2018年9月21日(金)

数兆円規模の産業はまだ生まれる
宮内義彦オリックスシニア・チェアマン

経営者ブログ
コラム(ビジネス)
2017/12/22 6:30
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■政策1つで急速に伸びた観光産業

宮内義彦(みやうち・よしひこ) オリックスのシニア・チェアマン。 1935年神戸市生まれ。関西学院大商学部卒。米ワシントン大経営学修士(MBA)。リースを手始めに不動産、生命保険、銀行などへ事業領域を広げてきた金融サービス界の重鎮。最高経営責任者の在任期間は30年を超える。語り口はソフトながら、世の中の動きを分析する視点は鋭く、時に厳しい。現在も経営への助言を続けている。プロ野球オリックス・バファローズのオーナー、新日本フィルハーモニー交響楽団理事長の顔も持つ。近著に「私の経営論」(日経BP社)、「私の中小企業論」(同)

宮内義彦(みやうち・よしひこ) オリックスのシニア・チェアマン。 1935年神戸市生まれ。関西学院大商学部卒。米ワシントン大経営学修士(MBA)。リースを手始めに不動産、生命保険、銀行などへ事業領域を広げてきた金融サービス界の重鎮。最高経営責任者の在任期間は30年を超える。語り口はソフトながら、世の中の動きを分析する視点は鋭く、時に厳しい。現在も経営への助言を続けている。プロ野球オリックス・バファローズのオーナー、新日本フィルハーモニー交響楽団理事長の顔も持つ。近著に「私の経営論」(日経BP社)、「私の中小企業論」(同)

 今日は訪日客(インバウンド)の話から始めたいと思います。政府関係の方と話していると、今年の訪日客はおそらく2900万人には到達するだろうという見方です。このままのペースでいくと、2020年に4000万人という政府目標は余裕で達成できるだろうと思われます。驚くべきことに、年間の訪日外国人旅行者数が初めて1000万人を超えたのは13年で、それまでの観光収入は年間1兆円程度でした。ところが安倍政権になって政策が大きく変更され、より多くの観光客を受け入れるため、観光査証(ビザ)の発給要件を緩和しました。その結果、今年の観光収入は4兆円台にまで増える見込みだそうです。つまり、わずか数年間で、数兆円規模の産業が日本に生まれたということになります。

 これは画期的な出来事ではありませんか。政策変更1つで一大産業が生まれつつあるのです。インバウンド観光客を受け入れるために、ホテルの建設のみならず、地方再生、あるいは雇用の拡大も各地で進んでいます。付随して発生する投資だけではなく他の産業への波及効果も考えると、ものすごく大きな経済価値をもたらす政策変更だったと思います。はっきり言って快挙です。「なぜ今までやらなかったのか」という疑問も生まれますが、あの時点での決断が素晴らしかったことだけを強調しておきます。

 ただ、一つ注意点があります。観光産業は平和を前提とした産業です。紛争や疫病の流行などのイベント・リスクが起こればひとたまりもなくなる怖さもあります。

 例えばオリックスは仏バンシ・エアポートと組んでコンソーシアムをつくり、関西国際空港と大阪国際(伊丹)空港の運営権を取得しています。また、来年4月には神戸空港も民営化され、3空港の一体運営がスタートします。この契約期間はいずれも40年を超える長期期間です。これらの事業計画では空港の需要予測を作っていますが、スムーズに利用客が伸びるという想定ではありません。利用客が激減するタイミングが複数回ある可能性を折り込んでいます。事業全体では成長していっても、時折起こるだろう危機に備え、持ちこたえられるようにしておく必要があるからです。

 もちろんこれは観光事業の特性に基づく長期計画ですが、このところの伸びを見ると頼もしいものがあります。先日大阪へ出かけた折、ミナミの繁華街を歩いてみました。心斎橋筋を始め千日前などの街々は、インバウンド客で一杯で、驚くほど変貌しています。どうもアジアのお客様にとって大阪・ミナミはとても居心地の良い商店街という認識が生まれつつあるようです。外国人観光客も心から安心してショッピングと飲食を楽しんでいる様子でした。

■スポーツビジネスに伸びしろあり

 観光産業の例を考えると、やりようによっては日本で新たに数兆円規模に成長する産業はまだあるのではないかと思えてなりません。私が関連しているところで言えばプロ野球。さらに広げてスポーツエンターテインメントビジネスです。欧米では既に実現しているのですから、日本でも巨大なポテンシャルがあると思います。米国では野球、アメリカンフットボール、バスケットボール、アイスホッケーが4大スポーツです。さまざまなスポーツが市場を伸ばしています。

 野球で比較しますと、1995年からの20年間で、日本の市場規模は1割ほど増えましたが、アメリカではなんと7倍に成長したとも言われています。不思議なことに、95年時点では日本と米国の野球ビジネスの市場規模に大きな差はありませんでした。伸びていないということは、まだ潜在的な市場、すなわち伸びしろがあるということですが、なぜこれだけの差が生じたのか。訪日客へのビザ発給と同様に、何か原因があるのです。

 米大リーグは、野球を本格的なビジネスとして育てるため、腕利きのビジネスマンをコミッショナーに据えました。ロサンゼルス五輪の組織委員長を務め、成功に導いたピーター・ユベロス氏です。コミッショナーとして圧倒的な権限を与えられ、「30チーム・1ビジネス」の考え方を取り入れました。

 1ビジネスですから、面白いことは全て束になって実行に移します。例えば30チームの放映権の取り扱いはコミッショナーがまとめて交渉します。ものすごい力です。日本はチーム単位で放映権を扱いますが、チームごとか30チームまとめてかで、放映権料収入が圧倒的に違い、交渉の力も歴然です。今後はネットを介してのビジネスをどう開拓するかが大きな課題です。例えばテレビ放映など、米国では30チームを統括して、出来るだけその日の一番注目されている試合を見せます。最後の優勝争いになってくると特にそうです。こうすることで、シーズンの最後の最後までファンを引きつける。このやり方は他のスポーツでもうまくいっています。そしていつの間にか、スポーツエンターテインメントという確固たる事業が生まれたのです。

■農業もカギ

規制緩和で農業の輸出も新たな産業になる

規制緩和で農業の輸出も新たな産業になる

 もう1つ新たな産業が生まれるとすれば、農業の輸出です。日本は耕作地が肥沃で、十分な降水量があり、農業に最も適した気候です。これまでの日本の農業政策は、輸入が増えるのを一生懸命食い止めることばかり考えてきました。農家への保護が行き過ぎて、農業の国際競争力を作るという観点がありませんでした。規制を緩和し、農地の売買や賃貸が自由にできるようになれば、大規模化も進み、より多くの企業が参入して自由なアイデアを持ち込めます。

 これはまさにオランダがやっていることです。オランダは世界第2の農業輸出国ですが、日本も同様のポテンシャルを持っているはずです。制度が成長を阻んでいるのです。

 観光産業の急成長が良い例ですが、制度を変える、これまでの方針を転換するなどの工夫があれば、日本にもまだまだ数兆円規模のビジネスが生まれるポテンシャルがあるのではないでしょうか。そのためには野球などスポーツの場合は当事者が、また農業のように政策的手当が必要な場合には当局が、その産業を成長させることを面白いと思うかどうかが大切です。インバウンドでの成功を好例として、スポーツエンターテインメントビジネスや農業にも期待したいと思います。

宮内義彦 オリックス シニア・チェアマンのブログは原則毎月下旬の金曜日に掲載します。

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