授が提唱する、人間やロボットが持っている能力をインターネット経由で共有する概念。「ポストIoT」の技術として注目を集めている。

凸版印刷は11月、高齢者らが自宅にいながら観光地を訪れているような体験ができるIoAシステム「仮想テレポーテーション」を開発した。360度を撮影できるカメラを搭載したロボットが家族と観光地を巡回。利用者は自身をぐるっと囲んだ液晶ディスプレーから、街並みや土産物店を見られる。マイクとスピーカーを通じて現地の家族と会話もできる。

凸版は18年から自動車メーカーや航空会社、旅行会社などと協力して同システムの実用化に取り組む。遠隔スポーツ観戦や遠隔就労などにも活用できるとみられる。

(4)人工知能(AI)の演算に特化した半導体の開発競争も激しくなりそうだ。米エヌビディアの「GPU(画像認識半導体)」がAI開発に広く使われているが、米グーグルは囲碁AI「アルファ碁」やグーグル翻訳など、深層学習(ディープラーニング)を使ったサービスを実現するため、独自にAI特化半導体「TPU」を開発した。

5月に発表した第2世代チップでは、人間やネコといった特徴を自ら学習して認識できるようになった。これまでは人間が「これはネコ」「これは人間」というデータをコンピューターに与え、教えていた。

第2世代チップは教えなくても人間の脳の神経細胞(ニューロン)網を数式モデルにした「ニューラルネットワーク」でデータを見て学習し、判別するという。

米インテルもAI時代の到来を見据え、米フェイスブックとニューラルネットワークを使った深層学習に特化した半導体を開発している。日本勢では富士通が深層学習に特化した「DLU」を開発した。AIのデータ処理で課題となっている電力消費を大幅に抑えた。18年度の実用化を目指している。エヌビディアの1強状態に各社が挑もうとしている。

(5)NECや富士通などの自動翻訳サービスも今年相次ぎお目見えする。国産の自動翻訳システムを搭載し、AIで日常会話も不自由なくこなす。20年の東京五輪を控え、訪日外国人に対する接客や病院での診察で導入が広がりそうだ。

NECは店頭などで使える小型翻訳端末を18年3月にも販売する。日英中韓の4カ国語に対応し、端末に話しかけるだけ。翻訳内容は文章でも画面に表示し、円滑に会話を進める。

富士通は病院で日英中の3カ国語に対応した名札型端末を18年度に発売する。医療機関で使われる専門用語に対応し、簡単な内容なら2秒以内に翻訳。外国人でも安心して受診できる。

要となるのが情報通信研究機構(NICT)の翻訳エンジンだ。170以上の企業・研究機関と共同研究し、AIで日常会話レベルに精度を高めた。3カ国語対応のイヤホンも開発、複数言語の「壁」も乗り越える。

(企業報道部 上阪欣史、堀越功、薬文江、鈴木慶太、亀井慶一、宮住達朗)

[日経産業新聞 2017年12月22日付]

保存
共有
印刷
その他

電子版トップ



[PR]

日本経済新聞社の関連サイト

日経IDの関連サイト

日本経済新聞 関連情報