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サッカー日本、W杯ですべての力出し尽くそう

2018年6月、ロシアで開幕するワールドカップ(W杯)はサッカーという範疇(はんちゅう)を超えた地球規模の祭典だ。12月1日に行われた1次リーグ組み合わせ抽選の結果はご存じのとおり。日本はH組でコロンビア、セネガル、ポーランドと戦うことになった。「いい組に入った」「そうでもない」といろいろな見方があるようだが、私は「グループ1位通過もあるぞ」と期待を込めて思っている。

今から星勘定をあれこれするのは実際のところ難しい。大会前の選手のコンディションがどうなっているかわからないし、軸と頼む選手が最後の23人の代表に選ばれるかどうかもわからない。これから半年の間にケガに泣くとか、調子を著しく落とす選手も出てくるだろう。

悔しさをどうエネルギーに変えるか

だから、これから書くことはすべて「現時点では」という注釈付きだと思って読んでほしい。

まず、6月19日の第1戦(サランスク)で当たるコロンビア。ここは第3戦(6月28日、ボルゴグラード)で当たる第1シード格のポーランドより強いと私は思っている。MFハメス・ロドリゲス(バイエルン・ミュンヘン)、FWファルカオ(モナコ)というスター選手がいて、喉から手が出るほどほしい初戦の勝ち点3を狙ってくる。

日本はアンダーエージの戦いから南米勢を苦手としている。彼らの個のクイックネス、ひらめき、ずる賢さに局面、局面で小さな綻びをつくられ、その穴を徐々に広げられて組織が崩されるパターンでやられる。このパターンから日本が抜け出すには育成年代のうちから積極的に南米勢との対戦経験をつくり、免疫をつけておく必要を感じるが、その議論は今回の原稿の趣旨から外れるので、またの機会に譲りたいと思う。

ともかく、3年前のW杯ブラジル大会の1次リーグ最終戦で日本はロドリゲスにいいようにあしらわれてコロンビアに1-4で完敗、泣く泣くブラジルを後にした。そのコロンビアとW杯で再び戦うわけだが、ロドリゲスがスペインのレアル・マドリードからドイツのブンデスリーガにやってきたことで怖さは若干薄れた気がする。日本には同じブンデス組が多く、対戦経験のある選手もいる。3年前は本当に「何をしてくるのかわからない選手」だったが、今回はある程度、ロドリゲスの手の内は読めている。

たった3試合で決勝トーナメント(ベスト16)に進めるかどうかが決まるW杯の1次リーグで初戦の占める比重は限りなく重い。2戦目、3戦目になれば、自チームと対戦相手の最新のデータが集まるから作戦は立てやすくなるが、初戦はそうはいかない。計算がたたないことがいっぱいある。その壁をどう乗り越えるかで、スカウティング部隊の役割は非常に大きい。

情報の取捨選択をしっかりやってコロンビア対策を綿密に立て、こちらのストロングポイントを相手のウイークポイントにぶつけられたら、勝利を手繰り寄せることは十分に可能。日本とコロンビアの差はそれくらいだと私は思っている。強烈なプレスとプレスバックでロドリゲスに自由を与えない。それで相手の攻撃にロドリゲスをスキップすることが増え、例えば、クロス攻撃が増えても、前線に高さはないから今の日本のCBなら十分に対抗できるだろう。

コロンビア戦は、ブラジル大会で屈辱の大敗を喫した選手たちの悔しさをどうエネルギーに変えるかもポイントになる。ブラジル大会の1次リーグでスペインを5-1で粉砕したオランダがそうだった。

あの試合を思い出してほしい。10年南アフリカ大会決勝でスペインに延長で敗れたオランダは4年後にめぐってきたリベンジのチャンスに燃えに燃えた。1次リーグB組のオープニングマッチでスペイン相手にファンペルシーとロッベンが2点ずつ決めて5-1の大勝。ここでつまずいた前回王者スペインは1次リーグで消え、波に乗ったオランダは3位まで勝ち上がった。ヨハネスブルクのかたきをサルバドールで見事に打ったのである。ああいう怒りにも似たエネルギーでチームを満たすように、ハリルホジッチ監督以下チームスタッフは選手を導いてほしいものだ。

最大限に選手のよさを引き出すために、最大限のサポートをする。最大限の結束力でサポーターのエネルギーも含めて初戦にぶつける。

「コロンビアに借りを返す」

大げさではなく、1人でも多くの国民がそう思ってくれることが勝利につながると私は思っている。

第2戦(24日、エカテリンブルク)で当たるセネガルは両サイドのマネ(リバプール)とケイタ(モナコ)を躍動させないようにするしかない。この2人に暴れるスペースを与えたら勝ち目は薄い。

欧州組による「生の情報」大切に

大切にしたいのは守りの要の吉田麻也(サウサンプトン)や岡崎慎司(レスター)、酒井宏樹(マルセイユ)らがもたらす「生の情報」だろう。未知の相手だと腰が引ける部分はあるが、吉田や岡崎や酒井はイングランド・プレミアリーグ、フランスリーグ、そしてチーム内でも、とてつもない身体能力を持ったアフリカ勢と毎日やり合っている。そこには映像分析だけではわからない、彼らの肌感覚というものがある。それをしっかり聞き取って戦術の中に落とし込むことを考えたい。

