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プーチン氏、中東で存在感

「八方美人」外交に懸念も

The Economist

シリアのバッシャール・アル・アサド大統領に断固として反対する者でさえ、今回の冷遇ぶりに身をすくませた。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は12月11日、事前に予告することなくシリアのヘメイミーム空軍基地を訪れた。ここは、ロシア空軍が2015年から、シリアの反政府勢力に対する空爆作戦の拠点としてきた場所だ。

それから2年がたち、プーチン氏の目標はほぼ達成された。中東におけるロシアの軍事基地は安泰だ。ロシアの孤立を図る欧米の試みは失敗に終わった。

アサド氏は今もシリアの大統領で、ロシアが「米国が主導する体制転換の波」とみる事態を食い止めている。だが、ヘメイミーム基地で写真撮影が始まり、アサド氏が加わろうとすると、ロシアの担当官が同氏の腕をつかんで引き留めた。この基地はシリアの領土内にあるが実質的にはロシアの縄張りだ。ウイニングランの先頭を走るのはあくまでもプーチン氏なのである。

同氏は同日、シリアからエジプトに飛び、アブデルファタフ・シシ大統領と会談した。両氏は、シナイ半島上空でロシア旅客機が15年に墜落して以来運航が停止していた両国間の航空便を再開することで合意した。

また、エジプト北部沿岸にロシア製の原子力発電所を建設する210億ドル(約2兆3600億円)の契約も締結に至った。両国はここ数週間、ロシアの軍用機がエジプトの飛行場を使用することについて協議している。

指導力発揮しない米国に不満

この日の締めくくりにプーチン氏はトルコを訪れた。同国ではレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領がロシア製地対空ミサイルの購入案件が進展したと発表した。

こうした出来事の大半は、数年前には考えられなかったことだ。トルコは北大西洋条約機構(NATO)の加盟国。エジプトは1970年代から米国の緊密な同盟国となっている。だが多くの近隣国と同様、トルコとエジプトも、中東で指導力を発揮しない米国に不満を感じている。ドナルド・トランプ米大統領は、過激派組織「イスラム国」(IS)の聖戦主義者との戦い以外にシリアへの関心をほとんど示していない。

このためトルコは、この地域で新たに勢力を拡大するロシアに目を向けるようになった。エルドアン氏は、かつてはシリアに立ちはだかる強敵だったが、今ではアサド政権の存続を受け入れている。エルドアン氏は、シリアで活動する少数民族クルド人主体の民兵組織を米国が支援することに憤慨している。この支援は、オバマ前政権が始めたものだ。この民兵組織はトルコ国内の非合法武装組織と通じている。

エジプトは、反体制派や民主主義者を迫害しても、ロシアがエジプトを罰することはないと確信している。この点においてロシアは米国と異なるとみる。米国は2017年8月、エジプト当局による人権抑圧などに対する制裁としてエジプトへの支援の一部を打ち切った。エジプトは常に米国をいら立たせる同盟国だ。

ロシアは最近、イスラエルとパレスチナの紛争にまで干渉するようになった。ロシアは中東の和平交渉を仲介する「中東カルテット」の一員であるにもかかわらず、これまで最も消極的な姿勢をとってきた。だがプーチン氏は16年、一連の会談を主催すると提案した。

部隊撤収は大統領選への布石か

プーチン氏は今回、トルコのアンカラで、エルサレムをイスラエルの首都と認めるトランプ氏の決定を批判した。プーチン氏にとってこの問題は戦略的な重要性を持つものではない。ロシアはすでにイスラエルと緊密な関係を築いているし、国家統治権のないパレスチナから得るものは何もない。だがプーチン氏にとって、これは米国を非難する絶好の機会だった。

 プーチン氏はロシア国民を念頭に置いているのかもしれない。ロシアの人々は同氏が進める強気の外交政策を称賛している。中東はプーチン氏が手腕を振るう中心的な舞台となった。

だがシリアへの軍事介入はロシア国内ではあまり歓迎されなかった。ほとんどのロシア人はこの内戦の終結を望んでいるだろう。今回のシリア滞在中、プーチン氏はロシア部隊の撤収を開始すると述べた。

「ミッションの完了」宣言は、次の選挙に向けて同氏が打った最初の布石とみることもできる。18年3月に実施される大統領選挙でプーチン氏が再選するのは確実だが、ロシア政府は投票率が低位にとどまることを懸念している。

経済が失速を続けるロシアにとって、中東は大きな利益を生む市場でもある。ロシア国営の石油大手ロスネフチはイラクのクルド地域で進むインフラ構築に10億ドル(約1100億円)以上を投資している。原発をめぐるエジプトとの契約はこの地域における一例にすぎず、ヨルダンおよびトルコともプラント建設の契約を交わしている。

「圧勝」とはいえぬシリアでの軍事行動

シリアでの軍事行動はロシアの軍事力を実地で示すものであり、恐らく将来、他の場所で実行することになる作戦の青写真となる。現代空軍力の容赦ない展開が地上の戦況を塗り替える効率的な方法であることを証明した。民間軍事会社に偽装する会社に急襲を委託したのは、ロシア人犠牲者の存在を世間の目に触れさせないようにする上で一役買っている。

だがロシアを中東における新たな超大国と見るのは行き過ぎだ。まず、シリアのケースが「圧勝」だとはとても言えない。アサド氏は崩壊した国家の弱体化した指導者にすぎない。

また、ロシアは現在のところ八方美人を決め込んでいる。イランと緊密に連携する一方で、その大敵であるサウジアラビアとのつながりを深める。このような関係はいずれ必ず衝突を招く。

例えばイスラエルは、シリア国内で活動するイラン人民兵の拘束をロシアが拒否したことに内心では憤慨している。エジプトは年間10億ドルを超える支援を米国から受けている。もしロシアの軍用機に自国の空軍基地を開放すれば、米国が提供する高度な武器や情報にアクセスできなくなる恐れがある。

米国の不在が生んだ空白を埋めようと狙っているのはロシアだけではない。17年11月、エマニュエル・マクロン仏大統領はレバノンで起きた政治危機を打開すべく動いた。また同氏はトランプ氏がエルサレムをイスラエルの首都として承認したことに反対の声を上げている。

サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子はイエメンその他の国で自らの力を誇示する。

プーチン氏の中東訪問はロシアの内政において同氏を利するかもしれない(同氏に対抗できる真のライバルはロシア国内に存在しないのだが)。その一方で中東では、重要なプレーヤーによる勢力争いがその熱を高めつつある。

(c)2017 The Economist Newspaper Limited Dec.16-22, 2017 All rights reserved.

英エコノミスト誌の記事は、日経ビジネスがライセンス契約に基づき翻訳したものです。

英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。

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