2017年12月16日(土)

「私の中の日本を再構築」 イシグロさん記念講演

ヨーロッパ
社会
2017/12/8 8:49
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 【ストックホルム=小滝麻理子】2017年のノーベル文学賞に決まった英国人作家、カズオ・イシグロさん(63)は7日、ストックホルムで記念講演を行った。「私にとっての日本を再構築しようとした」ことが最初の長編を書くきっかけだったと発言。世界各地でナショナリズムや人種差別主義が強まっていると懸念を示し「困難な局面を乗り越える上で文学は重要だ」と語った。

7日、ストックホルムのスウェーデン・アカデミーで講演するカズオ・イシグロ氏=AP

7日、ストックホルムのスウェーデン・アカデミーで講演するカズオ・イシグロ氏=AP

 10日の授賞式の前に、創作活動や今の考えを語った。

 イシグロさんは長崎市で生まれ、5歳で英国に移った。24歳のときに英東部ノーフォークで大学に通いながら執筆を開始。題材に悩んでいたとき「突然の激しい気持ちとともに長崎について書き始めた」といい、原爆投下から復興を遂げる長崎を描いた最初の長編作品「遠い山なみの光」につながった。

 英社会で暮らしながらも、幼い頃に触れた日本を思い描いた。日本を「ある意味で自分が属し、アイデンティティーと自信を持つ場所」と表現。「記憶の中の日本が永遠に消えてしまう前に、その色や習慣、礼儀、尊厳、欠点のすべてをとどめたかった」と語り、最初の長編小説に取り組み始めた数カ月がなければ「小説家にはなっていなかった」と話した。

 代表作「日の名残り」や「わたしを離さないで」を書く上で、音楽や映画などを通じたささいな感情が重要な転機になったことも紹介。「小さくて、私的なことが大切だ。突き詰めれば小説とは個人から個人へ感情を伝えることだからだ」と話した。

 世界の今については危機感をあらわにした。英国が欧州連合(EU)離脱を決め、欧州で反移民感情が一段と広まった2016年は「驚きと憂鬱の年だった」と発言。冷戦終結後の格差拡大、イラク戦争の失敗、金融危機などを背景に極右思想などが広がり「当たり前と思っていた自由を重んじる人道的な価値観の拡大は、そうではなかったと認識させられた」と話した。

 その上で「私は文学の力を信じている。この危険な分断の時代に私たちはさまざまな声に耳を傾ける必要がある。良い文学と良い読書には壁を取り払う力がある」と強調。「若い世代の人たちが切り開いてくれると期待しているし、楽観している」と話し、恐れず新しい手段で表現してほしいとエールを送った。

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