最後に当たるポーランドは、国際サッカー連盟(FIFA)ランキング7位と、H組の中では最上位である。このチームの脅威は、欧州予選10戦で16得点をマークしたレバンドフスキ(バイエルン・ミュンヘン)という世界最高峰のFWにある。が、ポーランドが仮に2戦目で1次リーグ突破を決めたら、このストライカーは日本戦のピッチに立つかどうかわからない。休養を与えることは十分考えられる。

レバンドフスキはとびっきりのFWだが、16得点の中にはPKの5得点が含まれることを知っておきたい。PKも含め、ポーランドはセットプレーからのゴールが多いので無駄なファウルは慎むことだ。日本と同じくドイツ・ブンデスリーガでプレーする選手が要所にいて、ある意味で共通の基盤がある相手。南米勢と対するときと違って、流れの中ではそんなに崩されないような気がしている。

1次リーグは初戦がすべて、そこで最低でも勝ち点1(引き分け)はほしいと思う。もし、日本が初戦を落とし、次のセネガル戦で勝ち点3をもぎとったとしたら、それは日本の地力が相当上がった証拠だろう。「新たな地平が開けた」と表現しても、おかしくはないくらいの出来事になるだろう。

あと、これは半分冗談みたいに聞こえる話だが、日本がW杯の1次リーグをクリアするには、バイエルン・ミュンヘンに欧州チャンピオンズリーグ(CL)をどんどん勝ち上がってもらいたいと思っている。バイエルンには日本が対戦するコロンビアのハメス・ロドリゲス、ポーランドのレバンドフスキの両エースが所属する。このチームがCLの準々決勝、準決勝、決勝と勝ち進めば進むほど、両エースも疲弊するわけである。CLの決勝まで進めばそれなりの休養が必要で、W杯に向けた始動の遅れは1次リーグのエンジンのかかりの悪さにつながる。それはきっと日本の朗報になるだろう。

組み合わせ全体を見ると、私が4強と考えるドイツ、フランス、ブラジル、スペインはグループリーグ1位を確保すると準決勝まで対戦しないことになった。それぞれの監督は安堵したのではないか。

ドイツを破るとしたらブラジルか

その中で私は優勝の一番手にブラジルを推す。とにかく今のブラジルは守備がすごくいい。攻めから守り、守りから攻めの切り替えのところが格段によくなった。守備の際の立ち位置がよく、ボールを奪ってから瞬時に相手ゴールを陥れる攻撃の質もずぬけている。

エースのネイマール(パリ・サンジェルマン)を支えるガブリエル・ジェズス(マンチェスター・シティー)、コウチーニョ(リバプール)の台頭も頼もしく、あのパスを回すのが好きなブラジルが安易にボールを下げなくなったことに驚く。パスを縦につける速さの連続性にはサッカーの未来さえ感じてしまうほどだ。

チーム単体はもちろん、チームを支えるコーチングスタッフ、メディカル、情報分析、メンタルなど各部門の準備力で桁違いの力を見せてくれるドイツだが、その前回王者を破るチームがあるとしたらブラジルに思えて仕方ない。

フランスは選手個々の力はドイツやブラジルに遜色ない。わずかな差はドイツのレーウ監督は優勝するまでの7試合の勝ち方を熟知しているが、デシャン監督にはそれがないことだ。

スペインはレアル・マドリード、FCバルセロナの二大クラブに属する面々が世界のトップに立つために必要なことを知っているのが大きい。ボールを失うことなくパスを回す力、攻守の安定感は素晴らしく、勝者のメンタリティーを持つことはセルヒオラモス(レアル・マドリード)のプレーを見れば一目瞭然だ。

4強を追う、アルゼンチンも悪くはない。アルゼンチンが優勝するとしたら、途中でいくつかのアクシデントを乗り越えて尻上がりに調子を上げたときのように思う。メッシが最初の試合から最後の試合まで出ずっぱりになるような展開では厳しい。メッシに何か問題があって出遅れて3戦目から出てくるような流れになったときの方が怖い気がする。それまでの場をつなぐタレントには事欠かないチームだ。

4強にアルゼンチンやポルトガルが絡む戦いは、富士山でいえば、雲から突き出た頂上のところでの戦いであり、山裾にいる日本からは遠い位置に思える。しかし、山裾にいるから日本もその頂上を目指せるわけで、その資格というか権利を大いに行使してほしいものである。

そのためにも選手には毎試合、すべてのエネルギーを使い果たして終わってほしいと思う。この選手たちで、チームとして、何ができるか。W杯で上位に勝ち進むようなチームとの差は何なのか。それらは全力を出し切って初めて見えることだから。差がはっきりと見えれば、それを詰める次の作業につなげられる。勝ち負けよりも、力を尽くさないで大会を去るのが一番よくないことである。

(サッカー解説者 山本昌邦)

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