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アスリート、能力ずぬけていないのなら頭を使う

対談 岩政大樹(サッカー元日本代表)×小宮山悟氏(野球解説者)

 元千葉ロッテで野球解説者の小宮山悟氏(52)はサッカーファンとして知られ、Jリーグ理事も務める。頭脳派という点で共通するサッカー元日本代表の岩政大樹が投球術、打者との駆け引き、理にかなった体の使い方について掘り下げた。

岩政 野球界の方とじっくり話をするのは初めてです。

小宮山 僕はもともとサッカーが好きなので、サッカー界の方との接点が多いんです。横浜ベイスターズ時代に横浜F・マリノスと合同でファン感謝デーを開催したことがあって、F・マリノスの選手とサッカーをしました。当時、日本代表だった波戸康広選手のドリブルにはびっくりした。懐かしい思い出です。

サッカー界、驚くほどオープン

岩政 ずっとサッカーファンだったのですか。

小宮山 高校(芝浦工業大学柏高)のときにブラジル帰りのサッカー部員がいて、彼が「サッカーが世界で一番のスポーツなんだ」と盛んに言うんですよ。その影響をかなり受けました。ちょうどそのころサッカーのワールドカップ(W杯)スペイン大会をテレビで見て、その熱狂ぶりに「すげえな、これは。確かに野球より上だな」と思いました。

小宮山氏(左)と投球術、打者との駆け引き、理にかなった体の使い方について掘り下げた

岩政 Jリーグの理事になった経緯を教えてください。

小宮山 横浜ベイスターズが横浜F・マリノスを応援するキャンペーンを始めるというときに、「僕はできない。生まれも育ちも柏だから、レイソルを裏切れない」と言ったんです。それが話題になって、当時、Jリーグのチェアマンだった大東和美さんの耳にも届いたらしい。Jリーグの幹部のみなさんに呼ばれて、「Jリーグは岐路に立たされているので、野球界で様々な経験を積んだあなたからアドバイスをいただきたい」という話を聞いて、断れなくなりました。

岩政 理事となって、どういうことを感じましたか。

小宮山 プロ野球界の最高意思決定機関は12球団のオーナーで構成するオーナー会議です。そこにいろいろな案件が上がっていくまでの議論が不透明だと感じていました。それに比べるとサッカー界はびっくりするくらいオープンです。会議後、チェアマンがメディアに細かいことまで説明します。サッカー界は野球界を反面教師にしていると思います。

岩政 議論が難しくなっている面もありませんか。

小宮山 全クラブが幸せになれるということはなかなかないと思います。利害が一致しないこともあります。それでも、みんながある程度、幸せになれるところで妥協している印象です。

岩政 現役時代、小宮山さんはかなり緻密に考えて、野球をしていましたよね。

小宮山 そうせざるをえなかったからです。アスリートとしての能力でいえば、自分よりはるかに上のレベルの打者と対戦しなければなりませんでした。だから、相手の弱点を見つけて、徹底的に突いていくしかありません。頭を使って駆け引きをしていけば、互角に勝負できるんじゃないかと思って、そっちに走ったわけです。プロに入ってくる選手は小さいときから特別な存在です。そういう選手ほど、世の中にポンと放り込まれたときに、どうやって生き延びるかという人としての力が欠如している気がします。挫折を知りませんから。僕は才能がそんなにないから、いろんなことを考える力がつきました。言い方は悪いけれど、ずる賢さは秀でています。

岩政 サッカーでも「ずる賢さ」という言葉を使うけれど、間違って捉えられているような気がします。ずる賢いというのは、自分が持っているものをどう生かしていくかがうまいわけで、決してきたないことをしているわけではないと思います。結局、自分にあるものを総動員して勝負するということですよね。

小宮山 ちょっと人が思いつかないことができるわけです。それを「ずる賢い」と表現する場合、嫉妬心が含まれているのではないでしょうか。

岩政 他の選手とは違う、と思われるようになったのはいつごろですか。

小宮山 早稲田大学時代でしょうね。プロ入りしたときは、高校、大学時代からずっと野球でメシを食っていくんだと思ってきた選手に、野球で負けてもしょうがないと腹をくくっていました。僕は気がついたらプロになっていたというレベルの選手です。だから、特別な選手に一泡吹かせることに、これ以上ない喜びを感じていました。

