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創業時の苦難越え、働き方革命 チャットワーク・山本氏

働き方改革が進むなか、社員の情報共有ツールとして業務の効率化に役立つビジネスチャット。同サービスの草分け、ChatWork(チャットワーク、大阪府吹田市)の山本敏行社長(38)は、自社でも社員が働きやすい環境づくりを徹底する。創業当時、自らのモーレツぶりについていけず同志が次々に辞めていった苦い記憶が原点だ。

高校生で月20万円のビジネス

チャットワーク社長の山本敏行氏(38)

チャットワークは大阪発祥だが、米シリコンバレーにも開発の本拠を置く。山本氏は「大阪から世界に通用するIT(情報技術)企業に」と米国に居を移した。

提供する「チャットワーク」は一対一のほか数人のグループ間でもやりとりができる。「LINE」のようにメッセージが相手に読まれたことを示す「既読」表示を使わないのも特徴。返信しなくては、という精神的な負担を軽くした。

ファイル共有やビデオ会議の機能もあり、在宅勤務の社員も社内と同じやり方で仕事を進められる。サービス開始から6年で顧客は205以上の国・地域に広がり、15万3千社が導入している。

山本氏が起業を志した高校時代。父親も音楽スタジオを運営する起業家だったため、「将来は漠然と社長になりたいと考えていた」。「社長」と書かれた湯飲みを使っていたこともある。高校時代は在宅でできる仕事をエクセルのリストにまとめて求職者に紹介するビジネスを始め、月20万円を稼いだ。

「大学卒業までに何かビジネスで成功したい」。山本氏は留学先の米ロサンゼルスで2000年、日本の中小企業向けにホームページ作成などを手掛ける会社を立ち上げた。手応えを感じていたが、家業を継いでほしいとの家族の意向で帰国。音楽スタジオを手伝いながら、卒業後の04年に地元大阪で法人化した。

当時、社内の情報共有に使っていたのがチャットだった。「お疲れさまです」など定型文を毎回打つ必要もなく、文章が簡単でメールより早い。やりとりの履歴が一目で分かるため仕事の管理もしやすい。メールがまだ一般的な日本でビジネスを本格的に展開すれば、商機があると感じた。

11年に「チャットワーク」の販売を開始。「メールの時代は終わりました」と強気のメッセージを打ち出し、注目を集めた。チャットサービスは当時、米マイクロソフトなどが先行していたが、ビジネス用途に的を絞って開発した。

12年にはシリコンバレーに拠点を開設。日米の開発チームが連携してインターフェースやサービスを磨いていった。

創業メンバー3人が退職

経営者としての転機は会社設立後に訪れた。ITサービスを中小企業向けに提供していた頃、創業メンバー5人のうち3人が次々と退職した。山本氏自身はただがむしゃらに働いていたつもりが、振り返ると週6日勤務、残業は当たり前、月給20万円といわゆるブラック企業になっていた。

10月に移転した新オフィスの机はそれぞれ社員が手作りした。

事業拡大だけでは組織が持たない――。経営者として必要な心構えを得ようと、1年間で1000人の経営者を訪問し、自分に何が足りないかと問い続けた。物事の結果は自分に原因がある「原因自分論」など、先輩らの言葉を一つ一つ心に留めた。そして優れた経営者に共通するのが「社員を大切にしている」ことだと気づいた。

「働き方改革のツールであるビジネスチャットの提供会社として、最も働きやすい会社になる」。山本氏はそう考え、社内の働き方改革を徹底する。1年間に3回、10連休が取れる「長期休暇制度」、実家へ帰省する費用を一部負担する「ゴーホーム制度」、上司とランチに行くと食事代が支給される「ランチトーク制度」――。

「絶対に社員を辞めさせたくない」という信念のもと、楽しく働く行動指針も設けた。「ノーイライラ&メイクユーモア」「ノージャブジャブ&トリプルワクワク」。山本氏が自ら命名した。

このユニークな名前の指針は今年10月に開設した東京の新オフィスの会議室の名前にもなっている。「今日の会議はワクワクで」。部屋の名前を伝えるだけで、自然と社員から笑みがこぼれる。

笑いを重視するのは生粋の関西人ならでは。「自然体で笑っていると、色々な道がひらく気がします」。会議の始めには1つ2つの笑い話を欠かさない。日本を飛び出し世界中の働き方を効率的に変えるため、今日もノーイライラの精神で駆け抜ける。

(大阪経済部 土橋美沙)

[日経産業新聞 2017年11月29日付]

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