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フランスに善戦 ラグビー日本代表の進歩と懸念

ラグビー日本代表が11月のテストマッチ3試合を終えた。結果は1勝1敗1分け。その中には強豪フランスからの初の引き分けも含まれる。日本にとって2019年ワールドカップ(W杯)に向けた明るい材料が多く出たが、なお残る課題への懸念も入り交じる。

フランス戦の前半、突進するリーチ(中央)=共同

23-23で引き分けたフランス戦は、ジェイミー・ジョセフヘッドコーチ(HC)就任後の10試合で最もよい内容だった。11月を通して圧巻のプレーを見せたFB松島幸太朗は「全てが自信になった」と話す。

苦しんできたセットプレーは改善した。ラインアウトは後半2度の勝負どころのミスは痛かったが、長いボールを多用するなどの工夫が奏功。身長差の割にはボールを確保できた。

ラインアウトからのモールも平均体重で4キロ強重いフランスFWの押しに耐えた。大胆に人数を割いたほか、「空中で競った後、すぐに切り替えてディフェンスに入るところがうまくいった」と姫野和樹は話す。

マイボールのキックオフではSOトゥランデュクに向けて高いキックを上げ、リーチ・マイケル主将らが猛追。トゥランデュクを密集に巻き込み、キックが苦手なFBスペディングに蹴らせることで敵陣での攻撃機会を得た。「プラン通り」とリーチは胸を張る。

若手も伸びた。SH流大は得意の速い球さばきのほか、密集で重圧を受けたときの対応も向上。代表デビューを果たした姫野は突破力に加え、密集戦でも好プレーを連発した。複数ポジションができるのも強みで、フランス戦ではフランカー、ロック、フランカー、ロック、フランカー、ロックと5度もポジションを変えて奮闘した。

攻守の新戦術、徐々に浸透

10月から導入した攻守の新戦術もややこなれてきた。最初のトライは左のラインアウトから右、左と大きく攻撃。速い球出しで防御が崩れたとみるや、流が決めごとを破ってすぐに左の狭いスペースへ展開。SO田村優の球をはたく美技から、フッカー堀江翔太が仕留めた。組織と個が融合した見事なトライだった。

10月の世界選抜戦と11月4日のオーストラリア戦では攻守ともにかなり粗かったことを考えると、2週間後のトンガ戦と続くフランス戦での挽回はやや驚きでもあった。急速にチームを立て直せた背景には、2つの理由があったように思う。

一つはジョセフHCの指導が柔軟性を増したこと。

フランス戦の日本は自陣からどんどんパスを回して攻めた。流れの中でのキックの頻度はパス13回につき1回。ジョセフHCの就任後はパス5回ほどに1回は蹴っていたから大きな変化。15年W杯の日本の平均値、パス10回につきキック1回も上回る。

「ボールをキープすることにこだわった」とジョセフHC。あまり前に上がらないフランスの守備に合わせたためでもあるが、結果的に松島ら日本の武器であるバックスのスピードを存分に活用できた。

ジョセフHCが1年間こだわってきたキック戦術の精度自体は徐々に上がってはいる。ただ、もともと日本の苦手分野だから完成度はまだまだ。トンガ戦でもキックミスからカウンターのチャンスを何度も与えた。

「キックするか、ボールを持って攻めるかのバランスは絶妙でなければならない」とHC。今から戦術の大枠を変えることはないだろうが、パス主体の攻撃が奏功したフランス戦の結果を受け、キックの使い方をより弾力的に考えていくのだろう。

ジョセフHCは目の前の試合に臨むアプローチも変えた。6月に主力の一人が話していた。「ジェイミーは(中長期的な)ターゲットをつくるのが嫌い。『1試合1試合に勝ちたい』という」。よくいえば常に全力投球。悪くいえば選手がW杯までの道筋をイメージしにくい。