岩政 配球術を教えてください。

小宮山 常に、打たれることを想定しながら投げなくてはいけません。打たれても、こっちの傷が浅いようにするにはどうしたらいいかを考えて、落としどころを定めていきます。過去の対戦を振り返って分析しながら、こういう状況ならこうだなと考えていくと答えは出てきます。あとはそこに正確に投げられるかどうかという技術の問題になります。

岩政 相手が待っているボールは投げないようにするのですか。

小宮山氏は、3割打者に打たれても「そりゃ、打つわな、3割打者は」と考える

小宮山 状況によりますね。相手がカーブを待っているのがわかっていても、投げることがあります。その場合、ストライクゾーンからボールになるカーブを投げます。

岩政 同じカーブでも、ちょっと違うものを投げられるのですね。

小宮山 スピードを変えられます。相手が「カーブがきた」と思って、いつものタイミングで振ってもずらせるわけです。

結果が予想の範囲なら動じない

岩政 自分のセオリー通りに投げても打たれるときがありますよね。そういうときはデータ通りに一番、打たれる確率が低いところに投げたんだから仕方がないと考えるのですか。

小宮山 思ったような結果になるかどうかは、それほど重要ではないんです。そうならなかったとしても、次の勝負、そのまた次の勝負につながります。目の前で不思議なことが起きてしまうようではいけないけれど、予想の範囲であるなら動じません。余裕ですよ。それに、40歳を過ぎてからは、打たれても命まで取られるわけではないと考えるようになりました。3割打者に打たれても「そりゃ、打つわな、3割打者は」と考えます。

岩政 自分のセオリーを崩してくる打者もいるのですか。

小宮山 崩さない打者は打ち取りやすいけれど、形を崩してくる打者はやっかいです。でも、そういうレベルの打者との対戦は楽しい。キツネとタヌキの化かし合いみたいで。こうきたか、じゃあ、こういこうという駆け引きが面白いんです。落合博満さんが日本ハムにいたときに対戦したことがあります。僕はオープン戦ではスライダーばかり投げたんです。開幕後の対戦では一転して、体をのけ反らせるシュートを投げて打ち取りました。落合さんのようなレベルの打者でも、頭にないボールは打てないんだなと思いました。

岩政 前の対戦を思い出しながら、相手の心理を読んで勝負するのですね。攻撃時のセットプレーのときの僕の考え方も同じです。1回目に伏線を張っておいて、2発目に裏をかきます。

小宮山 これで間違いがないと自信を持って動けるときは、うまくいくんでしょうね。半信半疑ではうまくいきません。では、どうやって100%の自信を持てるようにするのか。それには経験を積むしかないと思います。球団はどのタイミングで若手を使って経験を積ませるかを考えていく必要があります。強いチームはその方針を徹底し、ぶれずにやっています。それがうまいのは日本ハムです。かなり前から細かいところまで考えて、選手の年齢構成をみてチームを編成しています。広島もそうです。

岩政 小宮山さんは体の使い方もかなり研究していたのですか。

小宮山 千葉ロッテで臨時コーチを務めたトム・ハウスの教えを受け、体をどう動かせば理にかなっているのかを勉強しました。トム・ハウスはレンジャーズで豪腕投手、ノーラン・ライアンをつくりあげた男として知られています。ライアンは球は速いけれど、制球に問題がありました。そこで球のスピードを落とさずに、制球をよくして、しかも故障をしないようにしたのがトム・ハウスです。

岩政 投げ方が全く変わったのですか。

小宮山 ボールを強く投げるにはどうしたらいいのか。それまでは、体全体を使って、ボールを離す瞬間に最大限の力を伝えるように、と考えていました。トム・ハウスは「それでは無駄な動きをすることになる」と言うんです。ボールを離すまでの動きを順序立ててつなげていって、無駄な動きを省いていきました。それまでは100%の力で100%のボールを投げようとしていたけれど、50%の力で100%のボールを投げるような感じです。しかも故障しないように。

