リンドファーマ 心臓再生、救いの飲み薬

2017/11/30 6:30
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6月に設立された大阪大学発スタートアップ、リンドファーマ(横浜市)は体の組織を再生する飲み薬の開発を目指している。原因がよくわかっていない難病の心筋症がターゲット。医薬品開発をサポートする国の日本医療研究開発機構から資金を得て、移植に頼らない医療へ動き始めた。

リンドファーマは阪大で実験し、心筋症への応用を目指す小野薬品工業と開発契約を結んでいる

リンドファーマは阪大で実験し、心筋症への応用を目指す小野薬品工業と開発契約を結んでいる

心筋症になると筋肉が薄くなり、心臓のはたらきが衰える。息切れや動悸の症状があらわれ、ひどい場合は死に至る。

進行を抑える薬をのみ、最後の切り札で心臓移植を受ける人が多い。酒井芳紀社長は「移植を受けられる患者はひと握り。しかも多くは渡米し何億円も払う。そんな患者を救いたい」と話す。

基本のアイデアは自然治癒力を生かすこと。一般の薬のように低分子化合物を活用。たんぱく質でできた「再生因子」をたくさん分泌させる。

再生因子には血管内皮細胞増殖因子や肝細胞増殖因子がある。体が傷付くと通常、その場所からこうした再生因子が出て細胞分裂などが起こり、組織がつくられる。

人間の体内では、傷付いた場所でプロスタグランジンという物質が作られる。それが周囲の受容体に結びついて刺激し、再生因子が出てくる。リンドファーマが開発している化合物は、プロスタグランジンの代わりに受容体に結びつく。

プロスタグランジンは分泌されて数秒から数分で消えてしまう性質がある。同社の化合物は分解されてすぐ消えてしまわないよう、原子の集まりである官能基を独自の構造で組み合わせてあり、4時間持つ。生分解性樹脂に含ませれば、再生因子の放出効果を4週間持続させられるという。

注射、シート、飲み薬での開発を念頭に置いている。飲み薬は体の中の傷んだ場所を見つけて作用することが期待されているが、心臓以外の場所への影響などを確かめる必要がある。

阪大と同社は機構から4億円を超す資金を得た。効果を確かめるため、2016年12月にまず心臓に貼り付けるかたちで医師主導の臨床試験(治験)を始めており、19年春に終える予定だ。

リンドファーマの酒井社長

リンドファーマの酒井社長

酒井社長は同社の取締役にアステラスの青木初夫元会長ら2人、顧問に小野薬品工業の松本公一郎元会長ら3人を迎えた。開発拠点がある阪大の医師らが協力する。

リンドファーマの化合物の名は「ONO-1301」。小野薬品でかつて作られたものだ。

小野薬品は以前からプロスタグランジン製剤の開発に定評があった。1990年代、血管の詰まりを防ぐ抗血小板薬として使おうと、この成分の治験を行っていた。だが、低血圧など副作用が出て開発を断念した。

このプロジェクトを率いていたのが酒井社長だった。開発中止後も会社で細々と研究していたところ、組織再生の効果を発見した。そんななか、阪大に来ないかと誘われた。声をかけたのは沢芳樹教授。世界初となる心筋症の再生医療製品「ハートシート」をテルモと開発した。酒井社長は定年後に阪大へ移った。

ハートシートでは、心筋に貼り付けたシートの細胞から再生因子そのものが放出される。1301の場合、再生因子が分泌されるようにうながす点がやや違っている。

沢氏は、自身が開発に携わったハートシートと競合するはずだが「ハートシートと同じ効果を低分子化合物で実現できるなら素晴らしい」と、心臓血管外科の重要プロジェクトに位置づけた。

実現できるかどうかは研究次第だが、成長を目指してがん免疫薬「オプジーボ」の次を求める小野薬品がすでに今後の開発契約を結んでいる。

酒井社長は1301の用途について、炎症や線維化が関わる疾患にも有効と期待する。線維化とは、炎症の後にコラーゲンなどが増え異常な組織に変わること。1301を使うと、主に肝細胞増殖因子の作用で線維化組織がもと通りになる傾向が見られるという。

線維化が関わる疾患は有効な薬がないため開発競争が激しく、創薬研究のキーワードになりつつある。例えば肝硬変、非アルコール性肝炎、肺線維症、慢性腎疾患だ。酒井社長はいずれにも「動物実験レベルで有効性が確認できた」と語る。

同機構が15年に開いた製薬企業との面談会で、リンドファーマの複数の開発ターゲットに延べ16社が関心を示した。

調査会社シード・プランニング(東京・文京)は世界の30年の再生医療市場を15年の106倍にのぼる12兆8000億円と試算した。米国を軸にアジアでも需要が高まると見込まれている。

世界市場をみすえた再生医療スタートアップは他にもある。九州大学発のサイフューズ(東京・文京、川野隆清社長)は血管や神経の再生に焦点を定める。本物の細胞の塊を積み重ねて組織を作る独自の3Dバイオプリンターを駆使する。糖尿病患者の末梢(まっしょう)血管向けに19年度にも治験を始める。

国内で承認された数少ない再生医療製品は、心筋シートなど薄い平面状のもので、培養液に浸して栄養を行き渡らせる。ただ、厚さ1ミリ程度でも無数の細胞が重なってできているため、内側の細胞まで栄養が届きにくい課題がある。

同社の装置は細胞を積層する最中、組織全体に培養液が触れるよう工夫。長い血管を作る場合、短い血管を複数作ってつなぐ。17年11月、富士フイルムなど8社から計11億円を調達した。

再生医療は難病患者に恩恵をもたらし、病気の進行の抑制でなく治癒させるため医療費を抑えられると期待されている。そんな再生医療スタートアップの技術がどこまで実用化されるかはわからない。いま確実に言えるのは、既存の医療を変える挑戦があちこちで生まれているということだ。(野村和博、川上宗馬)

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