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化学工場また爆発 事故防止、設備以上に人材がカギ

静岡県富士市にある荒川化学工業の富士工場で1日午前、大きな爆発があった。従業員とみられる十数人が病院に緊急搬送され、そのうち60歳代の男性1人が死亡した。可燃性の製品や素材を多く扱う化学工場は、安全規制が幾重にもかかり、厳重な保安体制を敷いている場合が多い。それでも大きな事故が後を絶たないのはなぜか。過去の事例から原因を探ってみる。

三菱化学 鹿島事業所

2007年12月、三菱化学(現三菱ケミカルホールディングス)の鹿島事業所(茨城県神栖市)のエチレンプラントで爆発事故が起き、作業員4人が死亡した。分解炉のメンテナンスの後、空気関連の弁の施錠を怠ったため、冷却用の油が流出し引火したことが原因とみられる。

東ソー 南陽事業所

11年11月、東ソーの南陽事業所(山口県周南市)で爆発火災事故が起き、工場の管理職1人が死亡した。塩化ビニール樹脂原料の生産ラインの塩酸タンクから白煙が上がった直後に設備が吹き飛び、火が付く状況だった。

外部の専門家を交えた事故調査対策委員会が後日まとめた報告書では、運転員が半日前に起きた軽微なトラブルに対処する際に設備を止めて、可燃性の化学品と塩酸が混じった状態を長時間放置したことが原因だとしている。当時の宇田川憲一社長は「混ぜると熱を持つというのは化学の基礎知識。現場力の低下を指摘されても反論できない」と反省の弁を述べている。

三井化学 岩国大竹工場

12年4月、三井化学の岩国大竹工場(山口県和木町)のプラントで爆発を伴う火災が発生、社員十数人が重軽傷を負い1人が死亡した。トラブルを起こした設備の冷却を早めるために、運転員が独自の判断で緊急停止装置を解除したのが原因だった。冷却用の循環水の流れを復旧するための措置だったが、化学反応を制御する窒素の供給まで解除されてしまうことに気が回らなかった。

日本触媒 姫路製造所

12年9月、日本触媒の姫路製造所(兵庫県姫路市)で爆発が起き、消防隊員1人が死亡、従業員ら36人が重軽傷を負った。当時、紙おむつに使われる高吸水性樹脂の需要が逼迫。その原料となるアクリル酸の増産余力を測定するため、通常とは異なる設備運転をしているさなかの事故だった。後日の調査では、特別な場合の運転方法への作業員の知識不足と、温度監視装置の不備が原因として指摘されている。

DOWA 埼玉工場

16年1月、DOWAホールディングスの製造子会社、DOWAハイテック(埼玉県本庄市)の化学品工場内でタンクが破裂し、作業員2人が死亡した。太陽光パネルの導電材に使う銀粉を製造しており、タンクに付着した銀を洗浄する作業をしていた際に事故が起き、有毒ガスを吸い込んだとされている。

問われる現場力

高度経済成長期に整備された化学工場の多くは、建設から数十年が経過しており、事故原因として老朽化が疑われやすい。ただ、過去の事例は、老朽化よりヒューマンエラーに原因がある場合が多いことを示している。

実際、可燃性が高く有毒な物質を多く扱う化学工場には、高圧ガス保安法、消防法、労働安全衛生法などによる厳重な安全規制がかかっており、規制当局による査察が定期的に行われている。定期修理も頻繁で、見た目は古そうでも設備のパーツは比較的新しい。

ヒューマンエラー多発の背景として、3つの要因が指摘されている。第1が世代間格差。化学業界はオイルショックの直後に採用を絞ったため、従業員の年齢構成はいびつだ。現在、ベテラン層は定年退職の時期を迎えているが、そのノウハウを受け継ぐべき中堅技術者の人数が不足している。

第2が外部人材活用の副作用だ。コスト抑制の一環で、協力企業や派遣社員が工場現場の重要プレーヤーになっているケースが多いが、本社と外部人材との意思疎通が十分ではないケースが散見される。

第3が高付加価値製品の増加だ。中東と中国で大型設備の建設が相次ぎ、米国ではシェールガス由来原料の化学工場の建設が増えた。日本の化学企業は汎用品では競争力を維持できなくなっており、高付加価値品を多品種少量生産する取り組みを加速させている。その結果、化学工場はたくさんの設備を何十もの配管でつなげる複雑な構造に変わり、運転員に必要なスキルが激増している。

12年の東ソーの事故以降、化学会社は業界を挙げて安全マニュアルの見直し・拡充、教育機能の強化に取り組んでいる。しかし、事故を完全になくすのは難しい。地道で継続した安全対策が必要だ。

(石塚史人)

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