岩政 全身を使うというより、動きを細分化していって、必要なところだけを使うという感じですね。

小宮山 当初は毎日、ケンカをしていましたよ。「そんなんじゃ、力が入らない。速い球が投げられない」と言い返していました。最終的に僕が折れたのはトム・ハウスが「ライアンだって打たれるんだよ。絶対に抑えられるボールなんてないんだ」と言ったからです。そのセリフを聞いて、「このおっさんの言うことを聞いてみよう」と思いました。打たれることを想定して投げるようになったのは、それからです。最初は「こんな投げ方で大丈夫だろうか」と不安でしたが、やってみたら、スイスイいきました。衝撃的でしたよ。力が抜けているので「投げてる感」がないんですよ。爽快じゃないんです。44歳まで現役を続けられたのはトム・ハウスのおかげです。45歳の年にもオファーはあったので、現役にしがみついていたら元中日の山本昌のように50歳までできたかもしれません。

岩政は「ブラジル人が力を抜いて自然体でシュートを打つのにカルチャーショックを感じた」という

岩政 鹿島に入ったときにブラジル人のストライカーがシュートに力を入れていなかったのにカルチャーショックを感じました。日本人は「決めるぞー。オリャー」という感じでシュートを打つのに、ブラジル人は力を抜いて自然体で打ちます。僕もヘディングをするときはグワーッと力を入れていました。でも、体の使い方をいろいろ習っていくうちに、力を入れなくても強いヘディングができるようになりました。動きを極めた人はみな、そうなっています。球際の勝負のときも力を入れなくていいような気がします。欧州のピッチでは、足にグッと力を入れるとズルッと滑ってしまうので、向こうの選手は力を入れていないんじゃないかと思います。中田英寿さんが日本代表の中では1人だけ足を滑らせていなかったのも、体の使い方が違っていたのではないかと思います。

小宮山 体が斜めになっても倒れませんでしたよね。バランスをとるのがうまかった。

岩政 日本の伝統武道でも、力をスッと抜きますよね。日本人は本来、そういう体の使い方がうまいといわれているんですが……。

<対談を終えて>…考える力を身につけないと
 話は尽きなかった。やはり「スマートな方」だった。ここでいうスマートは「頭がいい」という意味だ。
 選手時代に見ていた印象そのままだった。僕は父の影響で毎晩、テレビで野球を見て育った。
 そのころ、僕は緻密で繊細な投球をするピッチャーが好きで、小宮山さんもその一人だった。
 小宮山さんが繰り返してきた試行錯誤は何事にも通じるものだろう。当然、サッカーにおいてもしかりで、伸びていく選手の心理や勝負における駆け引きは学ぶところばかりだ。ここに紹介できたのはほんの一部で、僕はほかにも貴重な話をたくさんいただいた。
 少し驚いたのは、まだ歴史の浅いサッカーの世界だけでなく野球の世界でも、プロに入る選手たちに「考える力」が足りない、という話だ。
 サッカーの世界でもプロに入れるのは小さいときから才能にあふれる選手がほとんどで、僕のように誰からもプロに入ると思われなかった子がプロサッカー選手になるようなことはあまりない。比較すると、才能のある選手は成長過程で大きな挫折を味わうことは少ないのかもしれないが、それでも「考える力」をつけさせることはできないだろうか。
 この根本的な問題にどう対処していくか、は大切なテーマである気がした。僕には、僕程度の才能の選手が日本代表にたどり着けるようではいけない、という思いがある。
 日本代表とは、才能あふれる選手がサッカーをすることで「考える力」も身につけていき、全てを高い次元で持ち合わせた者だけがたどり着けるものであるべきだと思っている。そこまで日本サッカーの底上げができたときに初めて、世界のトップクラスに挑んでいけるように思うのだ。

小宮山悟(こみやま・さとる) 1965年、千葉県生まれ。早稲田大学から89年ドラフト1位でロッテオリオンズ(現千葉ロッテマリーンズ)入り。97年最優秀防御率。2000年横浜ベイスターズに移籍。02年米ニューヨーク・メッツに在籍したが、メジャーリーグでは未勝利に終わる。04年千葉ロッテに戻り、09年限りで引退。日本プロ野球の通算18年で117勝141敗4セーブ7ホールド。現在は野球解説者。14年からJリーグ理事も務める。

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