2019年8月23日(金)

移動図書館 豊富な大阪(もっと関西)
とことんサーチ

2017/12/14 17:00
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大阪市の広報誌をめくっていると「移動図書館の巡回日」の文字。車に書籍をたくさん積んで巡回する移動図書館というと、面積が広い郊外で運行されているイメージがあり違和感を覚えた。気になって調べてみると、大阪府下の移動図書館は24台で北海道などに続いて4位と全国でも屈指の多さであることがわかった。東京に次ぐ大都会で、面積も小さい大阪になぜこんなに多くの移動図書館が――。記者は大阪の移動図書館の謎を取材した。

移動図書館の巡回日には、子供連れの主婦らが集う(12月上旬、大阪市)

移動図書館の巡回日には、子供連れの主婦らが集う(12月上旬、大阪市)

「この本、面白そうだね」。12月初旬、冷たい風が吹く大阪市此花区の公園。1台の車の前で主婦や子供、散歩中の男性らが思い思いに本を選んでいた。この日は、大阪市立図書館の移動図書館「まちかど号」の巡回日。3歳の次男と7カ月の三男を連れた主婦(35)は、絵本や料理本など約15冊を借りた。「近くに図書館がなく、子供を連れていくのは大変」

この主婦の発言に代表されるように、移動図書館を利用するのは、一義的には近くに常設の図書館がないからだろう。それもそのはず、日本図書館協会によると、人口10万人当たりの公立図書館の数は高知県は5.2カ所、富山県は5.1カ所もあるのに、大阪府はわずか1.6カ所。東京都の2.9カ所も下回る。

なぜ大阪では常設図書館の数が少ないのか。大阪市の一般会計に対する総図書館費の割合をみてみると、0.087%(2016年)。この割合は東京都23区の0.56%程度と比べて低い。大阪市中央図書館の担当者は「厳しい市の財政下で図書館の予算を増やすのは難しい」と話す。

大阪には市立中央図書館や府立中央図書館、府立中之島図書館など立派な図書館が存在するため、1区2カ所以上の分館は必要ないとの考えも予算抑制に影響した可能性もある。結果として予算の制約から常設図書館の建設が進まず、補う形で移動図書館の多さにつながっている格好だ。

だが大阪に移動図書館が多い理由は、それだけではなさそうだ。図書館を研究する十文字学園女子大学の石川敬史准教授は、「大阪の移動図書館の台数は古い歴史と大きく関わっている」と指摘する。

日本で最初の移動図書館が運行したのは、1949年に千葉県が書籍を積んだ車「ひかり号」を巡回したというのが有力説だ。だが「それより前に大阪には移動図書館で面白い動きがあった」(石川准教授)。

豊中市の「動く図書館」は映画会も開催していた(1951年、岡町北)

豊中市の「動く図書館」は映画会も開催していた(1951年、岡町北)

48年に現在の大阪府能勢町付近で、すでに本を積んだオート三輪が各地を回ったという記録が残っているからだ。ちょうど11月の読書週間の時期に相当し、コンクリート舗装されていない泥だらけの道を丸1日かけて、図書館員2人が巡回していたという。

「市立の図書館で、移動図書館の運営を始めたのは豊中市が全国でもかなり早い方ではないか」と話すのは、豊中市立岡町図書館の永島緑副館長だ。

豊中市の図書館が移動図書館の巡回を始めたのは50年。当時の館長の葛野勉氏は博識で定評があり「海外で先行していた移動図書館に注目していた可能性がある」(永島副館長)。

ただ、豊中市の移動図書館は単に書籍の貸し出しのみを提供したわけではなかった。当時から映画会を開催するなど市民が集う場を提供。60年には市民による「動く図書館利用者の会」が発足。要望活動のほか、マジックやダンスを楽しむ行事も開いた。この催しは現在も月に1度開催の「読書会」に受け継がれている。大阪の住民は周期的に巡回する移動図書館を、地域住民が交流する機会として利用したともいえそうだ。

実際、豊中市の移動図書館には葛野館長時代に「動く図書館のうた」が生まれた。歌詞には「一ぱい本を乗せて来る 青い車は虹の橋 みんなのみんなの虹の橋」とのくだり。移動図書館は本と人、人と人を結ぶ「橋」と歌う。

常設図書館の代替の要素は否定できないが、移動図書館は様々な住民の思いも携えて今日も大阪を走る。

(大阪経済部 田辺静)

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