9月の代表候補合宿。ジョセフHCはW杯までの2年間の計画などを選手に語った。今回のテストマッチの前には「これは19年W杯に向けたステップだ」とスピーチもした。「初めての試みだった。今までは日本の選手をあまり把握できなかったからできなかったが、今は理解が進んだ」とHC。より大きな目標を意識させた方が日本には向いていると判断し、流儀を変えたようだ。

エディー・ジョーンズ前HCとの比較を嫌がってきたジョセフHCだが、今秋からは前任者の手法も取り入れた。ジョーンズ氏が開発に関わった体調管理用のアプリを再び採用。選手の疲労度の確認などに生かしている。

代表デビューした姫野(右端)は突破力に加え、密集戦でも好プレーを連発=共同

フランス戦での善戦のもう一つの理由は、選手自身の自主性だろう。

新戦術を加えた組織守備が一例。豪州戦までは味方の人数が少ないのに前に上がり、外側を抜かれる場面も多かった。フランス戦では前に上がるときと、その場で待つ形との併用が比較的うまくいった。コーチ陣の指示ではなく、選手自身の発案からなされた修正だった。

「(6月の)アイルランド戦や豪州戦で大差で負け、何かを変えないという気持ちがみんなに芽生えた。フィールド外での準備する姿勢が一番変わった」。流は話す。選手が自主的にミーティングを増やした結果、守備の微修正が可能になった。

前に出る守備そのものの成熟度も高まり、防御ラインの凸凹は減った。「ディフェンスが5週間でここまで仕上げられるという自信になった」とプロップ稲垣啓太。「理解力や順応性は僕らの色だと思う」と堀江も言う。

出番に恵まれない選手の献身

試合に出られない選手も下支えした。「(試合の登録から外れた)ノンメンバーが相手の分析を一生懸命してくれて、メンバーがやりやすいイメージをつくってくれた」とリーチ。11月の3試合で出番のなかったフッカー日野剛志らが中心となり、相手のラインアウトなどを研究。弱点などを仲間に伝えたという。

選手による組織守備の微修正と、出番に恵まれぬ者の献身。15年W杯の日本代表にもあった光景だ。その美徳が今も継承されているのは喜ばしいことである。

自主性という意味では、サンウルブズで培ったものも大きかった気がする。参入初年度の16年はスクラムコーチすら不在で、選手が組み方などを考えた。今年はジョセフHCの意向で参加メンバーがネコの目のように交代。選手は短期間で連係を練らなければいけなかった。

ジョセフHCは選手の休養期間が取りにくくなったことを理由に「サンウルブズと日本代表がウィンウィンの関係ではなく"ロストロスト"になっている」と嘆くが、レベルの高い試合を多く経験できるようになったことも併せ、スーパーラグビー参戦の効果はある。

この秋に見られた明るい兆しの一方、手放しで喜べないところもある。フランスはもともと波の激しいチームだが、今回は底に近いところに当たっていた。

日本が相手の力を出させなかった面も大きいが、フランス側の事情もある。先発はデビュー組2人を含む1軍半の陣容。ノベス監督も解任が既定路線で、新聞紙面で後任候補が何人も挙がっていた。求心力を失った指揮官のもと、攻守において意思統一はなされていなかった。

フランス戦の引き分けは過去の9戦全敗からみると半歩前進だが、勝ちきったわけでもない。選手自身が一番よくわかっている。「みんな引き分けで満足していないのが非常にうれしかった」と堀江。今の日本はW杯で史上初の8強を目指すチーム。勝利をつかんだわけでもないのに過度にたたえるのは、かえって失礼だろう。

「課題は山積み」とジョセフHCも言う通り、中身を見れば不安要素もまだ多い。

筆頭はストレングス・アンド・コンディショニングと呼ばれる体づくり。15年W杯の日本の3勝は、強豪国とのFWの平均体重の差を10キロから5キロほどまでつめ、同時に体力も向上させたことが大きな要因だった。

