新監督の意図読み伝達 ハンドボール・永田しおり(下)

2017/12/10 6:30
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2016年リオデジャネイロ五輪の出場を逃したハンドボール日本女子代表は、ウルリック・キルケリーを監督に迎えた。強豪国で指導実績があるデンマーク人は、世界のハンドボールを熟知しているとの触れ込みだった。

ところが就任当初のキルケリーは、メンバー選考で"品定め"に徹していたのか、細かく指示を出さない。指導スタイルも戸惑いの連続だった。キルケリーはめったに選手を叱らない。悪いプレーの中にもいい部分を見つけて「グッド」と褒める。世界の厳しさを知る永田は「このプレーじゃ通用しない」と自らを戒められるが、若手は「これでいいんだ」で流してしまう。

プレーの問題点を積極的にチームで共有している

プレーの問題点を積極的にチームで共有している

「私たち、褒められ慣れていないんですよ」と永田が言うように、日本の選手は子供のころから怒鳴られて育つ。これはハンドボールに限らない。毎日、自分たちを見てくれて、逐一叱ってくれる監督が「いい指導者」だと考えがちだ。

そんな日本の指導者像とは正反対のアプローチで、キルケリーは選手に接してきた。永田は主将の原希美と相談し、キルケリーが「OK」と言っても問題点を流さずに、選手間で指摘し合うようにした。

キルケリーの真意をくみ取ろうと努力もした。「特に英語を勉強したことはない」というが、キルケリーの言葉には常に耳を傾ける。代表チームで長年トレーナーを務める高野内俊也は「彼女のハンドボールリテラシーは高いですよ」と話す。指揮官の意図を感じ取り、チーム全体に伝える永田の存在は、若返った代表の求心力となった。

もしかしたら、この変化がキルケリーの狙いだったのかもしれない。最初のうちは静観を決め込んでいたキルケリーも、大きな大会が近づくにつれて、指導に熱を帯びてきた。選手も指導スタイルを理解し、少しずつではあるが自立するようになった。

「競技知って」五輪を好機に

それでも副将の永田の役回りは変わらない。世界選手権直前の合宿初日、「練習のための練習になっている。世界選手権のための準備にしないと」と永田が若手を諭す場面があった。主将の原は「永田さんが副将じゃなかったら、私はここまでやれなかった」と言う。キルケリーは「永田はディフェンスで知性を発揮してくれる」と、全幅の信頼を寄せる。

女子のハンドボールは1976年のモントリオールを最後に、五輪から遠ざかっている。体育の授業くらいしか、ハンドボールとの接点がない人も少なくない。永田は自らの人生を懸けてきた競技を知ってもらいたいと願う。「見ても、やっても、楽しいスポーツ。知らない人にも、もっと見てもらいたいですね」

2019年の熊本世界選手権、20年の東京五輪とビッグイベントが続く今こそチャンスだ。永田も東京までは現役を続けると決めている。「2年後、3年後にメダルを取れるチームにするために」=敬称略

(スポーツライター 久保弘毅)

〔日本経済新聞夕刊12月6日掲載〕

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