2018年4月22日(日)

障害者に職 四方良し
LITALICOとウェルビー

スタートアップ
2017/12/10 6:30
保存
共有
印刷
その他

 2018年4月に民間企業に対する障害者の法定雇用率が現行の2%から2.2%に上がる。だが、法定雇用率を達成している企業は全体の半数に満たない。特に心にハンディキャップを持つ人の就労は、身体障害者よりも遅れがちだ。この問題をビジネスを通じて解決しようとするLITALICO(リタリコ)とウェルビーの2社を取材した。

障害者の就職を支援するリタリコの事業所(横浜市)

障害者の就職を支援するリタリコの事業所(横浜市)

 「自信を持てるようになった」。教育関係の会社で事務職として働く渡辺恵理さん(34)はリタリコで就労支援を受けた日々を振り返る。

 渡辺さんは大学を卒業するころにうつ病を患い、その後に広汎性発達障害と診断された。人とコミュニケーションをするのが苦手な障害だ。「自分より才能がある周囲の学生と比べて悩んでばかりいた」(渡辺さん)

 書店員の仕事に挑戦したが、体調が悪化した。その後、地元の自治体を通じて障害者就労の道があることを知り、15年からリタリコで就労支援を受けることにした。支援期間は約1年。渡辺さんも通い始めてから1年で今の職場に就職した。

 就労支援と聞けば、パソコンの操作やビジネスマナーを思い浮かべる。だが、リタリコワークス横浜桜木町の多田菜津美センター長(29)は「生活のペースを整えることから始める。スキルの習得はその後からだ」と説明する。

 無職の期間が長いと昼夜が逆転した生活を送ってしまいがちだ。特に心にハンディキャップを抱える人はその傾向が強い。渡辺さんもまずは午前9時にリタリコの就労支援の拠点に「出社」するところから始めた。最初は週に2、3回。徐々にその日数が増え、半年後には週5日通えるようになった。

 スキルを身につけた後は就職活動のサポートに移る。履歴書を添削したり、インターンシップ先の企業を紹介したり、面接の練習をしたりするところは、大学生を対象にした就活支援と同じ。違うのは、面接にリタリコのスタッフが同席し、障害の特性や配慮してほしい点を企業の採用担当者に補足して伝える点だ。

 「文章をキーボードで入力するのは苦手だが、数字は得意」「時間はかかるが、作業は丁寧にできる」。就労支援を通じて知った本人の得意・不得意な点を説明する。

 「履歴書を添削するときも『業務を覚えるのに少し時間がかかります』と直したり、『話しかけるときは、まず名前を呼ぶようにしてください』と付け加えたりする」(リタリコの多田センター長)

 17年3月期にリタリコの支援で職を得た障害者は940人。12年3月期の2倍近くの水準だ。支援を始めた08年からの累計では、5千人を超える。支援拠点は全国に65カ所(17年11月時点)あり、約2200人が通う。

 こうした取り組みは正式には「就労移行支援」と呼ばれ障害者総合支援法に基づいている。リタリコは就労実績に応じて地方自治体や国から報酬を得ている。17年3月期の就労支援事業の売上高は前期比6%増の43億円だった。

 障害者の支援は主に社会福祉法人やNPO法人が担ってきた。利潤を目的とする株式会社が行うことへの違和感はないのか。リタリコと同様に、就労支援で収益を得ているウェルビーの大田誠社長(45)は「(我々の方が)スピード感を持って安定したサービスを提供できる」と語る。

 国は就労支援の報酬について、実績に比例させる加算報酬の割合を増やしている。多くの障害者を短期間で就労させるほど、多くの報酬を得られる仕組みだ。この仕組みでは、効率性が求められる株式会社の方が適しているとの考え方が成り立つ。リタリコとウェルビーを利用して就職した障害者の定着率(就職後6カ月)は8割を超える。

 職を得て経済力を持つ障害者が増えれば、行政は福祉に割いている予算を節約したり、重い障害を持つ人への対応に、より多くの人員を充てたりできる。就労支援で株式会社が利益を得れば、行政はそれに課税できる。企業も障害者の法定雇用率を達成し、法令順守につながる。

 支援する会社、障害者、行政、企業の4者すべてにメリットが及ぶ。いわば「四方良し」だ。そして、この状況を持続させるには、就業後も障害者をフォローする取り組みが求められる。

 「自分は1人ではないと感じさせてくれた」。田中誠さん(43)はウェルビーの支援で約4年前から埼玉県内の高齢者施設で働く。田中さんは統合失調症のため、感情の起伏が大きくなることがある。就職後もウェルビーのスタッフが年に1回訪れて田中さんの様子を確かめ、田中さんの上司や同僚に対処法を教えたりしている。

 支援拠点の内装にも工夫を凝らす。オフィスそっくりにしているため「実際に出社しているような気持ちになる」(大田社長)。埼玉県春日部市にある拠点では、営業や事務、広報などの仕事を模した作業を利用者に割り振っており「実践的な訓練につながる」(就労移行支援部の早川貴規エリアマネージャー)

 ウェルビーの拠点は全国に57カ所(17年11月時点)あり、17年3月期に同社を通じて就職した人は前期比57%増の471人に達する。同社の18年3月期の単独売上高は前期比45%増の41億円に伸びる見通しだ。

 心にハンディキャップを持つ人は全国に約400万人いるが、働いている人は少ない。「障害者の間でも就労支援は知られていない」(大田社長)。だが、この現状は四方良しの収益モデルを伸ばす余地が大きいことも示す。

(企業報道部 駿河翼)

[日経産業新聞 2017年12月5日付]

春割実施中!日経電子版が5月末まで無料!

保存
共有
印刷
その他

電子版トップ

関連企業・業界 日経会社情報DIGITAL



[PR]

日本経済新聞社の関連サイト

日経IDの関連サイト

日本経済新聞 関連情報