就任1年を経た今、ジョセフHCもその重要性を認識する。「フィットネス(持久力)は強豪国と比べて30%劣っている。ストレングス(筋力)も足りない」。秋からは練習メニューを選手に渡し、所属チームでも体力トレーニングを要求。来年のサンウルブズでも最初の数週間を主力の休養と体力づくりに当てる方向だ。

具体的な取り組みが始まったのは素晴らしいが、その内容はまだまだ十分ではない。

イングランド監督に転じたジョーンズ氏も「フィットネスが20%足りない」と宣言。国内外の専門家3人を新たに呼ぶ方向という。強豪国を追う立場の日本も、負けないほどの専門家を呼びたいところ。

ジョセフHC(中央)は年が明けると、サンウルブズのHCも兼任する=共同

コーチ、スタッフ陣の組閣は懸案の一つになっている。10月の来日後、指導力を見せているジョン・プラムツリー守備コーチ。「ジェイミーが多くの人に(コーチを)頼んだが断られ、私が最後の選択肢だった。自分は個人の成長のために日本に来ていて、来年はどうなるかわからない」と話す。来年の来日がかなわぬなら後任探しが急務になる。

ラグビー界有数の人脈を持ち、各国から一流の人材を集めたジョーンズ前HCと比べるのは酷ではあるが、現体制では日本とジョセフHCの母国ニュージーランドからしか人を呼べていない。

一部の選手はメンタル面をサポートするトレーナーの必要性をジョセフHCに直訴したが、必要性を認識してもらえなかったという。19年W杯は初の自国開催。ナショナルチームへの関心が高くお祭りごとが好きな国民性から、日本代表への注目度も大会直前に急速に高まるはず。選手やHCには未体験の重圧がかかる。

重圧を打ち破ることはスポーツの醍醐味の一つだが、それは万全の準備を施して初めて可能になる。何らかの対処法は必須に思える。もっともコーチ、スタッフ陣の組閣はHCに頼るのではなく、本来は日本ラグビー協会の強化委員会がもっと支援すべきところなのだが……。

長期的計画づくりがカギ

もう一つ気になるところも。フランス戦の後、堀江は「選手が考えることではないし、上がプランニングをしているんじゃないですか」と言いつつ「あまり早くピークが来ると(W杯までに)下がっちゃう」と指摘した。

トンガ戦、フランス戦では、選手の動きが6月の3試合より明らかによかった。試合前1週間の調整法を変えたことが奏功している。従来は水曜に休養を取った後、木曜に激しい練習。今回はこの2日の順番を入れ替え、週ごとに改善を加えた。試合前に十分な休みを取れたことで「すごく体にフィットして、コンディショニングはとてもよかった」とリーチは言う。

日本は6月、アイルランドに連敗。この秋はある程度の結果を出さないとチームの根幹が揺らぐ状況だったから、調整法の修正は時宜を得ていた。ただ、W杯までを見据えるとこの方向性だけでは足りない。

15年W杯までの4年間は試合2日前まで猛練習を継続。今回のフランス戦のような大一番の前は強度を落としたが。短期と長期の両方の目標を見据えた計画づくりが絶妙だった。「今だけじゃなくて2年後のための練習も続けていかないといけない」とある選手も言う。

スーパーラグビーでの優勝経験があるジョセフHCは年間のスケジュール管理は慣れているが、4年単位のプロジェクトであるW杯は初めて。長期的な計画づくりは本番までのカギとなりそうだ。

年が明けると、ジョセフHCにとって新たなチャレンジも始まる。サンウルブズのHCも兼任。「サンウルブズと代表が同じスタイルになると思う。いい判断だった」と稲垣が歓迎するとおり、サンウルブズ創設当初の理念に沿った体制がようやく整う。

ただ、複数の要素を組み合わせ、代表とサンウルブズの双方にいい結果を導くのは簡単ではない。選手の体調管理に体づくり、戦術の成熟、目の前の勝敗……。HCだけではなく、日本ラグビー協会がどれだけ本気でサポートできるかにも懸かっている。

(谷口誠)

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