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山陰の風土 創作の手助け 白磁の人間国宝・前田昭博さん(語る ひと・まち・産業)

鳥取に若手工芸作家の郷

白磁の人間国宝、前田昭博さん(63)は窯を構える鳥取市河原町西郷地区で、若手工芸作家の移住の受け皿を作る「いなば西郷工芸の郷」構想を提唱する。2016年には作家に工房や空き家を提供する住民団体も結成され、県と市も団体の整備費の半額を補助する制度を新設した。

 まえた・あきひろ 1954年、鳥取県河原町(現鳥取市)生まれ。77年大阪芸大卒業後、鳥取市に戻り創作活動を開始。2013年に鳥取県在住者として初めて、重要無形文化財「白磁」保持者(人間国宝)に認定された。16年から日本工芸会副理事長を務める。

「高齢化した地域の将来を見据えると若い人材は欠かせない。地域で創作に打ち込む作家の存在は災害時を考えても、地域の安心に貢献できる。4月に支援制度での移住第1号となる陶芸家の花井健太さん(32)が窯を開いた。今後10年で新たに最低でも10人ほどの様々な分野の工芸作家を呼び集め、お互いが刺激し合える文化の拠点にしたい」

「西郷地区は約170年前に職人を受け入れてから陶芸の歴史を刻み、3つの窯がある。近年、ガラスや木工の工芸作家ら3人も工房を構えた。豊かな自然と作家を受け入れる人の優しさが創作にとても適している。地域の特性を生かした振興策を考えた時、おのずと構想に行き着いた」

「これまで人間国宝になった人が良い仕事や良い行いを重ね、各地で工芸の歴史を刻んできた。その一員に加わらせてもらっただけで、構想推進の広告塔のように使ってもらえればいい。地域の工芸の歴史を次世代に受け継ぐことはやりがいがある」

西郷地区には無かった白磁の歴史を生んだ。若いころは、白磁について誰にも相談できない環境に悩み、創作の場としての鳥取をどこか嫌っていた。

「父親は小学校の教員で陶芸とは直接の縁が無かったが、美術大学3年生で白磁に出合い、道を志した。卒業後に西郷地区の実家に窯を開いたが、失敗を重ねた。窯で焼く温度を誤り、3カ月かけて制作した器の全てを壊してしまう失敗も2度。腕力でおさえこむように作品を作っても、造形がうまくいかなかったり、ヒビが入ったり。ところが、やがて素材が『それはつくらないほうがいい』と拒否しているような感覚を覚えるようになった。土と格闘の末、その声に耳を傾けられるようになった」

構想の第一歩となる郷開きの式典で移住した花井さん(左)を迎えた(4月)

「白磁の相談相手がいない鳥取はものづくりに最悪の場所だと思っていたが、かえって何も無いことが創作に打ち込む環境に適していることに気づいた。降り積もったどこかぬくもりのある雪や白磁に微妙な影をつくる柔らかい光など山陰の風土が創作の手助けになった。自信を持って創作の場として推薦できる」

東京は人間が住むモデル地区ではない。これからは自分で選択して心地よい生き方をつくる時代だと提案する。

「日本の文化として世界に発信されているものの多くは地方の風土から生まれた。自然が豊かで人が優しい地方での暮らしはぜいたくだ。構想を通じて住民が移住者らと交流することで地域を見直す機会が増えた。住民にとって当たり前のことが貴重だという気づきにもつながり、誇りを育む効果も与えてくれる」

「どの地域でも歴史や伝統を見つめ直せば、何か地域おこしに生かせる誇りになるものを見つけ出せる。もし見つからないなら、それを生み出せばいい」

「住みたい田舎」上位に

《一言メモ》

鳥取県の自治体は移住に関連する指標の自治体ランキングで上位の常連だ。鳥取市は宝島社が発表した「住みたい田舎」ランキングの2017年版で総合部門1位を獲得した。砂丘でのストレス解消メニューや農業事業者らとの交流会などを用意する移住体験プログラムを展開。鳥取空港を利用する参加者に4万円を支給する手厚い支援もある。

智頭町は自然の中で子育てする「森のようちえん」が呼び水となって移住者が増えた。森で思い思いに過ごすことで子どもの自主性を伸ばし、コミュニケーション能力も育むという。10年度以降だけで町の空き家バンクを利用して97世帯232人が移住。移住世帯主の8割超を20~40歳代(移住時年齢)が占める。

鳥取県では県内各自治体の取り組み強化で移住者を増やしている。

(鳥取支局長 山本公啓)

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